地神様(ぢがみさま)
「たしかに。・・・あの人は、こんな半端な妖怪と生きて行こうって決めて、お家のことをぜーんぶ捨てちまったぐらいの人です。 はじめは、あの人の父さまから、あたちたちの命を狙って追手がかかりました。そのとき助けてくれたのは、やっぱりあたしの古い仲間でした。あの人は、人として恥ずかしい、って、あたしたちに謝りました。・・・なんてエか、こっちに近い人なんですよ。―― あたしも、あの人のおもいにこたえようと思ったから、きっぱりと人間で生きていくことに決めたんですよぉ。二人で、慣れない畑仕事して、のんびり生きていこうって・・・。でも、やっぱりうまくいかないんですねえ。あの人が、あんな病にかかっちまうなんて・・・」
「・・・治らぬのか?」
「ずいぶんながいこと、あたしに隠してたんです。まさか、血の混ざった痰を吐いてるなんて・・。あたしは、やっぱり元が人でないからですかねえ、病もうつらないし、とにかく体が丈夫でしてね。で、あの宿屋ではたらかしてもらってんですよ」
「おぬしが来てくれて助かったと」
オトイはなんだかすまない気持ちになった。
「あたしのこと、弁天さまになんか、たとえちゃいけないんですよ。ここはもともと地神様がいいんで、ちょっと風のむきをかえりゃあ、すぐにいい結果になるんですよ」
坊主が、地神か、と目を丸くした。
「なるほど。それであの蝶を守っておるのか?」
オトイが顔をあげると、三日月にかかった雲は止まったままだった。
「―― 地神様とは、あたしが死んだあとに主従を結ぶお約束をしております」
そのかわり、シモンの魂である蝶がとんでいる間、さまざまなものから守ってもらう約束なのだ。
「人として死ねば、生まれ変わりも待っておろう。地神に縛られれば、動けぬぞ」
「わかっております。―― でもね、お坊様、次にまた、シモンさまと巡り合えるとは限らないじゃないですか」
わかっている。『縁』がなければ、生まれ変わっても会うことはない。




