小さな毬
ここでおわります
うむ。と太い首をかく坊主が空をみあげた。
いつのまにか、白いちょうちょうが舞っている。
「心配をして、むかえに来たか。 すまぬな。もう帰すゆえ」
「・・・お坊様?ほんとうに、これだけで?」
「これだけ・・・おお、そうだな」
坊主が懐をごそごそさぐり、小さな毬をとりだした。
「 これをな、生まれてくる赤ん坊に、持たせるといい。―― なにしろ、幼き頃は『力』の加減がわからぬものだ」
「・・・・お・・」
「その風呂敷の中身、宿屋の者にもらいうけた赤子の肌着であろう? おお、ちょうちょうがおどろいて狂ったように舞っておる。 はよう帰って旦那に話すとよい。―― そうしてな、また、ふたりで決めるがいい。 もうひとり、命をかけても守らねばならぬものが生まれてくることの意味をな。―― 『蝶』を封じたくなったら、《アオタの鬼塚》にくるといい。『散歩』にでてなければ、わしはそこにおる」
せわしなく舞い続ける蝶を笑ってみあげ、坊主は杖をつかい、ひらりと橋の欄干をとびこえた。
川上にむかい、水の上を土の道をゆくがごとく歩いてゆく坊主の背に、オトイはずっと頭をさげつづけ、雲から出た月は、
――― 白い蝶が、毬の上にゆっくりと舞いおりるのを、照らしていた。
読んでくださった方、目をとめてくださった方、ありがとうございました!
この坊主はそのうち『西堀』の隠居のともだち、ヒコイチの近くに出てまいります。よろしければ、そちらものぞいてやってください




