父というひと
いや、半分は人だ。
ジョウカイの場合は父親が人だった。
母親は、世にいう、妖怪のたぐいである。
その、父と母は、ジョウカイが家を出るまでいっしょに生活していたから、家族としての思い出がしっかりとあるし、そうやって育ったので、人としての、情や、想いは、他の仲間たちよりも、かなり深いところまで理解できる。
なので、《こっち》の坊主をやることとなってしまった。
――― まあ、逆らうことはできなかったが・・・
母親の親戚だとかいう、どうやら《そっち》の世界ではかなり力のある『おじ』が登場したのだ。
あのときは、父が腰にさした刃をぬいたので、幼かったジョウカイは急に父親がこわくなった。
ぞろりと姿をあらわしたそれは、月の光に照らされてではなく、おのれ自身でひかってみせた。
どんよりとゆれた、重く青い炎に、本能的な恐怖がわき、それをかまえる ―― 父が、こわかった。
普段からでかけるときに父は『カタナ』と呼ぶその細長い刃物を腰にした。
ジョウカイ一家の住む場所からいちど『外』に出れば、何が起こるかわからないからだと父は教えた。
幼いジョウカイは、その意味がわからなかった。なにしろ父が、その刃を鞘からぬいたところを、いままで見たことがなかったのだ。
いつもにこにこと穏やかな様子で母に怒られるジョウカイを見守り、ときにはかばいだてして一緒に怒られるほど、気のやさしい父だった。
『外』とよぶ、里を少しにぎわせたような小さな村に出たときも、買い物で値をふっかける相手に文句を言うでもなくあきらめたように笑ってみせ、山道で賊にあったときも、おだやかに笑いながら、母からもたされた財布をすべて渡してしまうありさまだった。