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1話 釣りと冒険者

 湖の畔ほとりで釣り竿を持ち、暇そうにあくびをしながら、釣り糸を垂らしている男がいる。


 茶色の髪に端正な顔立ち、細身に見えるがよく鍛えてある引き締まった身体。

 重々しい鎧ではなく、身軽に動ける軽装な鎧。

 腰には伝説の武器とはほど遠い、そこらの武器屋に売っている剣を差している。


 この何とも締まらない男は誰なんだって……

 そう……その答えは、もちろんこの俺、剣士のロジェ・デュンヴァルトだ。


 剣士といったが、城を守る剣士や、伝説の勇者なんかじゃない。

 『ただ』の冒険者だ。


 冒険者と言うのは、ギルドに所属して、依頼を受け、達成したら報酬を貰う仕事だ。

 まぁ、簡単に言うと何でも屋だな。



 そんな何でも屋……改め、冒険者である俺が何をしているのかって?


 釣り糸の先

 水辺に垂らした浮きが、気持ちよさそうにプカプカと浮いている。


 ……それはもちろん、見ての通り……釣りだ。


  かれこれ数時間経つ、が……全然釣れない……


 そもそも……

 なぜ冒険者の俺が釣りをしているかだが、その話しは昨日に遡さかのぼる……



 魔族が住む魔大陸と人間族が住むヒュー大陸。

 ……『魔族』や『人間』と言っても、遠い昔に戦争は終わり、長い間世界は平和だ。


 まー……平和と言っても魔物は出るから、討伐の依頼なんかも冒険者ギルドに入って来る。


 その魔大陸とヒュー大陸のちょうど境界に位置する町、グレース。

 その町の冒険者ギルドに俺は所属しているのだが……




 酒場のような冒険者ギルドで、端っこのテーブルに突っ伏して寝ている一人の男いた。


「ロジェ、ロジェ……起きろ!! ロジェ」


 俺の耳元で大声を出すこの赤い髪の女性はジェマさんだ。


 この冒険者ギルドで唯一の受付兼案内役。


 紅一点で見た目も……まぁ美人だし、スタイルも良いから、人気もあって、そこそこモテる。

 俺には何が良いのか分からないが……


 ここのギルドマスターが、ドケチなバーさんだから、人手は足りてないのか、いつも忙しそうに働いている。


 ロジェはゆっくりと目を開けると、ふぁぁーっと大あくびをした。


「……どうかしたの、ジェマさん。俺に何か用か?」


 ジェマは呆れた顔をしながら、大きなため息をついていた。


「はぁぁぁぁぁぁ――あのねぇ……どうかしたのか、じゃないわよ。こんな昼間から酒呑んで寝てないで、依頼でも受けたらどうなの?」


 眠そうな顔で薄目を開けながら答えるロジェ。


「いや……でも、俺が出来る依頼が無いんだよ」


「あんたねぇ。そう言って毎日ここで寝ているだけじゃない。一人クエスト専門のあなたにも、依頼はあるわよ」


「……そりゃ、探せばあるだろうけど……最近は魔物が増えて、危険な討伐依頼を一人で受ける事が禁止になったから、俺は出番が無いんだよ」


 さらに呆れた様子のジェマ。


「……魔物討伐だけが依頼じゃないわよ」


 大きな胸の前で腕組をしながら怪訝な顔でロジェを見下ろしている。


「そうね……しょうがないわね……あなたのために、私が依頼を探してきてあげるわ」


「えっ、ちょっとジェマさん!」


 ジェマはプイっと振り向くと依頼書がある掲示板にヒールを鳴らしてカツカツと歩いて行った。


 掲示板に近づくと鋭い眼光で端から端まで、じっくりと依頼を眺め初めるジェマ。



「これなんて良さそうね」

 一枚の依頼書をゆっくりと手に取ると、ロジェのもとに戻ってきた。


「この依頼、良いんじゃない?」


 ジェマはDランクの依頼書を見せた。


 ロジェはジェマから依頼書を手に取ると端から読み始める。

「えっーと……食材漁獲得依頼『魔大陸にあるメルノワ湖でに生息する魚、マースの漁獲依頼』えっ…………これを……俺に?」


「そうよ!! 魔大陸のメルノワ湖だからDランクの依頼だけど一人クエスト可能だわ!!」


 いくら暇だからって……釣り……か……


 しかめっ面をしているロジェ。


「いや、無理だよ。そんな依頼、絶対に嫌だね!!」


 ロジェは不満気に吐き捨てると依頼書をテーブルにプイっと投げた。


 ジェマはロジェの態度が頭にきたのか、眉間にシワを寄せ睨みロジェの顔のすぐ目の前に顔を近づけて凄んだ。


「あんた……わがまま言うんじゃないの!! 私が選んだのだから、やりなさい!! それに、『そんな依頼』? あんたねぇ、依頼者は困っているから依頼してるの!! 依頼に大きいも小さいも無いのよ!!」


 無茶苦茶だ……依頼には、大きいも小さいもあるだろうよ……


「……いや、だからって……釣りだろう? 無理だよ……道具無いし……」


「道具…………道具があれば、いいのね?」


 ジェマは何かを思い出したかのように、カウンターの奥に戻って行った。


 カウンターで何やらゴソゴソと探しているジェマ。


 棒のような物を手にするとロジェの席に笑みを浮かべて戻って来る。


「ふっふっふ……道具なら、これを貸してあげるわ」


 ジェマは勝ち誇ったかのような笑顔でロジェの前に釣り竿を差し出した。


「この釣り竿はオリハルコン製で、糸は最高に頑丈なスパイダーワイヤーを使用しているわ。リールもあるし、針だってもちろん、オリハルコン製よ」


「!? なんだ、その伝説の武器みたいな釣り竿は!!」


 ロジェは眩まばゆく輝く釣り竿に驚いていた。


「よく分からないけど……その昔、釣り好きのドアーフが作ったらしいわよ。マスターが貰ったらしいけど……あの人、釣りに興味ないから……こうして、貸し出しているのよ……噂によると、この釣り竿で、ドラゴンも釣れるらしいわよ……」


「…………」


 ロジェは呆気に取られていた。


 ジェマが顔を近づけてロジェに圧力を掛ける。


「じゃぁ、決まりね!! 早速、明日、メルノワ湖に行きなさいよ!! 分かったわね」


「…………はい」


 ロジェは渋々、返事をするのだった。




 ……ということで、俺は依頼を受け、釣りをしているわけだ。


 天気は良いし、魚は全く釣れない……ただただ眠くなってくる……


 ロジェは大あくびをしながら、ウトウトし始めた。


 そんな時、水面に垂らしている浮きがピクピクと波を打って動き出した。


 ……ん? 何か釣れたか?


 眠たい目を開け、釣り竿を握った。その瞬間、勢い良く竿は引っ張られ、大きくしなっている。


「よっしゃー、大物だー!!」


 ロジェは負けじと竿を引っ張りながら、リールを巻いていく。


 魚は湖を左右に暴れながら、釣られまいとバチャンバチャンと抵抗している。


「くそ……しぶとい」


 竿をしっかり握り、ゆっくりとリールを巻きながら、徐々に自身に寄せていった。


「もう少し……今だ!!」


 魚は疲れたのか抵抗が弱くなってきたタイミングで、一気に竿を振り上げた。


 ズヴァン、大きな水しぶきと共に、水面からは巨大な魚が飛び出した。


 ロジェは満足そうに宙を舞う魚を見ている。


 ――あれは、マースで間違いない。デカい……1.5ヤードはあるぞ……依頼達成だ!!


 その時、上空からマース目掛けて飛来する影が近づく。


 なんだ!?


 ロジェが身構えるより前に、巨大な鳥が直滑降でマースを咥えると飛び立った。


 マースに掛かっている釣り竿を握ったままのロジェも、空高くに連れ去られていた。


「なんだ、こいつは……」


 ロジェはビュービューと唸る向かい風の中、何とか目を開けて様子を伺うと、巨大なクチバシにマースを咥え、頭に一角が生えた鳥を目にした。


 こいつは、鳥の魔物……エイホークじゃないか……


 左手一本で振り落とされないように竿を握りしめるロジェ。


 エイホークは鋭い爪で邪魔なロジェを振り落とそうとするが、運よく爪は届かない。


 目の前に背の高い木が見えた。


 エイホークはロジェの体を木に激突させようと木に向かって飛んで行く。


 これだ!!


 木に激突する瞬間、ロジェは両足で枝を踏み台にし、木の反動を使い、エイホークに向けて大きくジャンプした。


「このぉ、これは俺の獲物だぁーー」


 エイホークの頭を目掛けて右拳を叩きこんだ。


 たまらず、咥くわえていたマースを離したエイホーク。


 よっしゃー!!


 ロジェは空中で、高らかに手を挙げた――が……そのまま、落下していく。


 しまった!? どうしよう……


 無情にも落下していくロジェ。


 このままでは……地面に衝突する……


 防御姿勢を取ったロジェが地面に衝突すると思われた時、ズザァザァザァザァァと樹々の掠れる音と共に、急激に落下速度が落ちていった。


 ロジェは態勢を整え、無事に地面に降り立つ事ができた。


 ……助かった……


 上空を見ると、マースが樹々にぶつかり引っかかっていた。


 この魚がブレーキになって、何とか助かったようだな……ありがとう……マース


 ロジェは釣り竿を強引に引っ張ると、落ちてきたマースに手を合わせて一礼をした。


 さてと……帰るとするか……それにしても、だいぶ奥まで運ばれたな……


 落ちた場所からは、湖が見える場所であったが、釣りをしていた所からはだいぶ離れていた。


 とりあえず向こうに進んで見るか……


 ロジェはマースを背負うと湖に沿って歩き出した。


「うわぁぁぁ」


 突然、前方から叫び声が聞こえた。


 何だ今の声は!?


 ロジェは声の聞こえた方向に走り出す。


 声のする森の中に入ると巨大なイノシシに襲われ、怪我をしている男を発見した。


 ロジェは声の聞こえた方向に走り出す。


 声のする森の中に入ると巨大なイノシシに襲われ、怪我をしている男を発見した。

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