効果
起きても夢の中身どころか、横たわったおやじの白髪のかげんまでも覚えていた。
まったく嫌なものをみたと酒に逃げた二日のあとに、ただ一人、今の居所を教えていた里の幼馴染がやってきて、おやじが死んだと伝えた。
いやいやながらも数日あとにしかたなく戻り、墓参りだけすました後に、顔をだした家のなか、じっとうらめしげに見つめてくる母親に、財布を投げつけてすぐに村をでた。
その帰り道ひどい雨にあい、ちかくの神社の社にもぐりこんだ。
あの狐憑きの『薬』を拾った時を思い起こしながらなんとなく気分も悪いまま横になると、
―― また、夢をみた。
飛んでいたチョウイチは、またしても自分の家にはいりこみ、梁の上から下をのぞいていた。
家の中にはもう線香のにおいはなく、じゃらんじゃら、と金の音が響いていた。
なげつけた財布には、里に帰る前に、いままでさんざん金を巻き上げた女たちにすがったり脅したりで集めた、ありったけの金をいれてあったのだ。
母親の、金を数える声がきこえた。ちゃりちゃりと、何度もそれを積みあげる音。
ぶつぶつと何かを言うのが聞こえてきた。
『―― まったくよお、こんなにあったら、あんたにももっといい薬買ってやれたのにねえ。いまさら遅いんだ。 うちにはあの子しかおらんのだから、あたしらのめんどうみるのは当たり前なのに、ほんっと、どうしようもない子だよ。 親不孝もんで恥さらしで、あんなの産んでもしょうがなかったよ。―― これと同じで、いらないもんだ』
ぱちりと、目が覚めた。
熱をもった目元を着物の袖でぬぐい起き上がり、ちくしょお、とこぶしをにぎった。
夢ではない。
母親がさいごに『いらないもんだ』とつまみあげた小さな貝殻は、むかし一人だけ情け深い女とつきあったときに、《お守り》だからとくれたものだった。
――― おれは、どうやら寝ている間に、どこかにとんでいけるらしい・・・
『狐憑きの秘薬』の効果が、はっきりとした。
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