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第3話

※本日2話目の更新です!

 パーティーが始まって、しばらくしたころ。


 仕事仲間とばったり会い、話し込み始めた父を置いて、リネットは壁の花となっていた。


 リネットの周囲には華やかなドレスを身にまとった美しき令嬢たちがいる。彼女たちが身に着けるアクセサリーなどは一級品であり、リネットはかなりの場違い感を抱いていた。


 確かにリネットのように下位貴族の娘もいるにはいる。だが、みながみな迫力に押されているのか、壁の花になっている状態だ。


 もちろん例外もいる。しかし、彼女たちは社交界でも人気の高い者ばかりで、自分の魅力をよく理解している者たち。すなわち、リネットの同類ではない。


(うわぁ、本当に場違いだわ……)


 自身のグリーンのドレスを見下ろしながら、リネットは心でこぼした。


 ドレスにはレースがふんだんに使われ、布も何重にも重ねられているという重たいデザインである。


 重たいというのは物理的な重要のことであり、実際歩くのも大変だ。特にリネットは小柄で、ヒールの高い靴を履く。正直、いつ転んでもおかしくないと思っている。


 一人考え込んでいると、ホールの中央の扉が開いた。


 視線を向けると、そこにいるのはこの国の王妃キャロライン・ウィバリーだ。彼女は四十代には見えないほど若々しい容姿をしており、頭上には女性王族の証であるティアラが輝いている。


「皆さん、本日は我が息子のために集まってくださり、誠に感謝しておりますわ。どうぞ、お楽しみくださいませ」


 鈴のなるようなきれいな声で、キャロラインが宣言すると、会場内から拍手が聞こえてきた。


 リネットも浮かないように拍手をする。


 キャロラインはゆっくり中央の階段を下りていく。彼女の動きはさすがの一言だった。無駄のない動き。背筋はしっかり正しており、ヒールの高さをものともしない。


 まるで手本のような人だった。


(レックス殿下の妻になるお方も、あんな風にきれいな人なのでしょうね)


 キャロラインに見惚れつつ、リネットは思う。


 やはり、自分では無理だな。


 リネットは実感し、ぼんやりとキャロラインを見つめていた。


 瞬間――キャロラインと視線が合ったような気がした。


「っ!」


 まさか、王族の女性をぼんやりと見つめていたなんて。バレてはいけない。


 リネットは咄嗟に視線を逸らして、うつむいた。


 こういう場合、深々と頭を下げるのが正しいマナーだ。しかし、リネットはキャロラインの眼力に押されてしまった。


 こういうところも直したほうがいい。


(なんて、直せたら苦労しないわ)


 癖とはそう簡単に治らないからこそ、癖と呼ぶのだ。


 心の中で言い訳しつつ、リネットは高鳴った胸を押さえる。どうしてだろうか。キャロラインを見ていると――自身の胸が高鳴ってしまうのだ。


(それは、どうして? 私が王妃殿下のような女性にあこがれているから?)


 ……なんだか、それはしっくりこない。


 それに、胸の高鳴りとはほかに胸騒ぎもするのだ。嫌な予感、というべきなのか。はたまた――なにかが起こると、直感が告げているのか。


(本当に、意味がわからないわ……)


 もしかしたら、ここで運命の出会いをするのかも――なんて思えるほど、リネットの脳内はお花畑ではない。


 運命の出会いが起こるのは、美しい女性と相場が決まっている。リネットのような平凡な女性ではない。


(我ながら卑屈だわ)


 自嘲の笑みが漏れた。


 直そうとしても直らない卑屈さ。周囲に姉ミラベルと比べられ続けてきた。そのせいなのか、劣等感が人一倍強い。


 ミラベルは素敵な姉だ。優しいし、妹のリネットをよく可愛がってくれる。


 けど、周囲はそうはいかない。特に赤の他人はリネットとミラベルを比べた。


 比べなかったのは――そうだ。


(家族と使用人、幼馴染。あとは)


 そこまで思ったとき、ふいにパーティーホールにラッパの音が響いた。


 これは主役が来たときの合図だ。すなわち、レックスの登場ということ。


 先ほどキャロラインが現れたものと同じ扉がゆっくり開く。


 そして、中から出てきたのは一人の青年。


 背丈は高く、細身ながらにしっかりした体躯を持つ。はかなげにも見えるのに、どこか強者のオーラを持っている。


(レックス殿下)


 髪の毛は輝くようなはちみつ色。ふわっとした質感の、いかにも柔らかそうな髪だった。


 彼の瞳は真っ赤であり、ルビーのような美しさを持っている。しかし、目の奥には冷淡な色も宿っているようで、一筋縄ではいかない人物だということを伝えてくる。


「……なんてお美しい人」


 誰かのつぶやきがリネットの耳に届く。


(――美しい)


 きっと、この場にいる全員が、この言葉しか脳内に浮かばなかっただろう。


 それほどまでに、十九歳を迎えたレックスは美しい青年に育っていた。

本日2話目の更新でした(n*´ω`*n)続きは明日に更新できると思います!


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!


(日刊ランキング45位も、ありがとうございます! とても嬉しいです……!)

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