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続・由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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86/323

86 出征を前に2

「シェルダン隊長に呼び出されたというのに、まさかエレイン殿があらわれてくださるとは。思いもしませんでしたよ」

 なんとなく可笑しく感じられてバーンズは告げる。

「本当は私、予約なしの不意討ちで会うつもりだったんです」

 まったく悪びれることなく、とんでもない愚かをエレインが打ち明けた。

「それでは、自分は今日、本来は休暇なので会えなかったかもしれませんね」

 顰め面を作ってバーンズは言う。

 いつもの休日なら軍営にはおらず、どこかをふらふらとほっつき歩いていたはずだ。守衛も外出した者までは探し回りはしない。

「別に、いざとなったら兄に会いに来たって言えば、ここまで通してもらえます。あとは兄と時間潰してもいいし、ただ待っててもいいし、ですよ?」

 無邪気なエレインを前に、バーンズは密かに部下の方のマキニスに同情する。自分のために、ダシにされてばかりなのだ。

「それはそうかもしれませんが、私が泊まりがけで出かけていたら、どうするつもりだったのてす?」

 半ば呆れてバーンズは指摘する。

 内心はすぐ隣に座るエレインが愛おしくてしょうがない。なんとなく理由もなしに、栗色の艷やかな髪へ、手を伸ばしてしまいそうになる。

(だから、隣はいけない)

 気持ちや体を抑えるのに一苦労なのだ。

「うーん、待っているのがいいです?それとも出直すのがいいですか?」

 あっけらかんとエレインが逆に質問を返してくる。丸一日、待っているとでもいうのだろうか。

「あっ、でも、ここに来る前に、シェルダン隊長さんと『下話?』をしてきたんです。会うようにとも言われてたから、いないなんてことは思ってもなかったんです」

 エレインが不穏な事を言う。たしかに、言う通りならバーンズの不在など想像もしないというのは、理にかなっていた。

 だが気になるのは最早、自分が不在ならどうするかなどという話ではない。

「シェルダン隊長と?2人でですか?一体、何を?」

 愛妻家のシェルダンがエレインに不埒を働くなどありえない。分かってはいても、バーンズは尋ねずにはいられなかった。

「私もフェルテアの魔塔攻略へ派遣されることになったんです。まずはルフィナ様から聞かされて。バーンズさんも一緒だっていうから来たんです」

 さらりとエレインが言う。自分の胸にずっとつかえていたことではあった。

 そしてエレインの琥珀色の瞳がじっと自分を見つめてくる。

「あぁ、えぇと、そうですか」

 反応に困ってバーンズは言葉を濁す。もともとから知っていた、とも言いづらい。

「バーンズさん、前から知ってたんでしょう?」

 じとりとした視線ともにエレインが尋ねてくる。

「実は、私が派遣されるという下話をシェルダン隊長から。その際におそらくエレイン殿も、とほのめかされてはいましたが。しかし、今日、聞くまでは確証がなくて」

 口外できることでもなかった。いたずらにエレインを不安にしたくなかったということもある。

「ふーん」

 しかし、エレインが浮かべる表情は明らかに納得していない人間のものだ。

「でも、確実じゃなかったとしても、そんな話があったんなら、私、バーンズさんから、直接聞きたかったです」

 そして、恨み言をぶつけられてしまうのであった。さらには、右の上腕をつんつんと指先でつつかれてしまう。

「私、シェルダン隊長さんから、バーンズさんを頼むみたいなこと、言われました。でも、本当はバーンズさんはいろいろ優秀な人で、もっと自信持って、しっかりしてください」

 シェルダンの言葉はバーンズにとって意外なものだった。

(隊長はしかし、エレイン殿に俺のことを頼むのか)

 なんとなく苦笑いが出てきてしまう。

 自信がないというのとも違うのだが、エレインの言わんとしていることも分かる。

 仕事とは別に、エレインのことでは翻弄されてばかりなのだ。気持ちを持て余していて、時には粗相もしてしまう。

「そうですね。こんなことでは、もし、結婚したとしても苦労をかけて」

 バーンズは言いかけ、エレインの顔が一瞬で赤面したことに気づく。見える左横顔が耳まで真っ赤だ。

「どうされました?」

 訝しく思い、バーンズは尋ねる。

「結婚後のことって、バーンズさんも失言が積極的すぎて」

 両手で両頬を挟み、珍しく恥じらうエレイン。

 バーンズは自身の失言に気付く。

「あぁ、いや、その、なんと言いますか」

 肯定したいものの出来ず、かと言って打ち消しはもっと出来ない。エレインに失礼だ。

(だが、俺は段階を今、いくつすっ飛ばしたんだ?)

 バーンズは大混乱である。

「私も嬉しいし。いえ、嬉しいんですけど、いろいろ超えなきゃならないところが。あとプロポーズはできれば教会とかで、すんごく素敵なのを期待してるので」

 エレインが更に言葉を並べる。さりげなくとてつもない注文を追加された気もするが、バーンズとしてもそれどころではない。

「えーと、エレイン殿、すいません。少し落ち着きましょう。そうだ、少し歩きながら。散歩でもしませんか?一緒に」

 あまりうつむかれると、うなじの辺りがあらわになって、なおのこと華奢な肩を抱き寄せたくなる。

(って、俺は何を考えているんだ)

 魔塔へ行くという話をしていたのに、結局、自身は21歳であることを意識させられつつ、バーンズは思うのであった。

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― 新着の感想 ―
お互いの気持ちと話をする二人。 シェルダンを話に挟みながらも二人はお互いにお互いの事を話す。 そして二人が言いたいことはつたわりましたがバーンズはまだ若いですにでエレインちゃんと頑張って欲しいですね*…
仲良しバーンズさんとエレインさん。エレインさんは普段はとても積極的なのに、結婚の話を少しでも出すと照れてしまうなんて可愛いですね。幸せそうな2人が、変なフラグにならないことを祈ります。
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