171 第6分隊〜ピーター2
だが、騒がしくなったのは詰め所に戻ってからだった。
そこはバーンズも甘かったのである。
帰りは夜遅くなり、勤務時間を終えていたことからビルモラクやマキニスなどから順に家に返したのだが。
バーンズはヘイウッドとともに残業をすることとなった。
「まったく、あいつら、好き放題に暴れやがって」
ヘイウッドが改めて、聴取内容に図面などの資料を精査しつつ毒づく。
詰め所にあった執務机の1つを占拠している。
バーンズにも幾らかを押し付けてきた。
「隊長は、図面をすぐに仕上げてください。そこに被害場所に破損した調度なんかを書き込んでくんで何枚か作ってください」
据わった目で部下から命ぜられた。
ヘイウッドの言うことはバーンズにも理解出来る。器物損壊に暴行事件といくつかの事件に分かれているぞ、ということだ。
「わ、わかった」
バーンズは頷いて、自身も現場で測定してきた情報も加えて清書することとした。
「目撃者からの調書に、負傷者の負傷箇所目録に、報告書を誰が仕上げることになると思ってんだ」
ブツブツ言いながらヘイウッドが怒っている。現場にいた時から怒っていたのは、この大変さを知っていたからだ。
「なぁ、一回、一休みしてからにしたほうが」
恐る恐るバーンズは提案する。
「器物損壊に暴行事件を軍やら憲兵やらの実働組織が纏めて、さらに司法へ書類を送り、場合によっては軍人も絡む事件だから皇帝陛下にもご覧抱く書類となるかもしれません。それでも、一晩寝て、記憶を薄めさせてからやろうと言えますか?」
ぎろっとヘイウッドにひと睨みされてしまった。
たかだか器物損壊と暴行事件に皇帝シオン陛下が、首を突っ込むだろうか。
「いや、だが、そもそも、ご覧になるのか?こんな事件を?」
バーンズは思わず独り言気味に尋ねていた。
「ご覧になると思わないといけないし、逆に俺が隊長から言われる立場だと思いますよ、本来」
じとりとした視線を向けてきて、ヘイウッドが言う。話しながらも早くも各自が集めてきた資料を仕分けし始めている。
「ま、この分隊が今の編成になってから、ここまでの大事はなかったですからね。軍人のやり過ぎ事案なんて、めったにないし」
大概の事件は憲兵部隊で事足りる。だから自分も経験不足なのだった。
「こういうことに強い人間がいてくれて助かった」
バーンズも図面の清書に取り掛かりつつ告げる。
口数が多く失言の多いヘイウッドを高く買っていなかった。だが、口数の多さと比例して、通常用務の作業量はどれだけ多くなっても、手際が良かったことも思い出す。
「いろいろ好奇心が強いんで首を突っ込んでたら、嫌でも覚えるんですよ」
笑ってヘイウッドが言い、いよいよ顔を書面に向けて集中し始めた。
しばらく2人で作業に集中する。
「まったく、あいつら、好き放題に、暴れやがって」
改めて読み返すと腹が立ってきたらしい。毒づきながらヘイウッドが髪の毛をかきむしる。
「どうすりゃ責任を問われないか、気を使う側にもなれってんだ」
実際のところ、こちらに落ち度はなくとも、相手はどこかしらかを見つけて突こうとしてくる。ヘイウッドが言っているのはそういうことだった。
「ジェニングスとピーターにも居残らせれば良かったな」
バーンズは苦笑いで応じる。2人とも何食わぬ顔でマイルズやビルモラク同様、帰ってしまったのだった。
「えぇ、明日からはやらせます」
大真面目にヘイウッドが頷く。
「2人とも腕っぷしが強くなった分、気が大きくなったところもあるんだろうな」
なんとなくバーンズは告げるのだった。
「それで、あいつら。魔物と人間の区別もつかなくなったのか。ここは魔塔の中じゃねえんだぞ」
さらにヘイウッドがボヤく。
荒事には強い2人だが、細かいところへの配慮が薄い。フェルテアの魔塔での戦いを経験してきたばかりだから、加減が分からなくなっている、とヘイウッドは言いたいのだろう。
(そういうところもあるか)
バーンズは思い、頷くのだった。
図面をある程度書き終えてから、ヘイウッドの書類作成も手伝う。
中には骨折をしたものまでいるそうだ。ジェニングスとピーターの2人が鞘で強かに殴りつけたせいである。
(あいつらは、体術の心得がないものな)
バーンズなどは関節を極めて抑えこんでいたから、さほどの負傷はさせていない。
「だが、あんな酔っぱらいども、理性が飛んでるから、魔物とあまり変わらないだろ」
バーンズは吐き捨てるように告げた。
飲み屋の客であり、他の若い女性にも絡んで、さらには店の調度を自分たちの臨場前にぶち壊していたのだ。
酒を飲むのにも節度が必要だ、とバーンズは思う。
「やり過ぎないでくださいよ、隊長も。そんなこと言って」
呆れた口調でヘイウッドに釘を刺されてしまうのであった。




