第5話
少し間が空いてしまい、申し訳ございません……(´・ω・`)
どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!
レックスが応接間に一歩足を踏み入れ、部屋の中を見渡す。
この応接間は屋敷で一番豪奢ではあるものの、高位貴族からすれば質素なものだ。それに、レックスは王族である。
……どういう反応をするのだろうか。
(レックス殿下、興味深そうに見ていらっしゃるわね……)
彼の目は、何処となくきらきらしているようにリネットには見えてしまった。
何となく、王子殿下らしくない。
「レックス殿下。メイドにお茶を持ってこさせますので、どうぞ」
「……あぁ、ありがとう」
レックスがあまりにも興味深そうに部屋を見渡しているためなのか、父がそう声をかけていた。
彼は父に軽く礼を言うと、来客用のソファーに腰を下ろす。目の前にはここで待機していたリネットの母がいる。
父は母の隣に腰を下ろす。……この場合、リネットは何処に腰を下ろせばいいのだろうか?
(普通だったら、一人掛けのソファーなのだけれど……)
何となく、レックスが期待に満ちた目でリネットを見つめているように感じられる。
その所為でリネットが躊躇っていれば、レックスに腕を引かれた。……そのまま、彼の隣に半ば無理やり腰掛けさせられる。
「……れ、レックス殿下っ!」
これに関しては、抗議しても許されるだろう。
心の中でそう思ってレックスに視線を送れば、彼は笑っていた。……それはそれは、きれいな笑みだった。
「と、ところで、レックス殿下は本日どういうご用件で、うちを訪ねられましたの……?」
あまりにも気まずい空気が漂っている所為なのか、母が引きつった笑みを浮かべてレックスにそう声をかける。
その言葉を聞いたためなのか、レックスは「あぁ」と声を上げていた。
「実は、俺はリネット嬢と結婚したく思っております」
「……それは、重々承知しております。お手紙にも、書かれておりましたからね」
レックスの言葉に父がなんてことない風にそう言葉を返した。母も隣で頷いている。……リネット一人、困っている雰囲気だ。
「なので、本日はその許可をいただきたく、こちらに来ました」
「……まぁ、わざわざ」
母が感心したように口元に手を当てる。
そりゃそうだ。王族ならば、挨拶など必要ない。ただ打診の手紙を送ってくればいいだけなのだ。
なのに、レックスはきちんと手順を踏んでリネットと結婚したいと言っているのだ。……リネットの気持ちは、無視されているが。
(……こう考えたら、レックス殿下は素敵なお方なの、かも?)
王族特有の傲慢さもなければ、リネットに対してしっかりと向き合ってくれる。
後にも先にも、こんな人がリネットを妻に……と望むことはないだろう。
それは、リネットにだってわかる。かといって、彼の求婚を受けるかどうかは、また話が違うのだ。
「……レックス殿下。私の方から、もうひとつよろしいでしょうか?」
リネットが一人で悶々と考えていると、ふと母が控えめに手を挙げていた。
その姿を見て、レックスが静かに頷く。……黙っていれば、大層な美形だ。リネットは、それを再認識する。
「レックス殿下は、娘を……リネットを、どうして見初めたのでしょうか?」
その疑問はごもっともだ。レックスは少し前まで他国に留学していた。さらには、幼少期は過保護に育てられている。
……リネットを見初める場が、ないはずなのだ。
「そうですね。そこに関しては、また追々お話したいと思います。ただ、俺はリネット嬢の優しいところや、臆病でもはっきりと物事を言うところに、惹かれております」
誤魔化された。
リネットが心の中でそう思うのと同時に、父と母も同じように思っていたらしい。けれど、顔に出さないのはさすがは貴族というべきだ。父など、笑っているほどなのだから。……いや、これは温かい目で見つめているのか。娘の恋路を。
(まぁ、私の恋路というのは、いささか語弊があるわね。だって、恋をしているのはレックス殿下の方なのだもの)
なんて言い訳をしつつ、リネットはレックスを見つめる。……彼は、まっすぐにリネットの父と母を見つめている。その真剣な横顔は、大層美しく……魅力的だ。
「さようでございますか。それだけ聞けただけでも、満足です」
母がそう言って、笑う。その目も、とても温かいものだ。やはり、娘の恋路を……と思って、止めた。考えれば考えるほど、虚しくなるだけだから。
「ですが、私たちはリネットの気持ちを最優先に考えたいと、思っておりますの」
でも、まさか母の口からそんな言葉が出てくるとは。
リネットは、そう思って目をぱちぱちと瞬かせてしまう。……レックスが、ごくりと息を飲んでいるのがリネットにも分かった。