エセボウズ
そのうち『西堀の』ともだちのヒコイチともからむ坊主のはなし。
ちょっと散歩にでて、気になったから蝶をおいかける。
ジョウカイがそれをみかけたのは、いつものように足のむくまま何日もかかる『散歩』に出ているときだった。
頭をそった大柄な男はただでも目立つが、ジョウカイはさらに首からおおげさな長い数珠をさげ、念仏を彫り込んだ杖を手に歩く。
数珠は粒のそろった水晶でできており、念仏は、さまざまな宗派の経典からぬきとったお題目をこれみよがしに並べてある。
つまり、―― エセボウズである。
この世のどの寺でも修行したことがないし、どの宗派にも属していない。
だからといって、じぶんがあたらしくおこした信仰なども持っていない。
だが、たいていの宗派の経はとなえられるから、金に困ったときは鉢を手に、その土地にある寺の宗派の経をとなえながら長屋の近くを歩き、ほどこしをもらう。
偽物なので、寺に世話にはなれない。
本物の坊主がむこうのほうに見えたときは、すぐに脇道にはいる。
なにしろ正体がばれるとやっかいなことになる。
偽坊主という以前に、人ではないのだ。