橋の上
細い三日月が雲からようやく出たときに、オトイはその橋に大きな影があるのを見た。
「あれま、お坊様、こんなところで逢引きですか?」
「逢引きの相手はおぬしだがな」
坊主は笑いながら杖をトンとついた。
オトイは後ろにとびのき、ほつれた襟足をなおす。
「いやだよ。―― 《結界》なんざ無粋なもんいらないよ。あたしゃ逃げもかくれもしませんよ」
「ふむ。ならば、とにかく橋の上にこい」
オトイは少し眉をよせて息をついてから、小さな太鼓橋に足をかけた。
「おぬし、いずこの妖狐の縁者だ?」
「いやだねえ。これだから《坊主》は。―― で?どこの誰に頼まれたんだい?あたしのことをさ」
抱えた風呂敷包みをなでるようにオトイはたずねる。
坊主は「はて」と首をかしげた。
「わしはすこしばかり気になることを、ただしに来ただけだがな」
「はあ?あんたみたいな法力の坊さんが、そんなわけないだろう?あたしの正体が、どこかでばれたんだろ?」
オトイには、心当たりがあった。
「ああ、あんな場所で『会う』のは、すこしばかり用心がたりぬな」
――― ああ、やっぱり
「・・・あのお社は、この辺じゃめずらしくいい『場所』にありましてね。ゴホンゾンと会うのにちょうどいいとこなんですよ」
「おまえを人間にしたほどの力の持ち主となると、限られてくるな」
「そこは、さぐらないでくださいまし・・・」
まあいい、とジョウカイは笑った。




