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ジャックの通り路  作者: 『ジャック』
2/2

2_青ーい後悔

捕食者が惚れる家畜などいやしない。







真夜中のこんなところで何をしている?


食べられても知らないぞ。






…魔物はいつも腹を空かせている。







「…お話してくれるんでしょう?」










けれども本当は







お腹を空かせてるのは家畜の方だ。





_私は人魚。人魚は人間が大嫌い。




ずっと昔、ある人魚が人間の罠にかかってしまったの。


私たちはそれまで、人間が苦しんだら助けてあげていたのに、彼らは人魚を食べたの。


海に落ちた人間を岸まで運んであげたし、疫病がきたら治すようにおまじないをかけてあげたし、海の厄災が来るときは教えてあげたのに…


汚れて、監視もされて……


とっても生きにくい海になってしまったのもあって、皆は絶対に許さないって言ってるわ。



あ、また…と、海藻についたゴミを拾いながら真夜中の深く濁った海を登ってある場所へ向かった。




…でも私は人間を恨めない。



昔はとても優しくて仲良くしてくれてたの。


私も仲良くなった子がいたわ。




…それに海に住む魔物でさえも人間を恐れてる。





魔物は私達人魚が大好物らしい。


人間が人魚を食べたという話はもう聞かないけど、魔物が人魚を食べたという話はいまだに聞く。


最近も母の知り合いが襲われたらしい。



人間も魔物も恐れている母は外になんて絶対にいかせてくれない。


だからみんな寝静まった夜の海に出て、仲良くなったお魚さん達とお散歩するの。


それが影に生きる私が叶う唯一の楽しみだった。







目的地に着いたので、海から顔を出して誰もいない事を確認してから特等席に座って、腰くらいの長さまである少し痛んだ髪の毛を軽く絞って水気を切った。




ここは滅多に人間が近づかない数十mほどある険しい崖。

崖の下にはゴツゴツとした針山の様に突き出た岩達が剥き出しになっており、落ちればまず命はない。


更にその下の海も人を食べた事がある凶暴なお魚さんが多い。


でも私は彼らとも仲良くなれて、今では私を守ってくれていた。



特等席というのは、崖の下にあるゴツゴツと海から突き出た岩の中でも1番大きな岩。


崖から1番離れているからか、血痕もついていない。



荒波が岩に当たってできた、水しぶきが少し冷たい風とともに私に降りかかるのがとても気持ち良くて、外の世界にいる!って感じがした。





今日は何を歌おうかな…





集まってきてくれた仲のいいお魚さん達と一緒にお話をしたり、歌を歌ったりしていた時だった。



「人魚……?」



聞き慣れない声が私の鼓膜に突き刺さって背筋が凍った。



誰?!



慌てて声のした方へ振り向くと、崖の上から私を覗く若い人間と目が合う。



どうして… 前までは気配を感じれていたのに…とりあえず海へ逃げないと!



私は焦りと恐怖で頭が真っ白になりながらも海へ飛び込んだ。



だが…



「待って!」


「!」



人間は私を呼び止め、それに応じてしまった。


恐る恐る海面から顔を出して、様子を伺う。



「逃げないで…大丈夫。何もしないよ」



そう言いながらゆっくりと歩み寄ってくる。


表情を失ったような彼の顔はとても不気味で、より一層私の危機感が「逃げろ」と訴えたのに、何故か私の体はこの場から動こうとしなかった。



「僕はもう死ぬつもりだから。」



気づけば彼は崖の先端部分まで歩み寄ってきていた。



「…身投げをしようとしているの?」


「そうだね。何もかもうまくいかないんだ」


「そんな…」


「でもこんな珍しいものを見れて僕は幸運だ。君に食べられるなら僕はそれで良い」


「わっ、私は人間なんか食べないわ! それにこの場所は…」



私がこの場所に来ている理由は『人間が来ないから』だけじゃなかった。



「このっ… 場所はっ…」



…自分の脳裏に焼きついて離れないあの場面が見えない鎖になって、私の心臓を締め付けてくる。


鼓動はより大きく、より速くなって、とても息苦しい。




辛い…



忘れたい…




でも忘れちゃだめな記憶だった…









「…大丈夫?」


「ッ!!」



彼の声で私は我に返って、考えを悟られない様に冷静を装った。


「…なんでもないわ。兎に角ここを汚したくないの。トラウマを植え付けないで」


「ああ… なら時間を改めるよ。君が帰った後にでも…」


「だから、ダメだって言ってるでしょ!? 身投げなんて…」




…私の父は自らの命を絶つ事を選んだ。


人魚の血肉が肉体の再生などの力を持つことが人間に見つかり、体の殆どを食べられた。


人間のお友達を助ける為に飲ませた血がこんな悪用されるなんて…


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


父の声が頭からまだ離れない…


皆父の優しいところが大好きだったけれど、憔悴した心を癒す者は誰もいなかった。


私は幼かったとはいえ、ずっと後悔している。




「だめ… 私で良ければ話しを聞くから! もうこれ以上ここで死なないで…」


「君は()()()()優しいんだね」



いつのまにか私は泣いていた。


初めて会った人間の為になんで…と涙を拭いながら鼻水を啜る。



「じゃあ、お話ししてくれる?」


「…え?」



彼は後ろに下がり、止まったと思いきや振り向き、いきなりこちらへ向かって走り出して崖から飛び降りた。


助走をつけていたことによって、崖の下の岩達には当たらないようだけど、あの高さではそれこそ体がバラバラになってもおかしくない。


私は急いで彼の着水地点まで泳ごうとしたが、海流が速くて乗るのに時間がかかった。



…間に合わない!!



彼は大きな着水音を上げ、海へ落ちてしまった。


私は祈りながら海へ潜る。



良かった、ちゃんと体がある!



でも海流が早くて彼はどんどん沈んでいき、沢山のお魚さん達が集まってきていた。



「待って、この人は食べないで! 助けたいの!」



出来るだけ速く泳ぎ、なんとか彼を掴んで引き上げようとした。




彼は安心したのか私の体を強く抱きしめて、





















離さ

























































































__?






「最初は本当に死ぬつもりだった」





海の中で人魚の顔よりも大きな吸盤を纏った触手が体に纏わりつき、身動きがとれずに啜り泣く可哀想な人魚を僕は哀れに見つめる。


その綺麗な顔だけには張りつかないように、わざと人魚を包むくらいの大きさに足をとどめ、できるだけ苦しまないように包んだ。



我ながら器用だ。


食べられると思っているのだろうか。


僕はそんな事をしない。






むしろ君が大好きな散歩を一緒にしたいんだ。






「…お話してくれるんでしょう?」













僕は、魔物。





巨大ダコの人魚らしい僕は生まれながらにして他のタコの人魚とは違い足が太く、触手の長さが大きくはなかったものの、大きな吸盤がたくさん付いていた。




でも、僕も人魚だ。

明るく振る舞えば、仲良くしてもらえると思った。




甘かった。


街を歩けば、僕の足をじろじろ見てこそこそと嘲笑う。


勇気を出して遊びに入れてと頼めば、気持ちが悪いと石を投げられる。




なんで僕がこんな目に合わなければならないのか?


僕は仲良くなりたいだけなのに。





ずっと1人ぼっちだった。





誰も話してくれなかったんだ…





だから人魚がダメなら、僕は人間と、声をかけた。


もう僕はだいぶ成長して足が大きくなったが、大きな船に乗っていたので、大丈夫だろうと足を伸ばしてマストを掴んだのだったが…


船はぼろぼろと崩れ、人間は真っ逆さま。



人間はひどく怯えていた。




…いや、僕は人間を殺してしまったのだ。






それが恐ろしくて、人間をも避けるようになった。






僕は誰かと仲良くなりたかっただけなんだ…





それで僕は暗闇の中でたった1人でひっそりと暮らしていた。



でもお腹が空くから、たまに出歩く。


その度に僕は生きていくのが辛くなった。





そんな時に、凶暴な魚でさえも仲良くしている人魚を見つけた。





こんな夜遅くに出歩くなんて危険でいっぱいなのに、でも楽しそうで…


あんな大きなサメとも仲良くできてて…







…僕とも、仲良くしてくれたなら…













人魚を僕の巣穴に連れてきた時はもう泣きつかれて寝てしまった。


何に囚われているのかは知らないのだが、僕のこの足を見ても、気持ち悪いと怖がる素ぶりはなかった。



もっと君の事を知りたい



ああ、こんなにも誰かの声が聞きたいと思ったのはいつぶりだろうか。




僕にも笑いかけてくれる日は来るのだろうか。

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