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続・由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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131/323

131 フェルテアの魔塔第4階層1

 重傷を負ったバーンズの治療にエレインが勤しむ。全身、あらゆる場所に手ひどい打撲を負わされたらしい。場所によっては折れているそうだ。

(制圧後の階層は回復や補給にはちょうどよい、か)

 ガズスは額から汗を流して回復光をかけ続けるエレインを見て思う。

 一行はまだ青空の下、第3階層に留まっている。

 攻略前は瘴気で汚れて流れる水を飲むことすらできない。だが、攻略後の階層であれば水ぐらいなら飲んでも大丈夫だ。第2階層で実証済みである。

 新鮮でひんやりとした雪解け水を補給した。

(危なかったが、なんとか勝てた)

 ガズスは自身の鎧を点検しているところだった。

 魔塔の中に入ってからは、どうにもならない損傷もいくらか受けている。ヒビや根本的に金属部分が削られ、欠損した部位の修復は、魔塔の外で物資を得ないと不可能だ。

「すごい、敵でした。階層主って、あんなに強いんですね」

 いつの間に横にいたのか。チョコンと隣に腰掛けてクラリスが呟く。

 独り言のようだが、自分の返事が欲しいのだろう。ずっと黙っていると不安そうな顔をするのだ。

「バーンズ殿の捨て身がなかったら、どうなっていたかわかりませんな」

 ガズスは再び、倒れたままのバーンズを見やって告げる。

 バーンズ抜きで次の階層など考えられない。それほどの働きを見せ続けている。強いというのとも違う。常に判断が的確なのであった。

「自分に出来ることの上限を見極めて、いざとなれば迷わずに投入する。なかなか出来ることではありませんよ」

 数千人いる部下の中にもバーンズのような人材はいない。

 ドレシア帝国が増援として送ってくるだけのことはあった。こういう人材が必要だと分かっている人間がドレシア帝国にはいた、ということだ。

 クラリスが無言で頷く。言葉を多く発するのが苦手なようだ。

(大人しさで損をする。そういう立場で、今はそういう状況だからな)

 ガズスはクラリスについて思う。

 目立つのはどうしても、声も大きくハキハキとしている、そして戦闘力も高いラミアの方だ。ラミア自身も悪い人間ではないから、なおのこと、クラリスとしては難しい状況となる。

(まして、2人がいがみ合っている、という状況でもない)

 むしろ好対照なので嵌まればとても良い組み合わせなのかもしれなかった。

 思考しつつガズスは武器である斧の方も点検する。盾代わりにもしてきた、分厚い代物だ。

(重魔鉄製だからな)

 破損も変形もしていない。造りが単純な分、頑丈なのだ。

 クラリスが静かなので2人でいると自然、こういう雰囲気となる。変わらず隣にいるのだが、あまり話さない。隣にいると安心するようなことを言っていたが、どこかこそばゆかった。

(だが、この方は聖女様で、年も一回りは下の、まだ子供だ)

 だが18歳だか19歳だかにはなっていたかもしれない。世間的には結婚の適齢期には入っている。

(子供というような年齢でもないか)

 即座にガズスは思い直すのだった。

「私にもっと、いろいろ出来れば」

 ポツリとクラリスがこぼす。

「本当はもっと、いろいろ出来るはずなのに」

 さらに悲しげに加えた。

 フェルテアの聖女が扱えるという神聖魔術だが、まだほんの触りしかクラリスには使えないらしい。

「本当に必要なときには出来る。そう思うべきですな」

 ガズスは慰めるつもりで告げた。斧から目を離してクラリスの様子を窺う。

(あまり上手くなかったか)

 相手の顔色を見て、ガズスはため息をつきたくなった。『本当にそうでしょうか?』と目が言っている。

 だが、これ以上、加えるべき言葉をガズスも思いつけない。本人に悩んでもらうしかなかった。

 2人で沈黙する。

(それにしても、よく、あの雪岩パンサーに勝てたものだ)

 次第にガズスの思考はそちらへと移っていく。思い返せば思い返すほど不思議なのだった。違和感を覚えてすらいる。前衛の自分が崩れ、仲間たちも負ける、そんな結末が何度も戦闘中、頭をよぎったのだ。

(何度も、直撃を受けた。とっくに死んでいても、おかしくない打撃を何度も叩きつけられて、だが、俺はそれでも生きている)

 特に終盤の攻撃は苛烈だった。相手も死に物狂いだったのだ。

(俺はさほど、例えばドレシアのゴドヴァン殿ほど強くはない。いかに鎧を着込んでいるとはいえ、あの人間離れした屈強さには敵わない。だが)

 魔塔の勇者と呼ばれる大剣遣いのゴドヴァンと、役割が似ているのでつい自分でも比べてしまう。ドレシア帝国軍とフェルテア大公国軍との親睦を深めるための交流戦で戦ったことが幾度かあった。

(全敗だったな、あの人には勝てたこともない)

 苦い思いをガズスは噛み締める。ゴドヴァンが騎士服、自分は頑丈な鎧という圧倒的に優位なはずの勝負で、だ。

 鎧ごと叩き斬られるのではないかと思うほどの斬撃を今でも覚えている。

(あぁ、そうだ)

 雪岩パンサーの一撃にも似た恐怖を覚えた。

「そうだ、俺は、俺もこの鎧も」

 ガズスはとりとめもなく言葉を発する。

 本来なら鎧もろともに死んでいたはずであるところ、自分も鎧も無事なのだった。

「えっ?鎧?」

 クラリスが可愛らしく小首を傾げる。本当に不意を突かれた小動物のようだ。

 なんとなく見ていられなくてガズスは顔を背ける。

 すると近づいてくるシャットンが目に入るのであった。

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― 新着の感想 ―
雪岩パンサーを捨て身のバーンズの力もあり、何とかこの階層もクリアしましたが。 ここでバーンズの回復をまつ面々。 今回は結構深手だったよで雪岩パンサーの恐ろしさを感じますが。 カズス氏も色々考えますが適…
[良い点] どの階層も危険がつきもの。その大変さが分かります!
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