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続・由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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135/323

135 フェルテアの魔塔第4階層5

 第3階層から第4階層への赤い転移魔方陣に足を踏み入れる。

 視界が切り替わった。

「これは」

 思わずガズスは声を上げた。

 きらびやかなオーラを纏うシャットンが最寄りの岩に腰掛けている。戦っていた様子は無い。先の階層のように、魔物の死骸が何も転がっていないからだ。

 他の面々も自然、状況をシャットンから聞こうとする。

「入ってから、ずっとこの調子です。この階層には魔物がいないのですか?姿すら、この5分間、見かけませんでしたよ」

 シャットンが岩に腰掛けたまま告げる。

 敵がいないなら座っている、というところにシャットンの図太さが感じられた。

「どう考えても俺は、あれがおかしいと思うのですがね」

 続けてシャットンが指をさして告げる。指していた先は、山の中腹、そこに張り付くように建てられた建造物だ。魔塔の外で見かけたなら、神殿だと思うであろう形状をしている。

「あれは」

 ガズスは声を上げる。思っていたよりも掠れた、小さな声だった。

 雪山を背にしていて、白い壁と雪とが溶け合うかのようだ。白い壁にくすんだ灰色の屋根が見て取れる。

(一体、誰がこんなものを)

 どう見ても人為的なものに思えて、そんな疑問をガズスは抱く。

「どう考えても、あの中を探らないわけにはいかないかな、と俺は思うんだが」

 シャットンが剣を鞘に納めて告げる。

「いかにも誘われているようで、それはそれで嫌な感じですが」

 顔をしかめてバーンズも応じる。

 2人のやり取りに当座は誰も口を挟まない。この2人がまず話し合い、そしてラミアあたりが纏めに入る、というのが定番となっていた。

 よくも悪くも、常に冷静で多少のことには動じない図太さを持っているのがこの2人だ。

「だが、階層主がいるなら、行くしかない。魔塔攻略の厄介さは階層主や魔塔の主がいるなら、そこを避けては通れないことじゃないか?」

 シャットンが腕組みして指摘する。

「確かにそうですね、本当に嫌な話ですが」

 どこまでも苦い顔でバーンズが言う。

「目的地が分かっているなら」

 クラリスが小声で何ごとかを呟いている。小声すぎて途中までしかガズスにも聞こえなかった。

 ラミアもじぃっと神殿を俯瞰している様子だ。

 何ごとかを考え込んでいるのかもしれない。

「中を探るとなれば、俺が先行して、忍び込んで来ましょうか?」

 バーンズが渋々と言った顔で申し出る。

 考えていることはなんとなくガズスにも分かった。屋外ではなく屋内となると、閉じ込められると逃げ場がない。バーンズとしては、想像するだけでもおぞましい状況なのだろう。

「いや、俺とバーンズ殿、という組み合わせのほうがいいのではないか?1人で行かなければならないという決まりもないんだから」

 シャットンが首を横に振った。

「そうですよ。バーンズさん、また無茶を自分から言い出して」

 エレインがバーンズの脛をゲシゲシと蹴り始めた。さほどの力でもないのだろう。バーンズ本人はどこ吹く風だが。

「せっかく集団でここに来たのだから。そのほうが連携も取りやすい」

 さらにシャットンが結論づけにかかった。

「2人だけで結論づけようとすんじゃないわよ。あたしたちもいるのよ?」

 我に返ったラミアが両手を腰に当てて口を挟む。

「あの建造物に見とれているようでしたので?先んじて話を進めていただけですが?」

 笑ってシャットンが応じる。

「見とれてなんかいないわよ。あたしの魔術を最大出力で全て叩き込めば、外からでも叩き壊してやれるんじやないかしら?って思案してただけよ」

 肩をすくめてラミアが過激なことを言う。

 クラリスが隣で小さく身を震わせた。少々、刺激が強すぎたようだ。

「それで階層主を倒せる保証はありません。神殿を壊しただけ、という結果になるかもしれませんよ」

 真顔でシャットンが指摘する。

 バーンズが苦笑いとともに数歩退がってきて、エレインと言葉をかわしはじめた。ただの雑談だ。どこに遊びに行くか程度の話である。

 シャットンとラミアの話し合いに身を委ねることとしたらしい。

「だから、やめとくわよ。それにここから上に向けて水魔術をぶっ放したら、しかも膨大な私の魔力を全部、ぶっこんだら、斜面を下って戻ってきた水をまともに受けて、みんな、びしょ濡れよ」

 苦い顔でラミアが言う。

 魔力を変換して水にして放つ。攻撃を外したところで、放った水が消えるわけではない。攻撃に使った後の水の行く先まで考えた上で、いつも魔術を放っていたのだった。

(そんなことまで、とっさに考えていたとはな)

 ガズスとしては感心してしまうのだった。

「あなたの力量なら、びしょ濡れでは済まされないでしょう。皆、溺れ死にしてしまいますよ」

 シャットンが笑って言う。クラリスや自分と話しているときとはまた違う親しみを、ラミアに対して見せ始めている。

「まぁね」

 そんなシャットンと接していて、ラミアもまんざらではない表情であることに、ガズスは気づくのであった。


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― 新着の感想 ―
先行したシャットンはなんとただ座って待っていた。 何もなかった状況。 そう話していたシャットン。 神殿らしき物がありましたが壊せると言ったラミアにシャットンは何かを感じる。 まあバーンズとエレイン、ク…
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