がてんが いった
「それで、薬を飲ませたのか?」
「飲んだら、どういうことになるかは、伝えましたよ。 そんで、『飲んでほしい』って頼んだのは、あたしですよ。・・・そんなにあたしのことが心配なら、蝶にでも姿を変えてのぞきにおいでって。―― さあ、どうします? あたしは人間をそそのかして、《とりころそう》としてる妖怪ですよ。それに、どうやらあのとき落とした薬を、別の人間も飲んじまったみたいですしね」
「知っておったか?」
「ええ。なんだかあちこち飛んで、きっとあたしのことをさがしてたんでしょう」
なぜか坊主はおかしそうに笑い、いやそっちはもう片付いたわ、と数珠をさわった。
「蝶を封じ込めてそのへんの記憶も封じ込めたわ」
「・・・いいんですかい?人間にそんなことして」
「うむ。丸くおさまればよいのだ」
ジョウカイの杖がこん、となった。
止まっていた川の水が流れだし、空の雲もゆっくりとうごきだす。
「いや。これで合点がいったわ。宿屋の庭から、立ち働くおぬしを眺めるかの蝶は、あれほど弱弱しい生気ながら、満ち足りた『気』にあふれておった。―― あの薬、おぬしの旦那が、頼んだのであろう? おぬしの知らぬ間に、弱った体で稲荷社にお参りを続けて、すこしでもながく、おぬしのそばにいられるようにと頼み続け、願いを聞き届けた とある大明神 が、あの日おぬしを呼んだ」
旦那の願いを叶える『秘薬』をさずけようぞ、と。
オトイは抱えた風呂敷をなでて笑った。
「それいじょう、無粋なことはおっしゃらないでくださいまし」




