第2話
2話目です(n*´ω`*n)
リネットは仕度を済ませ、アシュベリー家が所有する馬車に乗り込んだ。
アシュベリー家の屋敷から王城までは約四十分。貴族の屋敷は王城をぐるりと囲むように建っており、王城に近い場所に屋敷を構えているほど身分が尊いとされている。
当然、子爵家であるアシュベリー家の屋敷は王城から遠い立地に建っていた。
「リネット、今日も大層愛らしいね」
リネットの目の前に腰かける父――アシュベリー子爵がにこりと笑った。
対するリネットは彼のことを一瞥し、心の中で「親ばか」と言っておく。
「まぁ、お父さま。ありがとうございます」
本音は心に押し込めて、にこやかな笑みを浮かべて礼を告げた。
そもそも、父は心の底から思ったことを口に出しているだけだ。
貴族の当主の中には娘を政略結婚の駒としか思っていない人間も多い。だが、リネットの父は違う。娘であるリネットとミラベルをこれでもかというほど溺愛している。それこそ、目に入れても痛くないのではないかというほどだ。
「しかし、残念だねリネット。ミラベルも一緒に行けたらよかったのに」
父の眉が下がった。
しかし、リネットからすると姉が行ってどうするのだと言いたい。
ミラベルには婚約者がいるし、彼との仲は良好だ。王子に見初められたとしても、嫁ぐことはできない。
――ということを減らすために、今回は未婚の貴族令嬢ばかりが集められている。ちなみに、エスコート役は父、もしくは兄弟と決められていた。
「ところでリネット。今日の演奏は他国の楽団らしいよ」
「まぁ、そうなの!?」
音楽に通じているアシュベリー家の一員というべきか、父は音楽事情にとても詳しい。
それこそ、音楽関係では国王にも頼りにされているほどだ。
「なんでも、レックス殿下が留学先でぜひともとスカウトされたらしい。今回のパーティーは、レックス殿下の意向に沿っているからね」
父の言葉に驚く。
今回のパーティーにレックスの意向が存分に反映されているなんて――。
食事は彼好みのものが多いというし、父の言葉が正しければ楽団もレックスのお気に入りのようだ。
「……いつも思いますが、陛下も王妃殿下もとてもレックス殿下には甘いですよね」
甘やかされて育ってきたリネットが言えたことではないが、国王も王妃も末の王子であるレックスに甘い。
兄王子たちもレックスには甘いというし、さらに周囲はレックスに過保護だ。
それこそ、一時期は『鳥籠の王子』という呼び名が付いたくらいだ。姫ならばまだしも、王子なのかと思ったのは記憶に新しい。
「そうだね。レックス殿下は幼少期はとても病弱で、いつ儚くなってもおかしくなかったらしいからね。陛下も王妃殿下も、過保護になるのは仕方がないよ」
「……そうなの?」
「リネットも親になったらこの気持ちがよくわかるはずだよ」
父は言うが、リネットにはいまいちぴんとこない。
やはり、親にならないとわからないのだろうか。
(――って、私が誰かに見初められるなんてことあり得るの?)
少なくとも、自分には優れた能力などない。容姿も平凡だし、性格だってありふれたものだ。
つまり、そこら辺に転がる石ころと同じ分類。石ころはどう磨いても宝石にはならないように、リネットはリネットのままだ。
「なんていうけどね、僕としてはリネットにもミラベルにも結婚してほしくないんだよ」
続いた父の言葉に、リネットは笑うしかなかった。
「ですが、お父さま。私かお姉さまのどちらか、もしくは両方結婚しないと、アシュベリー家は途絶えてしまいます」
「そうなんだよねぇ。なんとも複雑だよ」
苦笑を浮かべた父がいっそ可哀そうに思える。
どれだけ娘を大切に思っていても、貴族である以上結婚は義務だ。特にアシュベリー家には現在男児がいない。
すなわち、ミラベルかリネット、どちらかが結婚し子を作らねば、家は途絶えるということ。
(家に関してはお姉さまが継ぐのが決定事項だけど、私は本当にどうなるのかしら?)
リネットの願望としては商家に嫁ぎたい。けど、リネットにも選ぶ権利があるように、相手にも選ぶ権利がある。
なにもいきなり婚姻届けを突き付けて「結婚してください!」なんて言えない。言えるわけがない。
結婚とは双方の意見をしっかりすり合わせ、行うものだ。決して一方的に決めることができるものではない――と、リネットは思っていた。のだが。
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