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第11話

こちらのお話ですが、電子書籍化が決定いたしました(o_ _)o))

 何度も言うようにリネットは子爵家の娘である。


 王家がリネットを妃として迎え入れたところで、得られるメリットなどないに等しい。


 確かに王家からの信頼の厚い家かもしれない。だけど、公爵家や侯爵家にも年頃の娘はたくさんいる。


 なにも、リネットでなければならない理由など一つもない。


「……どういう意味、でしょうか?」


 身を縮めて、恐る恐る問いかけた。


 すると、彼はまるで獲物を見つけた肉食獣のように舌なめずりをした。


 彼はレックスとどこか似た顔立ちをしているというのに、仕草や口調からはほんの少しワイルドな印象を醸し出している。


 そのせいで、リネットは余計に怖くなるのだ。


「そりゃあ、ねぇ。俺らはレックスの恋を応援しているって言いたいわけだよ」


 セオドリックが目を細めて、リネットを見つめてくる。レックスの恋を応援。


「俺らはね、リネットちゃんとレックスが結ばれることを期待しているんだよ。……だから、どうかレックスのことを無下にしないでほしいなぁ」


 眉尻を下げたセオドリックだが、その声の節々には面白いものを見つけたと言いたげの感情が宿っている。


 ……レックスが正直者だとすると、このセオドリックという人間は完全に愉快犯である。


「だから、どうか――」


 セオドリックがリネットの細い腰を抱き寄せる。抵抗することもできず、リネットはセオドリックの胸にダイブしてしまった。


「どうか、レックスとのことを真剣に考えてやってほしいなぁって」

「そ、それは」

「俺のアドバイスを真に受けて、いきなりプロポーズするような弟、愛おしくて仕方がないだろう?」

「王太子殿下の入れ知恵ですか!?」


 大きな声が出てしまった。


 リネットのその言葉を聞いたセオドリックは、面白そうにくすくすと笑っていた。……これは完全に確信犯である。


「いやぁね、面白いじゃん? 俺は昔からレックスをからかって遊んでいるんだよ」

「……お人が悪いですね」


 眉をひそめて、はっきりと自分の気持ちを口にする。


 すると、セオドリックはまた笑った。リネットの身体を解放したかと思うと、今度は腹を抱えて笑い出す。


 ……まったく、失礼なことこの上ない。


「いやぁ、リネットちゃんは割とはっきり物事を口にするんだね。……レックスと同じくらいに愛おしいよ」

「め、迷惑です!」


 本当にレックスだけではなく、セオドリックにまで目を付けられるのは勘弁願いたい。


 その一心でリネットが小鹿のように震えていると、セオドリックは笑った。また、にんまりと。


「そんな小動物みたいな仕草と容姿なのに、言っていることは強気だね。……やっぱり、欲しいなぁ」


 セオドリックが、また一歩リネットに近づいてくる。慌てて、足を後ろに引いた。


 攻防戦の再開だ。


「俺、見てて退屈しない子が好きなんだ」


 リネットの背中が、壁に当たった。逃げ場はない。


「だから、リネットちゃん。どうか、俺の義妹になってほしいなぁ」


 目を細め、口元を緩めて。セオドリックがはっきりという。


 その笑みは一見すると柔和に見える。だが、どことなく表情がおかしい。


 つまり、彼は大爆笑したいのを我慢しているのだ。なんとも、質が悪い。


「か、勘弁してください――!」


 リネットが身を縮める。セオドリックはリネットの顔を覗き込んでくる。


 彼の男らしい顔が、視界いっぱいに広がる。レックスとは違う魅力を醸し出すセオドリック。


 間違いなく美形である彼は、大層モテる。……まぁ、きっと。だれも彼の中身がこんな愉快犯であることなど知らないのだろうが。


「ね、リネットちゃん――」


 セオドリックの手が、リネットの頬に触れそうになる。なんとかして、彼の手から逃れようと身をよじったときだ。


 部屋の扉が勢いよく開いた。


(――レックス殿下)


 扉のほうをこっそりと見ると、そこには驚愕の表情を浮かべたレックスがいた。彼はその目を真ん丸にして、セオドリックとリネットを交互に見つめている。


「ち、違います! 殿下、わ、私は、決して――!」


 セオドリックを誘惑したわけではない。


 とにかく、今はセオドリックよりも自分の名誉を守るほうが大切だった。王太子を誘惑なんて、お家取り潰しも免れない案件である。それも、証人がレックスともなると、信ぴょう性が高い。


「……あーあ、リネットちゃん。ゲームオーバーだ」


 対するセオドリックはのんびりと声をあげていた。……なにがゲームオーバーだ。


 ここは今、修羅場となりかけているというのに。


「レックス。一つだけ、言っておいてやる」


 セオドリックがリネットから距離を取って、レックスに向き直る。次に彼は頭を掻いた。


「――俺は、リネットちゃんを義妹にしたいなぁって思ってるから」


 そういうセオドリックの声は、とても楽しそうだった。


 そのせいで、リネットはセオドリックを強くにらみつけてしまうのだった。

また間が空いてしまって、申し訳ございません……!

次回から第2章の予定です!


あと、短めのお話を連載開始しております。

『軟派な聖騎士と寝不足聖女』というものです。作者ページから飛べますので、よろしければどうぞ……!

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