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続・由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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125/323

125 フェルテアの魔塔第3階層8

 バーンズの選んだ、緩やかな登り坂を一同は進み続ける。移動だけでも体力を削られてしまう。そのため、途中で小休止を幾度か挟まざるを得ない。

「いつか、2人で山登り、してみたいです」

 岩に座り込んでいたエレインがバーンズに話しかけている。

「えぇ、そのときは魔物のいない山にしましょう」

 微笑んでバーンズも立ったまま応じる。時折、周囲には鋭い視線を送るものの、エレインに向ける視線だけは柔らかい。

 エレインの方も視線に気づくたびくすぐったそうにしていて、実に仲睦まじい2人なのであった。

「死なせらんないわよねぇ、あんなの」

 2人を見て、ラミアが言う。ガズスとクラリスが静かにべったりなので、どうしてもラミアの話し相手が自分となってしまう。

「そうですね」

 自分も口数の多い方ではない。相槌を打って頷くぐらいしかできない。

「隣の国からの増援って立場でさ。それでもこんなに命賭けてくれてるんだもの。死体で送り返すわけには、いかないわよね」

 ため息をついて、ラミアが加えた。なんとも返しづらいことを言うものである。

(俺を困らせて楽しんでるんじゃないか?)

 勘繰って、シャットンはラミアの表情を覗う。

 だが至って平静であり、他意は感じられない。

「さて、行きましょう」

 バーンズの言葉でまた出立となった。

 暫く進むと山の頂上付近に出る。見晴らしが良く、向かい側にも山が見える場所だ。

 バーンズがまた立ち止まり、背嚢から細長い筒を取り出す。そして目に当てた。

「なるほどね」

 ラミアが勝手に納得している。

「あれを使って、見つける前に見つけてるってわけ。あれは、遠眼鏡って道具よ。魔道具とかじゃないけど、便利よね」

 口には出さなかった自分の問いを察して、ラミアが答える。

 ただでさえ良い視力を、道具でさらに強くしているということだ。

 向かい側の山をバーンズが遠眼鏡で探り続けている。つられてシャットンも見渡してはみるが、岩肌と張り付いた雪、灌木が辛うじて見分けられるぐらいのものだった。

「やはり、あの山の頂付近に、まだいますね。シロマキヅノを食っています」

 バーンズが指差して告げる。だが、やはりそのような光景は見えないのだった。

「確かに、こんだけ離れてるところから見つけられれば、戦闘にもならないわね。大したもんだわ」

 感心して、ラミアが頷いて告げる。

 だが、褒められても嬉しくはないらしいのがバーンズだ。

「たまたまですし、予断は禁物ですよ」

 素っ気なく、返すばかりなのであった。

 1回、登りきったので、今度は下りとなる。下りだから楽だということもない。

「きゃっ」

 ラミアが転びかけて縋り付いてくる。らしくない、可愛い悲鳴が漏れるのだった。

「気をつけてください。自覚はあると思いますが魔術師といえど、動けなくなっては危険なのですから」

 シャットンは手を貸して助けながら、一応、釘を刺す。

「あんたねぇ、もう少し、優しく出来ないの?」

 ジトッとした目をして、ラミアが文句を言う。

 見捨ててもいなければ、転ぶ前に助けてもいる。これ以上、何が不満だというのだろうか。

「優しいかはともかく、助けはしたつもりですが?」

 シャットンは首を傾げてみせる。 

 ふとなんとなく、横を見ると、ガズスがクラリスを抱きかかえて、ゆっくりと岩を下っているところだった。

 また、バーンズもエレインの手を引いているのも目に入る。

(いざとなったら、俺が敵に即応しないとか)

 ガズスもバーンズも油断はしていないだろうが、反応は遅れるかもしれない。

 気を引き締め直しつつ、だが階層主に近づいているせいか、敵の襲撃は減った。ほぼ敵と遭遇することなく、下りきる。

「もう一息です。しかし、また登りますから、少し休みませんか」

 バーンズが誰にともなく提案する。

「そうね、少しでも万全で階層主には当たりたいものね、賛成よ」

 ラミアが賛意を示して、休憩をすることとなった。

 バーンズから配られた兵糧を、それぞれが摂る。さらにはクラリスがオーラをかけ直した。

「ふぅ」

 エレインが息をついている。さすがにかなり疲れた様子だ。

「大丈夫ですか?とても頑張ってましたね」

 微笑んでバーンズが隣に腰掛けている。エレインのここまでの頑張りを労っていた。他の面々も同程度に頑張っていたのに、なぜかエレインだけを褒めるのである。

「皇都を歩くのとは全然違います。でも、バーンズさんが助けてくれたから」

 とても嬉しそうにエレインが返すのだった。結局、あの2人は好きあっている男女なのだ。そういうことなのだろう。

「ああいうとこよ、ああいうとこ。だから、あいつにはちゃんと恋人がいて。しかも魔塔にまでついてきてくれるってわけ」

 皮肉たっぷりにラミアが話しかけてきた。先の何ごとかを蒸し返したいらしい。

「それが必ずしも良いとは思いませんが」

 自分なら、魔塔にまで恋人にはついてきてほしくない。それなら親しくないほうがいいぐらいだ。

「はぁ」

 わざとらしくラミアがため息をつく。

「あんたには一生、分かんないかもねぇ」

 挙げ句、言い捨ててラミアが離れていくのだった。

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― 新着の感想 ―
バーンズが優秀なのは誰もがもう実感してますね。 そんな中シロマキヅノを捕食している階層主を遠目に確認するバーンズ。 休憩をとりますが果たして!? 続きも楽しみです!(´▽`)
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