腐っておる
生垣はきれいにととのえられている。
本来ならばどこぞの大店の旦那が、手習いの師匠を囲うような家だなとジョウカイは微笑む。
先に裏にまわってみれば、閉じられたままの板戸のむこうから、コトの最中の女のあえぎ声がした。ふむ、と考え正面にまわる。
腹に力をため、「ごめん」と数度声をかけた。
中の気配があわただしく動き、しばしのち、戸をあけたのは顔色の悪い浴衣をはおっただけの男だった。
「なんだ、坊主か。うちは檀家じゃねえぞ」
「拙僧は旅の僧でござってな。この家に漂う気配の『正体』をご忠告申し上げようと」
「はあ?なにが漂うって?おかしなこと言うんじゃねえぞ」
そのとき、奥からすごい勢いで走りでた女がジョウカイの脇をすりぬけ表にとびだしていった。
浴衣の男があわててあがりがまちからとびおり、女を追おうとするのを、坊主の大きな手がとめた。
「はなせ!なんだってんだこの坊主!」
「まあ、たしかに見場はよい男だが、おぬし、腹の奥底までかなり腐っておるの」
「なんだと!?」
ふりむきざま振り上げた男の腕は、あっけなく坊主につかまれた。
「まあまあそういきみなさるな。―― おどした女がひとり逃げただけであろう?」
「!な、・・・なんで、知ってんだよ?」
「―― どこで、それをさずけられた?」
ずい、と顔をよせれば、男がぐっと口をとじ、みあった目から色が抜けたとみえたとき、突然ぐにゃりとくずおれた。




