おつとめ
宿屋が連なる大通りからひっこみ、商家で働く者たちが暮らすだろうこじんまりとした家が並ぶ道を進む。
生垣をもった他よりも立派な家をみつけ、ぐるりとまわる。
そこから一番近い長屋に立ち、この地の寺であげられる経を唱え始めた。
がたがたと戸をあけた女は少しの米を鉢にくれた。
その足元からじっとジョウカイを見上げたこどもが、いきなり脛をけってきた。
「これ!おまえなんてことを!」
「だって、チョウイチみたいに働かねえで米食おうとしてる」
「おぼうさまはこれがお勤めじゃ!」
子どもの頭をはたこうとした母親の手を、ジョウカイはとめた。
「子どもにはそうみえよう。 ―― しかし、その、チョウイチというのは?」
頭をさげた女は、むこうの生垣のある家にすむ男だと顔をしかめた。
「三年前までこの長屋にいて、みばがいいだけの働くのが嫌いな男でねえ。女を捕まえてきちゃあ、金だけまきあげてすぐに捨てての繰り返しで、賭け事もするからいっつも金がないって言ってたのさ。 それが、なんだかいきなり金回りがよくなって、むこうに家を買って。ところが働いてる気配がまったくないし、前みたいに女がひどく出入りしてる様子もないしで、どうなってるんだかって、いっつもうちの旦那が文句いってるもんですから、子どもも覚えちまって・・」
なるほど、とうなずいた坊主は、身をかがめ、わるいがこの米は『ホトケ』さまにいただいてゆくぞ、と念をおした。