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くたばれハーレム  作者: 夏目くちびる
ハーレムより受ける生理的嫌悪感の正体
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 ここは、西城高校の2年B組である。



 どこにでもある普通の学校の、どこにでもある普通の教室。そんな当たり前の中に笑顔を咲かせているのは、どこにでもある普通とは明らかに一線を画す四者四様の美少女たちだった。



 楽しげに挨拶を交す中心にいるのは、一人の男子高校生。一見、グループの中で彼だけが普通と変わらないように見えるが、特別な彼女たちに囲まれているという現実が彼の異常性を充分に演出している。



 彼はそんな中で何の気兼ねや躊躇もなく、ふんわりと前髪を弄ってボーっと気の抜けた表情を彼女たちに披露した。



「眠そうですね、コウさん。昨日はよく眠れなかったんですか?」

「あぁ、ちょっとね。でも、いい夢を見れたよ」

「なによ、いい夢って」

「別に、昔の夢だよ。楽しかった頃の夢」

「楽しかったって、もしかしてボクたちと話すのは楽しくないの?」

「そういう意味じゃないよ、勘違いさせちゃったかな」



 妙なケレン味は、彼のミステリアスを醸すのに足りている。そんな仕草を眺める美少女たちは淡い頬を赤く染めて、よそよそと互いに顔を合わせると誰が内容を聞くべきかを迷ったが。



「それで、どんな夢だったの? コウくん」



 やがて、未だに口を開いていない少女が僅かに顎を引き、男なら誰もが見惚れるような微笑みで問いかけた。



 一歩引いた場所にいた彼女が、先の美少女たちと目を合わせたのかは定かでなかった。



「教えない、ありふれた出来事だって笑うから」

「そんなことないですよ! 教えてください!」

「ボク、内緒にされたら授業中も気になって集中できないよ〜」

「ふ、ふん。聞いてあげるって言ってるんだから、大人しく話しなさいよ」

「いや、本当に大したことじゃないんだよ」



 寄せては返す波のように、彼と彼女たちの押し問答は続く。焦れったさに少女たちの感情が昂ぶれば、先程と同じように一歩引いた彼女が質問を投げかける。



 繰り返し、繰り返し。そんないつも通りの彼らの日常だった。



 ただ、時々は少女たちの想いが唇から溢れることがあった。或いは甘く、或いは甘酸っぱく。何かの幕が上がるような、例えばそれらすべてが兆しだとしても、きっとこの関係は永遠に続くのだろう。



 なぜなら、彼が気がつくことは決してないのだから。



 限りある五つの青春が渦巻き滞留した、このドロリと淀む行き止まりに流れは起こり得ないのだ。



「……そっか」



 少女は、返事と同時にゆっくりと開かれた教室の扉を見た。



 脳裏によぎった予感が、しかし青春の背景に溶けて消えていく。何を感じていたのか刹那的に考えたが、それもピシャリと扉が閉められた音でかき消された。



 いつも通りが、ここにある。



 彼女は、弱々しく笑った。

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[一言] 停滞はやがて淀みとなり、腐りゆく 常に流れ行き、留まることなかれ
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