知っておったか?
「ハクジキともうす、女の顔をした鳥の妖物でな。別名をヒクイドリともいって、埋葬したての墓にしばらくいつき、ぬけてゆく魂をくうのだ」
「埋葬って・・・そのときにはもう魂はないだろ?」
「ふつうに亡くなった者の魂は、そんなに早くはぬけきらぬのだ。 よく考えろ。棺にいれて、葬儀でみおくり、墓にいれるまで、みな、人として扱うではないか。魂はまだあるのだ。 墓にうめてしばらくたつと、まず、『人魂』というかたちで少しずつぬける。ヒクイドリは、それをくう。そして法要がおわり、最後の魂がぬけるのも、待つ」
ジョウカイは大きな体をかがめてチョウイチに顔を近づけた。
「おぬしの魂である白い蝶など、見つかればひとたまりもないわ。一瞬でおわるぞ」
「そ、そんなの、見たことねえし、信じられねえな」
「見たときは、おぬしの命がおわるときだ。それにな、――― 」
杖をたて、しゃがみこんだ坊主は大事なことを伝えるために、ゆっくりとしゃべった。
「『魂とばしの術』をする者は、おのれの命をけずることになっておる。 ―― おぬし、ここのところ自分の顔を鏡で映してみたことがあるか?その頭、白髪だらけだと、知っておったか?」




