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38話「ヒールの役割」

 MASTが本部に到着する少し前。

 ブラックタイガーは突如として現れた。

 水質検査場にカモフラージュした上物の、玄関から堂々と。


 受付の女性は慌てつつも、緊急ボタンをすかさず押す。

 腐ってもここは秘密基地なのだ。冷静な判断といえる。


「いまからこの基地を破壊する!」


 ブラックタイガーが、お馴染みの仁王立ちに腕組みといったポーズでそう叫んだことで、受付嬢以外の人間にも、彼がどういった要件でここに来たのか、一瞬で周知された。


「遅れて怪人が来る。戦闘要員でないもの、敵対心の無いものは今うちにここを去れ!」


 なんと律儀な怪人だろうか。

 しかし、あまりの突飛な行動に困惑気味な者も多く、すぐさま逃げるというより、様子見といった雰囲気が漂う。


「おいおい、逃げろってんだよ、なぁ」


  ブラックタイガーは困ってしまった。

 ちゃんと伝えれば逃げてくれるだろうと考えていたからだ。

 

 いつでもこの辺の考えが浅いのが玉に瑕で。

 グリックレッドが文面を考えるといったにも関わらず「大丈夫だ、俺に任せておけ」といい格好だけしてしまったが故に、ちょっと微妙な空気が流れてたりする。


「いいから逃げてくれよ、暴れちゃうよ? 危ないから、な?」


 あまつさえそんなことを言い出すものだから不信感しかない。

 むしろ彼よりも気丈に言葉を返してきたのは、目の前の受付嬢だった。


「貴方はここがMAST本部だと知って来ているのでしょう? だったらここで働いている人間が、あなた達の様な横暴に屈する訳がありません、お引き取り下さい」


 両手をお腹の辺りで揃えて、丁寧にお辞儀をしながらそんなことを言う。

 彼らは日本、ひいては世界を救うこの仕事に誇りを持って働いているのだ。

 その背筋はピンと伸びていて、非戦闘員と言えど威圧感さえ感じた。


「今からMASTは無くなるぜ。だけどな、その気持ち……ここに居るからじゃなく、君自身に持ち続けて欲しいもんだな」


 優しげなその言葉と、MASTが無くなると断定する強い意志に、受付嬢は一瞬だがたじろぐ。


「みんなが誰かの幸せや、平穏を願っているんだ。根本のところは俺も同じさ、信じるものが違っているだけでな」


 表情を緩めて優しく話すブラックタイガーの言葉に、熱が帯び始めた。


「だけどな、この世界にはそういった純粋な気持ちを利用している奴らがいるんだ『正義』の仮面を被った奴らがな!」


 先程の緊急ボタンにより、MAST本部の特殊部隊が駆けつけてくると、ブラックタイガーは瞬く間に囲まれてしまう。

 だが動じる姿はない。


「正しいかどうかは自分で決めろ、組織に属してりゃ見えないこともある『正義』ってのはお前らの心の中にしかねぇ『見方(ミカタ)』を変えろ! 誰にとっての『正義(セイギ)』なのか、自分たちで判断するしかねぇんだ」


 相変わらず仁王立ちで、訳の分からないことを叫ぶ怪人だが、その言葉は真っ直ぐで、聞くものの心に容赦ない問いかけをするかのようだった。


「だから今は生き延びろ! もうすぐ()()()()()怪人がやってくる、それまでにここを離れるんだ!」


 その言葉にハッとしたように、非戦闘員は慌てふためき避難を開始する。

 立場上逃げる訳にはいかない特殊部隊は、ジリジリとその包囲網を狭めるが、ブラックタイガーの一睨みに一進一退だ。


「さぁ時間はねぇぞ、銃如きでどうにかなると思うなよ、お前らも逃げていいんだぜ」


 そう言ったブラックタイガーがしゃがみ込んだように見えた瞬間、半円になって詰め寄ってきていた特殊部隊の一番端の隊員二人の銃を掴む。


「早っ……」


 隊員がそう言うよりも早く、銃身を握りつぶした。


「う、撃てぇ!!」


 班長らしき人物がそう指示する頃にはその隣の銃も、破壊され、最初に駆け付けた半分の隊員の銃が使えなくなった。


 その様子を見て、戦意喪失した者もいた様子で、実際に引き金を引いたのは2人だけだった。

 弾丸はやたらに発射され、彼を中心にばらまかれたわけだが。


 どうやらブラックタイガーは避けるつもりもないらしい。

 とは言っても、結構痛いのか、顔をしかめている。


「ばっかやろう! 俺が避けてたら仲間に当たっちまうだろうが!」


 そう言うが早いか、残りの隊員の銃も叩き落とし、足で踏み付けた。

 銃は粉々になり、地面に敷かれた大理石のプレートも割れて飛び散っている。

 その光景に殆どの者が尻もちをついて動かなくなってしまったし、遅れてやってきた追加の隊員達も、その破壊力に度肝を抜かれ、たじろいでいるようだ。


「お前らじゃ歯が立たん、それに今からくる怪人はもっとやばいぞ、今のうちに逃げても誰も文句は言われねぇよ」


 後からやってきた隊員はともかく、既に攻撃手段を奪われてしまった者達が、一目散に入口の方へ走り出す。

 それが堰となったのか、銃を持つものまで後に続く、その連鎖で、ほとんどの人間がこのフロアから居なくなってしまったのでは無いかと思われた。


 数人残って銃を構えている隊員も、銃をへし折ってやると、ヘナヘナと座り込んだり、逃げて行ったりした。


「おいおい、仲間置いてくなよ、ったく」


 怯えて動けない兵士を二人ほど抱えて、一旦建物の外へ出る。

 門よりも外側まで連れていくとじたばた暴れ始めたので下ろしてやると、足をもつれさせながら逃げていった。


「人払いはまぁ、済んだかな」


 ため息を付いたブラックタイガーが上を見上げると、ドローンが待機している。撮影しているようだ。

 アングルが真上からなのは、背景に建物が映らないように工夫しているらしい。秘密基地がバレてしまうのを懸念しているのだろう。


「お前ら操縦士もだな、MAST本部にいるなら移動しとけよ、どこからでも操縦はできるんだろ?」


 それだけを告げると、遠くに目をやる。

 そして不敵に笑うとその方角を指さした。


「さぁ怪人のお出ましだ、逃げるなら今のうちだからな」


 そう言うと、建物の中に戻っていく。

 数十秒後、怪人が4体後を追って建物に入っていった。

 まだ指示が出ていない以上、ドローンは現状待機するしか無かった。




「さぁておいでなすったか」


 苦笑するようにそう言うブラックタイガーの前には4体の怪人。


「せっかくだし名前でも名乗ってもらおうかな」


 戦隊と同様、怪人も自分の名前を名乗る様式美を押し付けるブラックタイガーではあったが、怪人たちも自分の力に酔いしれているが故か、満更でもないように口を開いた。


「私の名前はクローシス……変革する者クローシスだ」


 名乗る男はブラックタイガー同様、スーツらしきものを着ている人間型。きっと虎太郎のように、人間同士の怪人化の成功例なんだろう。

 だが表面はヌルヌルと蠢いており、より悪役感を増している。


「あたしはサソリ怪人。人間だった時の名前は捨てたわ」


 彼女の下半身はサソリで上半身は裸。両腕はサソリのように大きなハサミになっていて、腕から胸の辺りまで赤い甲殻に覆われている。


「こりゃぁ目の毒だぜ」


 ブラックタイガーが気恥しそうに他の怪人に視線を移すも、彼女自身は恥ずかしがる素振りも見せない。

 意識はあっても、人間は辞めてしまっているのだろう。


 ブラックタイガーの視線に気付いたのか、クローシスと名乗る男は、余裕げに言葉を紡ぐ。


「あとの二匹は、ほら、怪物だからね、自己紹介は出来ないよ」


 確かに、人と掛け合わされていない怪人を怪物と呼ぶ。

 彼らには理性がなく、簡単な命令くらいしか理解できないことが多い。

 しかしブラックタイガーは知っている。

 目の前の敵は、以前レッドがバット一発で沈めたものと同じでは無い。


 エーデルヴァイスを襲撃した際に戦ったゴリライオン……あれもまた怪物だったのだ。

 彼らを舐めてかかっていたとはいえ、スーツを着たブラックタイガーと同程度の力を持っていたのだから。


挿絵(By みてみん)


「まぁ相手に不足なし、って事かな」


 本心では結構きついと思っていても、それを表情に出す訳もなく、彼は左の手のひらに右の拳を打ち付けてパンっと、軽快な音を鳴らす。


「ゆっくりはしていられねぇ、俺には俺のやることがあるんでな」


 ブラックタイガーはそう言ったあと、大きな声で吠える。


「うぉおおおお! 行くぞ野郎ども!」


 宣戦布告とも取れるその殺気の込もった雄叫びに、怪人達が臨戦態勢を取る。


 しかし彼らが見たブラックタイガーの次の行動はあっけに取られるものだったのだ。


 彼がまさかの敵前逃亡!

 MAST本部の最深部へ向かって走り始めたのだ!


 現状把握に一瞬の間があったが、バカにされたと思ったクローシスは額に血管を浮き立たせ叫んだ。


「舐めるなよ! 殺せ!!」


 一斉に彼を追い、怪人はMAST内部へと侵入していくのだった。

毎週土曜日更新のセイギのミカタも

いよいよMAST本部での戦いになりました。


正義には正義の。

悪には悪の戦い方がある。

果たしてその先に待ち構えているのは!?


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― 新着の感想 ―
[良い点] ブラックタイガーの語り、熱いですね! まさにヒールの役割、ヒールだからこそ説得力を持つ言葉ですね! 来週も楽しみにしてます!
2022/08/15 23:35 退会済み
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