101 魔塔上層攻略班顔合わせ3
「気迫は素晴らしい。しかし、バーンズ殿はどう思いますか?」
まるで水を差すようにシャットンが口を挟む。
「何がですか?」
シャットンらしい口の出し方に、バーンズも苦笑いだ。
「何よ、あんた。この場で出しゃばってきて。何様よ?」
案の定、さすがにラミアも気を悪くする。
自分には概ね好意的な人のようなので、クラリスとしても刺激してほしくなかった。
「ラミア様の、メラン閣下への態度からして、この場は非礼を問われないものと解しておりましたが、何か問題でも?」
表情1つ変えず、シャットンが言い返す。
肝の太さは筋金入りだ。相手が貴族であっても怯むことはない。
「ま、ね」
じろじろとラミアがシャットンを頭の上からつま先まで眺めて告げる。
「腕は立つみたいね。なんか、只者じゃなさそう。その代わり、口を挟むなら、聖女の護衛代わりの仕事しかしないとか、そんなのは無し、よ。あんたの手も貸してちょうだい」
ラミアの言葉にクラリスは驚く。
(つまり、シャットンさんにも魔塔上層へ上がれってこと?)
クラリスとしては想像もしていないことだった。
フェルテア大公国の魔塔なのだ。シャットンには無関係のことで、外で待っていてもらうつもりだったのだ。
「それは無論そうさせていただきます。俺はアスロック王国の出身です。魔塔には、思うところがありますから。許可をいただけるなら、喜んで上がりますよ」
生真面目な顔でシャットンも頷くのだった。
また、ラミアがニカッと笑う。意外にも初めて、シャットンがたじろぐような顔をした。ラミアもラミアで自分のときとはどこか違う。
(なにか、こう、良いもの見つけた、みたいな笑顔)
なんとなくクラリスはそんな印象を抱く。
「気に入ったわ。人選はメランの管轄かしら?でも、許さないわけないと思うわよ。使えるんなら、なんでも使う。ミュデスのせいで、だいぶ、うちの国は人も金も労力も、浪費したからね」
ラミアが肩をすくめて言う。
「確かに軍費も兵力も、最初の無駄がなければ、もっと遥かに楽だっただろう、と思う」
苦々しげにメランが言う。
「シャットン殿の手前は私も知っている。時々、練兵場で修練に来ていましたからな。向き合うと怖気を振るうほどの太刀筋を使う」
ガズスも認めているほどの剣豪なのであった。
「確かに、私もいろいろ手配していて苦しくなることもあるが、好材料もないではない。そう、思うようにしている」
メランの方は愚痴がまだあるらしい。ため息をついた。
「やはりシャットンには悪いが、アスロックのように何本も立っていたのと、1本と、ではまるで違う」
一応、メランがシャットンにも気を使いつつ告げる。
確かに未だ、フェルテア大公国でも安全な国土の方が広いくらいなのだ。
(正直、4本も立っていて、なお国として存続していたっていうほうが、信じられないくらい)
クラリスも思うほどだった。時々、しみじみとした口調でシャットンが語るには、エヴァンズ王太子という人が、その面では優れていたらしい。
(でも、聖騎士セニア様を処刑しようとした人でもあるらしいけど)
聞いていると『極めて優秀なミュデス』というのが、クラリスの中でのエヴァンズという人の人物像なのであった。
「ゆえに、国力と人材を結集すれば勝てると私は思っているし、一本のうちに何が何でも倒さねばならぬのだとも思っています」
メランが皆を見渡して告げる。政治という面では『一本のうちに』というのは切実なことなのだと改めて痛感させられる物言いだった。
「ですから、気迫のことは分かりました。詰めておきたいのは実際的なところですよ、例えば。そういうことに詳しいのはバーンズ殿だ。だから発言を俺は促したのですが」
メランにも遠慮なくシャットンが言う。さすがに少し非礼なぐらいだ。
「こいつ、あたしより失礼じゃない?」
さすがのラミアもクラリスに耳打ちするほどだった。
話を振られたバーンズも困り顔だ。だが、バーンズに対してはメランも不快はないのか。手を振って話すように促す。
「では、クラリス様はオーラを何人にかけられますか?」
バーンズがまず自分に対して尋ねてきた。
「なるほど、オーラをかけられる上限が、そのまま魔塔上層攻略班の頭数になるからな」
ガズスが頷いている。
「あとは、私としてはオーラの持続時間も把握しておきたいのです」
さらにバーンズが加えてきた。
「なんで、そんなことまで?切れたら掛け直せばいいだけじゃないの?そういう術はさ」
ラミアが首を傾げて告げる。
「バーンズさんも上がらせるおつもりなら、きっと斥候もさせるんじゃないですか?もし、そうなら、クラリス様から離れて行動するわけです。だから、バーンズさんには持続時間も必須なんです」
憮然とした顔で治癒術士エレインが口を挟んできた。
「あぁ、なるほどね」
ラミアが納得して頷く。
恋人同士ということは知らないまでも何事かは察したらしい。
「なんとか、6人までは。見ていたら、2日ぐらいはずっと光りっぱなしでした」
シャットンに試しにかけてみたことがあった。その時に把握したことだ。
「ここにいる、メランを除いたちょうど6人で上がるんだから」
ラミアが満足気に頷く。クラリスも及第点をもらえたようでホッと安心する。
「ですが、本当によろしいのですか?私より優れた剣士がフェルテアにもごろごろいるでしょう」
シャットンがここにきて遠慮を見せた。
「私たちもです。その面で優れた軍人や治癒術士がいくらでもいらっしゃるのでは?」
さらにはエレインとバーンズも便乗する。
「シャットン殿の腕前はさっきも言ったが俺が保証する。文句を言うやつは直接立ち会って、わからせてやってくれればいい」
ガズスが大笑いでお墨付きを与える。
「ドレシアの2人についても、推薦状からして、かなりの信頼がおける。自信を持って手を貸してほしい」
メランからもバーンズやエレインに言葉が送られる。
シャットンもバーンズ、エレインも何も言い返す言葉がない。改めて上がる覚悟を決めてくれたようだ。
こうして、フェルテア大公国の魔塔上層に挑む6人が確定したのであった。




