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続・由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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85/323

85 出征を前に1

 フェルテア大公国へ国使として赴いたシェルダン付きの200名には、当然のようにバーンズら第6分隊の面々も含まれていた。

(また北の陣地に、っていうのじゃなかったから、そこは役得だったのかも)

 第1ファルマー軍団軽装歩兵連隊の詰め所、その応接室にてバーンズは思う。

 他国での任務に緊張を覚えつつも、無事に勤めを終え、3日前にバーンズも皇都グルーンに帰ってきている。

(フェルテアも、北だ北だ、って思ってたけど、それほど寒くなかった)

 北ということで、勝手に寒いと決めつけていた。だが、今自分は季節としては温かい時期なのでちょうど良かったのかもしれない。

(しかし、応接室に、俺だけなんで)

 新兵が当番制でいつも掃除しているので、テーブルを挟んで向かい合う革張りの2人がけソファにせよ、そのテーブルにせよ、ピカピカなのである。

 通常に軍務をしていて、大隊長クラスはともかく小隊長以下ではほぼ名指しの来客などない。

 他の分隊員たちは7日間与えられた休暇の真っ最中である。

(俺もずっと働きどおしで、休暇中のはずなのに)

 バーンズは自身が呼び出された理由も知らないまま、応接室に通されているのだった。またシェルダン絡みの厄介事なのかもしれない。

(俺はでも、まだ、良い方だったのかな。陣地にはエレイン殿もいたし)

 恋人がたまたま同じ陣地で仕事をしていた自分と違い、マイルズ始め部下たちは家族にも恋人にも会えずにいたのである。巻き込まずに済んで良かったと思うこととした。

(だから、まぁ、いいか)

 シェルダンと働いていると、理由の知らない仕事などいくらでも降って湧いてくる。おまけに本人も秘密主義なのだ。

 トタトタと足音を自分の耳が拾う。軍営の中では異質な足音だ。まるで身の軽い女性のような。軍営では重たくてうるさい兵士の足音がほとんどなのだ。

 足音が応接室の前で止まる。

 誰だかはもう分かっていた。バーンズは思わず立ち上がる。

「バーンズさんっ!」

 果たして、ノックもなしに開け放たれた扉から、エレインの身体が応接室に飛び込んでくる。

「エレイン殿」

 飛び込んでくるエレインをバーンズは抱きとめる。

 そのまま放置しては、ソファか机に激突し、大惨事となりそうだった。不可抗力である。

「あっ」

 しかし、意図せずして大胆な状況となってしまい、バーンズは赤面して身を離す。まるで恋人同士の再会のようだ。

(いや、俺たちは交際してるし、あくまで怪我させないためだし)

 バーンズの頭の中はぐるぐると思考が混濁してしまう。

「お話があります」

 一方、自分のぐるぐるなど意にも介さず、自分とまた距離をずいと詰め、下から見上げてエレインが切り出してくる。

 北の陣営で『遠慮をしない』宣言をしてから、大胆になる一方だ。肩を抱いてしまうような格好になっていたのだが、恥じらうどころか当然のような顔をしている。

(本当に、精神的に強いお人だ)

 バーンズは苦笑いである。

 医学や薬学のこととなると、脇目も振らなくなり、やはり何も気にしなくなる兄の方のマキニスと、相通ずるものがあった。

 羨ましくなるぐらい、真っ直ぐな気性なのだ。

「とりあえず、座りませんか?長くなるのでは?」

 バーンズはソファを指し示す。

「はい、そうですね」

 エレインが大人しく頷き、手前側のソファに腰を下ろす。なぜか右側に寄って。

 当然のように対面、奥手側に座ろうとするバーンズに対し、至極真面目な顔をしてポンポンと隣に空けたスペースを叩き、『隣に座れ』と促してくる。

「いや、さすがに」

 バーンズはたじろぐ。

 事の経緯として今のところ、シェルダンからの呼び出しで応接室にいたところ、エレインがあらわれた。軍営にはシェルダン本人もデレクやラッドもいる。

「なんでですか?」

 エレインが自分を見上げて首を傾げる。

 誰に見られていても、軍営ではおかしくない。特にラッド辺りは面白がって隠れ見ているのではないか。

 仲睦まじく隣に座って語らうのは照れくさかった。

「いえ、それは」

 つまりは人目が気になるのだった。

「いいから、隣に座ってください。距離取られて向かいに座られるの、お仕事みたいで嫌です」

 小柄なエレインが自分の右腕を、全体重をかけて引っ張ってくる。

 華奢で可憐なエレインの体重などたかが知れている。抗えなくもないが、ずっとそうしてもいられないので、結局、バーンズはエレインの隣に腰掛ける事となった。

「もうっ」

 そしてエレインのほうが『仕方がないなぁ』という顔をする。

「付き合ってるんだから、これぐらい普通です。しっかりしてください」

 さらにはお叱りの言葉まで受けてしまう。ペチッペチッと大した力もないくせにバーンズの腕を叩いてくる。

「エレイン殿が前向きに過ぎるのですよ」

 とうとうバーンズは笑いだしてしまう。

(本当に、自分には過ぎた人だ)

 白いブラウスに紺色の膝丈のスカートを身に着けたエレインを見て、バーンズはつくづく思う。

 清楚な出で立ちでもエレインの場合は可愛らしさが先に立つ。他の人間にはない魅力があるのだった。制服である白地に金の縁取りがなされたローブ姿のときとはまた違う。

「そうかなぁ、普通ですよ、普通」

 無邪気に言い放つエレインを前に、バーンズもまた細かいことは気にしないこととするのであった。

 

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― 新着の感想 ―
エレインはようやくバーンズにあわせてもらう。 久しぶりにあった二人。 たどたどでぃくもお互いの気持ちを話す。 二人はどうなっていくのか!? 続きも楽しみですʕ ›ᴥ‹ ʔ/
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