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弁天さん



 ちょうど握り飯を持った女が出てきたところで、礼をいってそれにすぐ手をだしながら、ジョウカイは建物をみあげた。


「ずいぶんと、にぎわっておられるようだ」


 女は大きくうなずいて、「うちには弁天さんがいるからさ」と笑う。


「弁財天さんか?」

 まじめに驚いたようにすれば、女は嬉しそうに話し出す。

「本物じゃあないですよ。でもね、粋で女っぷりがよくて、そのうえ縁結びしてくれるんですよ、うちのオトイちゃんは」


 ほお、と感心し、ここで働く女かと聞く。


「三年ぐらい前から働き出して、それからだね。うちがこんなにはやりだしたのは」


 それまでは、他の宿屋と大差のないものだったと言う。


「オトイちゃんとこの旦那は患いついてから、まだよくならなくってね。このむこうの集落に住んでるんだけど、自分で畑やるよりこっちのほうがお金にもなるし、食べ物も余れば分けてもらえるしね。 助かりますって言うけど、助かってるのはみんなだよ」

 

 女のはなしによると、オトイが働き出してから客筋がよくなり、他の宿屋のように夜の相手をするような商売はやめることにしたという。


 すると、女や夫婦ものの客が増え、宿屋の雰囲気が明るくなった。

 さらに、店の中で働く者どうしや、客としてきた者との縁をオトイがいくどかとりもって、これまで六組も添わせたという。



「ほお。―― しかし、そのオトイさんというのはなかなかの女というではないか。ならば、オトイさん自身に言い寄る物も多かろう?」


「それがね、―― 」



 この宿屋のあるじがはじめにオトイに目をつけて、ちょっかいをだそうとしたという。

 オトイは懐から短刀をだし、自分に手をつけるというのは、旦那さまであるムラヤマシモンを侮辱するもおなじこと。それなりの覚悟があるのか、と刃をむけたままつめより、宿屋中を逃げ回った主がどんづまりに追い込まれ、半泣きで「本気じゃなかった。おれがわるかった」というと、すっと刃物をおさめたオイトが膝をたたんで床に手をつき、「そうだと思っておりましたが、主人を貶めるようなお言葉に妻として怒りがおさまらずに、このような馬鹿なことをいたしまいました。どうかお許しくださいませ」と頭をさげ、主の威厳はどうにか保たれ、他の男は絶対にオトイに言い寄るまいと誓ったという。



「それはまた、おもしろい」


「いい女なんだよオトイさんは。なんだかすっとするぐらい。―― きっと、・・・オトイさんの旦那さんってのは身分のある人で、オトイさんは身分ちがいで、駆け落ちしたんじゃないかって、みんなで噂したんですよ」

 


 

    命をかけた恋




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