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5話 感染者

 数日前――

 西門でロジェと別れたエルトンは、光聖教会前の広場まで戻って来ていた。

 光聖教会前の広場


「はぁはぁ……はぁはぁ(体が……重い……頭が……痛い……)」

 息遣(いきづか)いの荒いエルトンが、右手でこめかみを抑えながら、フラフラと歩いている。


 教会前を友人達と歩いていたミルトがヨロヨロと歩く兄を見つけた。


(あれ? 兄さん……何だか様子が変ね……凄く具合が悪そうだわ……)


「兄さーん」

 エルトンに声を掛けるミルトだったが、エルトンの足取りは益々重くなっていった。


「みんな、ごめん。今日は帰るわ。また明日」

 エルトンの様子を心配したミルトが友人達に手を振りると、エルトンに駆け寄って行く。


「兄さん? どうしたの? すごく体調が悪そうよ……」


 エルトンはミルトの声に気付くとうつろな目で話し出す。

「ああ、ミルト……今帰りかい? 少し頭が痛くてね……」


 今にも倒れそうな兄の姿に、心配したミルトはそっと肩に手を添えた。

(熱い!?)


 兄に触れた手から異常な熱を感じるミルト。

「(体温が高い……)兄さん、急いで宿舎に戻りましょう」


 ミルトは急いで兄を宿舎に連れて行くと、ベッドに寝かせた。

 エルトンはベッドに横になると、意識を失うようにすぐに眠りにつく。


 熱にうなされ、苦しそうなエルトン。


(ひどい熱……お医者様を呼んだから、もう少しの我慢よ、兄さん……)

 ミルトはエルトンの手を握り、医者が来るのを待ち望んでいる。


「ドン、ドン、ドン」


「エルトン殿!!」


 激しくドアをノックする音が響き渡る。


 驚いたミルトだったが、頼んだ医者が来てくれたのだと少しホッとしていた。


(やっと、お医者様が来てくれたのね……)


 ドアを開けると、顔全体を白いマスクで覆った医者らしき者と、同様の恰好(かっこう)をした衛兵が立っている。


 ミルトが話し始める前に、医者らしき者が口を開く。

「エルトン殿はどちらか?」


 勢いに押されたミルトが兄の場所へ案内する。

「こ、こちらになります」


 医者はミルトを離れた場所に待たせると、診察を始めた。


 何が起きているのか分からずに不安な表情のミルトに衛兵が説明を始めた。

「先ほど、エルトン殿が疫病エイフルに感染している可能性があると情報が入ったのだ」


 ミルトは驚きのあまり、口を手で覆っている。

「エイフル……」

(あの異常な発熱は……エイフルのせいなの……)


 診察を終えた医者がミルトに近づく。

「残念だが……君の兄さんはエイフルに感染しているよ……」


 ミルトの表情が強張っていく。

「そうですか……それで、兄さんは助かるのでしょうか?」


「エイフルの特効薬を飲ませたところだから、明日の朝には熱も下がっているだろう。念のため、君も検査を受けておきなさい」


 医者の言葉に安心したミルトは、肩の力が抜けるように床に座り込んだ。


「そうですか、ありがとうございます」

(兄さん、大丈夫……すぐ元気になれる……良かったわ……)


 検査を終えたミルト。


「あなたは感染していないようだ」

 医者から告げられた言葉に安心するミルトだったが、兄の事を考えると喜ぶことは出来なかった。


「残念だが、兄さんの看病は出来ないよ。何かの弾みで感染する場合もあるからね」


「そうですか……分かりました。先生、兄の事、よろしくお願いします」

 ミルトは丁寧に医者に頭を下げた。


「明日の朝、また、兄さんの様子を見に行きます」

 そう告げたミルトは、再度、医者に頭を下げると不安げな表情で自身の教会宿舎へと帰って行った。



 翌朝

 ミルトが兄エルトンの部屋に入ると、昨夜と同じようにエルトンは寝ている。


「兄さん?」

 声を掛けるミルトだったが、返事は無かった。


「……兄さん!!」

 心配したミルトが兄の額に手を当てると、昨夜と同じように異常な熱を感じた。


(熱が下がっていない……)


 ミルトは、急いで宿舎を出ると医者を呼びに走った。



 それから二日が経過する――


 エルトンは光聖教会にある病院施設で隔離され治療を受けていたが、回復の兆しは見えなかった。


 医者に呼ばれたミルト。

「大切なお話があります。ミルトさん、気をしっかりと持って聞いてください」


 ただならない医者の様子に、静かにミルトはうなずく。


「……お兄さんが感染しているエイフルですが……流行初期の原種株で、今の特効薬では、残念ながら治すことが出来ません」


「そんな……それでは、兄はどうなんるのですか? 兄は……兄は……」


「残念ですが……打つ手が無いのです」


「……でも、エイフルは、治る病気では無かったのですか!」

 声を荒げて医者に詰め寄るミルト。


「エイフルは、流行の時期により形を変えて来ました。お兄さんが感染した物は、現在とは全くの別の形をしていて……薬が効きません」


「そんな…………何か、何か方法は無いのですか……先生、お願いします……先生、先生」

 必死に医者に詰め寄るミルト。


 医者は何かを考えるように黙りこむと、険しい表情で口を開いた。

「ただ一つだけ方法があります……それは、原種株に効くインカ草で薬を作ることです。ですが……現在では、どこにあるのかさえ分かっておりません……」


 兄の死刑宣告ともいえる言葉が、重苦しい部屋に冷たく響いた。

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