表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

第6話

(なんなの、この人――!)


 心でつぶやいて、リネットはついつい一歩足を引いてしまった。


 壁にかかとが当たる感触に、現実に戻ってくる。


(そうよ。ここはお話を逸らしましょう。そのあと、ゆっくり訳を聞いて――)


 冷静さを欠いてはならない。


 こういう相手の場合、ペースに巻き込まれてはならない。果たして、レックスにはどんな思惑があるのだろうか。


(どういう思惑であっても、私は乗らないわよ!)


 万が一、リネットの性格が夢見がちであったなら。ここで喜んでレックスのプロポーズを受け入れただろう。


 玉の輿、シンデレラストーリー。ここら辺の言葉が適切か。


 とにかく夢を見ることができる娘なら、喜んだはず。


 ただ、不運にもリネットが現実主義者だったというだけだ。


「れ、レックス殿下。一度、落ち着きましょう。そうです。お話し合いをすると分かり合えますわ」


 ……これでは命を狙われ、命乞いしているみたいじゃないか。


 口にしてから理解し、リネットは血の気が引くような感覚に襲われた。


 王族に対して無礼すぎる言葉遣いだ。それに、王族にこんなことを言うのは不敬。


 リネットがサーっと顔を青くしていると、レックスは考え込むそぶりを見せた。


(まさか、私をどういう罪に問おうか考えている――!?)


 ネガティブな考えしかないリネットは嫌な想像をしてしまう。


 唇がわなわなと震えた。周囲の人間たちはここぞとばかりにひそひそ話をしている。


 誰か一人くらい、助けてくれてもいいだろうに。


(まったく、貴族とは薄情な生き物ね……!)


 こぶしを握り、リネットは心で悪態をつく。


 そのとき、ふいにすぐそばから「よし、わかった」という声が聞こえた。


 リネットははっとする。そうだ。今助けを乞うべきは、周囲の貴族に対してではなく、レックスに対してだ。


「ぶ、無礼をお詫びいたします。なので、どうか――ぎゃあっ!」


 リネットの謝罪の言葉など、レックスは聞こうともしなかった。


 彼は謝罪の言葉を最後まで聞くことなく、リネットの身体を抱き上げる。


 まるで重たいものでも運ぶかのような。到底女性を運ぶ抱き方ではない。


 ついでに、リネットの悲鳴も貴族令嬢があげるべきものではなかった。


「わ、私をどうするのですか!? お、お詫びはいくらでもしますので――!」


 これはとにかく、命乞いをしなくては。


 不敬くらいで命を取られることはないだろう。せいぜい財産の一部を没収するレベルだ。


 もちろん、それは恐ろしい。アシュベリー子爵家は裕福とはいえ、貴族の中では貧乏な部類だ。


「リネット嬢。先ほど、キミはお話し合いをしたら分かり合えると言ったな?」


 レックスが真剣な声で問う。どうやってもごまかせそうにないため、リネットは観念して「はい」と答えた。


(やっぱり、不敬で罰せられてしまう――!)


 しばらく留学していたということもあり、リネットは彼の性格をよく知らない。


 そもそも三年もたてば人間にはある程度の変化があるものだ。以前の情報があったとしても、役に立たなかっただろう。


「で、殿下! 謝罪はいくらでもします。なので、罰するのはおやめください!」


 ここが社交の場であるということなど、リネットの頭からはすっぽりと抜けていた。


 見苦しいと思われてもかまわない。ここは命乞いをするべき場面だ。


(罰せられるなど、冗談じゃないわ!)


 リネットが控えめにも暴れると、レックスはさも当然とばかりに踵を返した。


 途中、キャロラインと視線が交わる。彼女はころころと声をあげて笑っている。


 意味がわからない。


「まぁまぁ、レックスったら」


 すれ違う際に聞こえてきた彼女の声は、ひどく楽しそうだった。


 リネットの身に突如降りかかった不幸を喜んでいるのだろうか? いや、そんな性悪な女性だと思いたくない。


「レックス殿下っ――!」

「悪いが、少し大人しくしてほしい。俺だってキミを落としたくないんだ」


 どうやら、このまま暴れると落とされるらしい。それを悟り、リネットは暴れるのをやめた。


 床に落ちたら絶対に痛い。ここは我慢だ。我慢して、レックスの説得を試みなくては。


「で、でんかぁっ!」


 しかし、さすがに周囲の視線が痛すぎる。リネットは顔を両手で覆う。


 一人百面相なんて間抜けな姿を見せたくなかった。


 そもそも、貴族令嬢は感情を表に出さないのがたしなみ。リネットのように感情が表に出てしまう娘は――完ぺきとは程遠い存在なのだ。

続きは明日です(多分)


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ