聞いてやるから 言ってみな
「あの方との縁は、きっとこれっきりなんですよ。だってね・・・ほんっと、いやンなるくらい、あの人、あたしに惚れてて、 もお、きっと、・・・次は、ないですよ・・・」
オトイが働きに出てしばらくしたある日、戻ればシモンが家から離れた道端で座り込んで待っていた。
起き上がるのもやっとの体でどうしたものかと思ってみたら、頬のこけた男は前とかわらぬ微笑みをのせ、オイトが心配だったのだ、と細い声で言った。
『―― おまえが、他の方たちとうまくやってるか、心配なんだ・・。ほら、オトイは少し、気がつよいところがあるだろう?それに・・・やはり、いい女だし・・・。今日は、少し調子がいいから、もしかして、みにいけるだろうかと思ってな・・・』
せき込むように笑う男の手をとって、ばかだねえ、と笑ってみせた。
あたしを誰だと思ってるんだい?ムラヤマシモンの妻だってんだ。気遣いだって、あしらいだって、旦那様に恥じるようなことはなにひとつないよ。
しょうがないねえ。そんなにあたしから目をはなしたくないってのかい?そんなに惚れ込んでてこの先じじばばになるまでもつのかい?
聞いてやるから、どんなにあたしにほれぬいてるのか、言ってみな。
『 うん 。 いっときも、離れたくないよ。 わたしは、命をけずっても、
オトイといっしょに いたいんだ 』
―― オトイはただ、泣き笑いするしかなかった。




