表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

第2話

 一度深々と頭を下げたあと、リネットは顔をあげる。


 執務室の中は変わりない。執務椅子に腰かける父も、いつも通りの表情だ。


「どういうご用件でしょうか?」


 できる限り冷静を装って、リネットは問いかける。


 父がリネットを手招いたので、歩を進めて父の側に向かった。


「大した用件ではないんだよ。ちょっとした報告、というべきかな」


 肩をすくめた父の姿を見て、リネットはむっとした。


 対した用事ではないのなら、食事の際に話せばよかったのに。


 明らかに不機嫌なリネットの姿を見て、父は困ったように笑っていた。


 だから、リネットは気づいた。これはリネットを安心させるための嘘なのだと。


「なにか、ありましたか?」


 震える声を無理やり抑え込み、冷静を装って問いかける。


 リネットの様子を見て、父は覚悟を決めたらしい。こほんと一度だけ咳ばらいをした。


「実はリネットの元にレックス殿下からお手紙が届いていただろう?」


 予想もしていなかった切り出し方に、何度か瞬きをする。その後、うなずいた。


 確かにリネットの元には頻繁にレックスからの手紙が届いている。それは間違いない。


「実は僕にも届いていてね」

「……はぁ」

「そこに一度我が屋敷に来たいということが書いてあったんだ」

「……はぃ?」


 予想もしていなかった言葉をリネットはすぐに理解できなかった。


 目を瞬かせ、父を見つめる。父の真剣な表情は変わっていない。夢ではない。冗談でもない。


「も、もちろん、お父さまはお断りされましたよね……?」


 ワンピースの裾を握る手に力が入る。なにかを握っていないと、手が震えてしまいそうだ。


 リネットの問いに、父は「ははは」と乾いた笑いをこぼす。答えが予想できてしまった。


「まぁ、仕方がないよね。王家からの打診を断る権力など、我が子爵家にはないのだから」

「それはそう、ですけどっ!」


 父の言っていることは間違いない。子爵家ごときが王家に逆らうことは許されない。


 父は当主として、子爵として正しい選択をしている。ただ、リネットの気持ちもちょっぴり考えてほしかった。


「そ、そもそも、どうしてレックス殿下が我が子爵家にいらっしゃるのですか!?」


 問いかけたリネットの声は、露骨に上ずっていた。それに自分で気づくことなく、父に詰め寄る。


 だが、父は首をかしげるだけだ。どうやら、父自身も訪問の理由はよくわかっていないらしい。


「いや、僕たちにあいさつがしたいと書いてあっただけだ。あいさつの内容は、よくわからないんだが」

「……大体、予想できましたよ」


 リネットには、レックスが言うあいさつの内容が予想ができてしまった。


 彼はリネットを妻にしたいと、妃にしたいと言っている。すなわち、その件に対するあいさつなのだろう。


(大方、王太子殿下になにかを吹き込まれたんだわ……!)


 レックスだけならば、いきなりそんな突拍子もない行動をとるとは思えない。


 いや、あの純粋無垢で行動が読めない王子なら、別の意味であるかもしれない。けど、圧倒的にセオドリックの差し金という可能性のほうが高かった。


「まぁ、というわけだ。リネット、レックス殿下のお相手は頼むよ」

「えぇっ」

「こんなことを言ってはなんだが、レックス殿下はリネットのことを気に入っていらっしゃる。リネットが相手をしたほうが喜ばれるだろう」


 それはまぁ、間違いないことだとリネットだってわかっている。


 たとえ、そこにリネットの意思がちっとも反映されていなかったとしても、理不尽だと思っていても。


 身分とはこういうものだ。子爵令嬢ごときが、第三王子に歯向かえるわけがない。というか、普通に許されない。


「しょ、承知いたしました。ところで、訪問はいつ頃ですか?」

「三日後だね」

「早くないですか!?」


 せめて一週間後とか、二週間後とか。できたら一カ月後とか、三カ月後とか。


 それくらい先がよかったのに、訪問は三日後だという。まったく覚悟を決める時間がないじゃないか。


「まぁ、非公式での訪問だからね。そんなに気を張る必要はないだろう。私的な訪問だと手紙にも書いてあったし」

「そういう問題じゃないです!」


 父は朗らかに笑っているが、リネットからすると簡単に割り切れる問題でもない。


 レックスはリネットに気があるのだ。むしろ、惚れこんでいると言っても過言ではない。


 なにをされるか、わかったものじゃない。


(まぁ、レックス殿下になにか変なことをされる可能性は低いだろうけど……)


 しかし、こちらには覚悟を決める必要があるのだ。せめて、せめて。百歩譲ってもそこだけはわかってほしかった。


 リネットは心の底から思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ