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くたばれハーレム  作者: 夏目くちびる
幕間 こうして彼の噂は広がっていく

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 この高槻シンジにとって、体育祭ほど自らの無様を曝すイベントもない。



 最初は雨になればいいと思っていたが、考えてみれば次の開催日まで憂鬱が延長されるだけだと気が付き、今度は早く終わらせて欲しいと吊るしたてるてる坊主が功を奏したようだ。



 天候は晴れ、空気もすっかり秋となった雲の少ない空模様。電車から見えた紅葉が浮かぶ湖、島中湖に光が反射して輝く景色の綺麗さが今日のハイライトとなるだろう。それくらい、悪い予感しか浮かばない朝だった。



 しかしながら。



 別に遊びをしていなかった俺でも夏の終わりを寂しく思うのはなぜだろう。他の季節にはない、夏だけが持つ謎のノスタルジーの正体が未だに分からないでいる。



 だから、来年はもう少し充実した夏休みを送ってみたいと思うも、来年は周りが受験勉強に勤しむなか、進学する気のない俺だけが暇なのだろうと気づいた。

 ならば、せめて金を貯めて日本を巡る旅に出てみたいなぁと妄想するここは、グラウンドに設置された2年B組の待機席。



 開会式を終えて、全学年の男子生徒で順繰りに行うオープニングの『集団行動』から帰ってきた俺は、既にヘトヘトの状態でやや温くなったスポーツドリンクをゴクリと飲んだのであった。



 因みに、俺の出番は借り物競争だ。運動が苦手な俺でも、まだ勝てる可能性を残すにはそれしかなかったのさ。



「コウ! ぶちかましなさいよ!」

「コウさん! 頑張れ〜!」

「負けちゃ嫌だよ!」



 競技は、既に100メートル走の準備に移っている。



 二年生から始まる記念すべき第一走者たちは、やはり各クラスの韋駄天を選出した事実上の学年別の頂上決戦。一番のカードを出し惜しみせず、最初に持ってくると決めた実行委員の手腕には感服せざるを得ない。



 そして、部活に入っていない晴田が陸上部や野球部を抑えてメインイベンターに抜擢された理由は――。



 いや、語るまでもないか。



 やる気ないクセにスゲェ早いんだよ、あいつ。多分トップを取ると思うぜ。



「なぁ、シンジ」

「なんだよ、東出」



 2Bの男子的にはなんの面白味もないメインイベントに興味が湧かないのか、東出は一番端っこの俺のところへやってきて疲れ切ったように椅子へ座った。



「さっき、実行委員の先輩から大変なことが起きたって話を聞いたんだよ」

「なんだ?」

「最優秀クラスに与えられる優勝旗が、保管していた生徒会室から盗まれたんだって」

「うわ、マジかよ」

「あぁ。そのせいで運営はてんやわんやだ。あそこでマイクを握ってる司会と実況の人も放送部の代打でさ、実行委員はみんなが学校中を駆け回ってるってよ」



 どうやら、そういうことらしい。



 例年、最優秀クラスは三年生の何処かに与えられる。それは決して贔屓ではなく、彼らが最後の体育祭で勝ちたいと本気で頑張っているからこそ得ている結果なのだ。



 去年の三年生も凄かった。ポイントが拮抗した最後の400メートルリレーなど、熱の入った実況と絶対に負けられないという男子たちの熱い攻防に一抹の感動を覚えたほどだ。



 きっと、今年も同様に白熱した試合を見せてくれるのだろう。下級生として、見習うべき姿を背中で語ってくれることを俺はそこそこ期待しているのだが。



「それなのに、トロフィーが無いってのは寂しいな」

「あぁ」

「三年生は、人生最後の体育祭だもんな」

「その通りだよ」



 ……。



「なぁ、東出。お前の知り合いの先輩。紹介してくれないか? もしかしたら、力になれるかもしれない」

「ははっ、お前ならそう言ってくれると思ってたよ。待ってな、ラインで呼んで中庭に来てもらうから。俺も俺で探さないといけないしさ」

「わかった、頑張れ」



 そして、俺は東出に言われた中庭へ向かった。



 既に見つかって場面は落ち着いている。そんな展開ならば俺も安心して競技を観戦できるのだが、きっとそうはならないのだろう。



 背後で大きな歓声が轟く。どうやら、晴田がトップでゴールしたみたいだ。

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