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42話「本当の目的地」

 新たに怪人が増援され、本部目掛けて向かってくる。


 グリックレッドの予想通りの展開に事態が進んでいる。

 ということは、瓦礫の向こうでは既に戦闘が終わっているだろうという事も、MASTには理解出来た。



──メールは作戦で伝えられていたが、そこにはこう書かれていた。


『先にブラックタイガーがMAST本部へ突入する事で、怪人をおびき寄せる。政府には怪人はブラックタイガーの一派だと思わせる芝居を打つと共に、怪人が来た方向を指し示す』


 ブラックタイガーは怪人が来た際、その方角を指差し「怪人のお出ましだ」とわざとらしく語った。

 それをドローンがちゃんと録画もしている。


『怪人は単細胞だ。きっと敵の基地からほぼ真っ直ぐに本部を狙ってくるだろう。ということは方角が分かるだけでも、相手の基地をある程度探れる』


 エーデルヴァイス時代の地下の抜け道は、予めブラックタイガーとグリックレッドが潰していたため、怪人は地上に出るしか無かったのだろう。


『初手の指揮官を半殺しにすれば増援を呼ぶはずだ、方角さえ分かっていれば、次に出た怪人の位置で、敵の本拠地なんて大体分かるだろ』


 なんと荒っぽい作戦かと思ったが、機能している以上怪人達の性質をよく知る2人だからこその結果なのかもしれない──。




 蒼士は通信機越しの長官に進言する。


「増援が続けばジリ貧ですし、ここも既に崩れかけています」


 確かに派手に暴れたのだろう、時折上部の鉄筋やコンクリートが、普通の人間などひとたまりもないほどの大きさで降ってくる。

 ここにいれば、いずれ生き埋めになってしまうだろう。


『ではどうする』


「エーデルヴァイスの本拠地を直接叩きます」


 長官の立場上、エーデルヴァイスなど既に壊滅している事は知っているのだろう。

 かといって、それを喋ってしまえば政府=エーデルヴァイスという図式が見えてしまう。

 それを危惧してか戸惑う長官に、蒼士は畳み掛ける。


「悪の組織なんて、それがどんなものでも存在してはならないんです」


 長官も正義を執行する者である以上、首を横に振る訳にはいかない。

 ましてや「政府が関与できない悪の組織」を潰して来るというのだから尚更だろう。


『わかった、しかしそれが何処にあるのか……』


「今データを送ります」


 蒼士に目配せされた翡翠がそう言うと。

 ブラックタイガーが指さした方角をマッピングした地図を示した。


「この範囲内で怪人の目撃情報や痕跡を、MASTチャンネルへと募集した結果、ここが基地だと思われます」


 彼は持ち前のハッキング技術で、翡翠が基地に到着するまでの間にチャンネルへとアクセスして情報を募っていたのだった。


『しかし、そちらに向かっている怪人はどうする』


「どうせもうここは使い物になりません。囮として時間稼ぎに使いましょう」


『わかった、怪人も今までより強い。くれぐれも気をつけるように!』


 長官のGOサインが出た瞬間、弾かれるようにそれぞれ動き出す。

 施設内でまだ破壊されていないシューターを見付けると、目的地を設定して乗り込む。

 いつもならば中野さん達がやってくれるが、今日は流石に人手不足のようだ。


 MASTは基地をそのまま残して、血湧博士の基地へと向かっていった。




 その様子を確認した大人二人が、ようやく一息を付いていた。

 瓦礫に背をもたれさせ、ふぅと息を吐く。


「作戦通りだな」


「ああ、当たり前だ」


 2人は肘同士をぶつけて、お互いの健闘を称える。

 グリックレッドは無傷、ブラックタイガーもマントが少し破れている程度で、外傷らしいものはない。


 安堵のため息と共にブラックタイガーが口を開く。


「で、茜ちゃんにお前さんが父親だって話せたのか?」


 グリックレッドはその言葉に固まり、それを見て察する。


「おい、そのために二人の時間を作ったんだろうがよ」


「いやまぁ、それはそうなんだが」


 言い淀むグリックレッドは、ここだけは作戦が上手くいかなかったなぁと頭を搔く。


「呆れたぜ」


「……目の前にするとな、今更な気がしてさ」


 ブラックタイガーは相棒のこんな弱気な姿を見た事が無かった。

 子供の居ない彼に、相棒の苦悩は理解出来ない。

 それでもこのヘタレた男の尻をどうにか叩きたいと思った。


「この作戦が終われば、何食わぬ顔で出ていく事は出来るかも知れないけどよ、それでいいのか?」


 相棒は神妙な面持ちだが、うんともすんとも言わない。


「お前がヘタレて逃げたのを美談にして、嘘ついて仕方ないとか言い訳して、ヘラヘラと娘の前に出ていけるのかって言ってんだよ!」


「そんなこ──」


 ブラックタイガーはその拳を、なにか言おうとした相棒の横っ面に振るった。

 頭を先頭に矢のようになったグリックレッドの身体は、そのままコンクリートを破壊して、瓦礫に埋もれた。


「アホかぁ!!」


 次の瞬間、元気に飛び出てくるグリックレッドは、勢いそのままブラックタイガーの顔へとパンチを放つも、しっかりと受け止められてしまう。


「まだ喋ってたろうが!」


「どうせ言い訳するんだろうなと思ってよ」


「せめて聞いてからにしろ! 首がちぎれるかと思ったぞ!」


 ギリギリと鍔迫り合いのように拳を受け止めたまま動かない二人だったが。


「っふ、ククク……」


「ふはっ、ははははっ」


 どちらともなく笑い始めた。


 グリックレッドは拳を収め、笑いながら顔を手でおおう。たとえ泣いていたとしても、仮面の下なのだが。


「お前さんは正義の味方だろうが、もっとしっかりしろよ」


 今度は優しく背中を手で叩くブラックタイガー。


「そんなもん、10年前に廃業してら」


「だとしても、親父ってのは正義の味方じゃなきゃなんねぇ」


 その言葉に相棒の肩が小刻みに揺れる。


「お前のパンチ痛えなぁ、涙が……出てきたよ」


「そか」


 二人はしばらくそのまま黙っていた。

 もうすぐ来るであろう増援を、漏らすこと無く叩き潰せばいいだけだ。

 作戦の最後はMASTに任せるしかないだろう。


「大人のツケを子供に払わせるってのは……気分の良いもんじゃないな」


「全くだ」


 あとはただ祈る事しか出来ない二人だった。

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