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くたばれハーレム  作者: 夏目くちびる
ハーレムより受ける生理的嫌悪感の正体

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「……あっ」

「よぉ、奇遇だな」



 本当に偶然出会った、という呆気にとられた幼い顔をしていた。



 駅向こうの居酒屋でのアルバイトを終えボロ家くんだりまで帰る途中、通り掛かった西口前より現れたのは他でもない月野ミチルだ。私服のところを見るに、お使いか何かの帰りなのだろう。



 流石に、こんな人もまばらで暗い道の中をシカトしてとっとと行くのも気持ち悪い。断られる可能性にミルクコーヒーをベットしてから行く先を小さく指差すと、彼女は頷いてから俺の横に並んだ。



 外したらしい。因みに、俺は生まれてこの方ギャンブルに勝ったことがない。



「マニュアル、役に立ったか?」

「うん、本当にビックリするくらい全部がその通りだよ。女の子はみんな、シンジくんにマニュアルを作ってもらえば失恋しなくて済むかも」

「そうかい」

「んふふ、凄すぎてキモいよ」

「今更かよ、俺は最初っからキモいぞ」



 すると、彼女はヘラヘラと笑って俺にトートバッグを当てた。箱を叩くような乾いた音が聞こえた。お使いの正体はそれか。



「コウくんの楽しそうな笑顔なんて初めてだよ。放課後もさ、学校で起きたことをずっと話してた」

「あぁ、山川たちと遊んでたんだってな」



 最終的に、周りも巻き込んで楽しそうにトランプ遊びをしていたらしい。俺はバイトがあったから結末を知らないが、聞くまでもなくいい雰囲気だったんだろう。



 もちろん、例え暇だったとしても混ざることは決してなかったが。



「凄いよ、たった1日で解決しちゃうなんて」

「なんのことだ」

「コウくんのこと、助けてくれたじゃん」

「ボケてんのか? ワケ分かんねぇこと言うなよ」

「べーっ、ボケてないですよーだ」



 かわいくねぇ女だな。



 普通なら男心を察して黙っておくモノだろう。どうして女子高生って乙女心を分かって欲しがるのに、こっちの気持ちを汲んでくれようとはしないのだろうか。



 やっぱり、女は年上が最強なのか?詳しい奴がいたら是非ともご教授いただきたいね。



「そんじゃ、俺こっちだから」

「私もそっちだよ」

「はぁ? そんなワケねぇだろ。ここから俺のアパートまで一本道なのに」

「今日はそっちなんだよ、だからいいでしょ?」



 ……妙な違和感があった。



 それは、お礼や誘いの節々に感じていたそこはかとない打算を覚える演じた言葉ではない、まるで初めて聞いた月野の()()()()()めいたモノだった。



「なぁ、気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど」

「なぁに?」

「もしかして、お前――」



 瞬間。



 薄闇の中でもハッキリと分かるくらい、月野の顔は赤く赤く染まっている。全身の毛が逆立ったような錯覚を覚えるほどのリアクションに、本気で照れているのを嫌になるくらい感じてしまった。



「はぁ!? な、なに言ってんの!? 本っ当に意味がわからないんだけどっ!?」

「いや、勘違いならいいんだよ」



 本当に自分でも不思議だった。



 まさか、この世界に俺のようなクズを好きになる女がいるハズないのに。ましてや、ちゃんと惚れてる男がいて、結ばれる為の努力だって積み重ねて、あまつさえ俺が手伝ってるのに。



「こ、こここ、困るよ! そんな事言われたら!」

「そうだよな」

「シンジくんは確かに尽し屋さんだし、実はすっごく優しいし、ずっと見守ってくれてるし、私のために頑張ってくれてるなって思うけどさ! ほら! そういうのって恋愛とはあんま関係ないっていうか!」

「俺もそう思うが、大袈裟に褒め過ぎだ」

「あはっ! というか、私にはコウくんがいるじゃんかぁ! ヤダな〜もぉ〜。そんなことになっちゃったら、シンジくんが何のために頑張ってるか分からなくなっちゃうでしょ!?」



 その通り。



 だから俺は何も考えなかった。考えようとすらしなかった。恋ってのは一途なモノで、どんな事があっても心変わりなんて無いって信じてたから。



 それが、俺の生き方だったから。



「悪かった、女から好かれた経験がねぇからさ」

「あ、あり得ないって! だって、私って一応みんなに人気あるからさ! なんていうの? ほら、シンジくんに頼むくらいメチャ腹黒いし! やっぱ色んな男にいい顔したいなって思っちゃうんだよね!」

「そうかい」

「だ、だ、大体さ。シンジくんなんて絶対にヤバいじゃん!? 異常じゃん!? あんな真剣に一途への想いを語るような男にさ! あ、ありえない、でしょ……っ」



 俺は、何も言わずにただ立ち尽くして彼女の俯く顔を見ていた。



 やがて。



「分かってる。私には、そんな男に恋する資格なんてないよ」



 彼女は羽織っていたパーカーの袖を強く握って無理に笑った。潤んだ瞳に月明かりが乱反射して万華鏡のように輝いていた。幻想を閉じ込めた内側に何を隠しているのだろう、素直に綺麗だと思った。



 けれど、思っただけ。それ以上は、何もない。



「……そんなに刺激的な話だったか」

「そ、そうだよ。ビックリしちゃったんだからね。まったく、シンジくんの口の上手さで愛なんて語られたらさ。ぜんっぜん好きじゃなくたってドキドキしちゃうよ」

「悪かった、反省する」

「ホントだよ、こんなに尽くしてくれながら変なこと言うんだから。私じゃなかったら絶対にヤバかったんだからね? マジでっ!」



 果たして、明日からどんな顔をして彼女に会えばいいのだろうか。どれだけ謝れば彼女に許してもらえるのだろうか。どうやって償えば彼女の恋は戻るのだろうか。



 そこまで思って、俺は考えるのをやめた。



「ごめん! やっぱこっちだった! 帰るね!」

「そうか、おつかれ」

「今日は帰ったらもう寝るね! 心配しなくてもマニュアル覚えてるから大丈夫だよ!」

「わかった、おやすみ」

「うん! おやすみ!」



 そして、月野はパーカーのフードを被ると俺から逃げるように来た道を戻っていった。



 ……何故、手伝う前にその可能性へ行き着かなかったのだろう。



 月野ミチルが脆い理由、その断片を俺は知っていたハズなのに。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「この時、月野のトートには何が入っていたのか?」 「月野は何をしようとしたのか」 [一言] 繰り返し読みすぎて気づいてはいけない何かに気づきそうだぜ
[良い点] あぁ、落ちたんだな…って分かるの良き [気になる点] 全てを見透かす男を動揺させるにはやっぱラッキースケベしかないのか(読みたいだけ)
[良い点] あ〜〜、好きです。
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