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35話「これからのこと」

 グリックレッドは簡単にだが、二人の関係をMASTに語って聞かせた。


「ということは、現状共通の敵は血沸という博士なのですね」


 状況をいち早く理解した蒼士が、メガネを光らせたが。

 茜に至っては未だ頭をひねって唸っている。


「正確に言うと彼女たちだけではなく、今までそれを支配してきた政府も敵に回すことになるだろうな」


 その言葉に、蒼士が歯噛みする。

 ついさっきまで「そちら側」だったのを忘れたわけではない。


「どっちでもいいけどよ、ぶっ潰せば良いんだろ?」


「取り敢えず殴っとけ、では解決しないよ」


 イキる茜を嗜めるように先輩レッドが諭す。


「正義を貫くために、君たちは民衆の信頼を得なければならない。それはとても大変なことだ……ただ暴力で全てを解決したその先にも、君たちが正しかったという落とし前を付けなければならないんだ」


 またもや小難しいことを言い出したグリックレッドに、一旦短絡的な答えを出した茜は考えるのをやめた。


「オーケー、じゃぁオメーのプランに乗ろうじゃんかよ」


 彼女もまた虎太郎よろしく、頭で考えずに感覚で物事を捉える。

 先輩レッドが自分達の事を本気で考えている事を察したのかもしれない。


 それを聞いたグリックレッドは他のメンバーに同意を求めると、みな頷くのを確認して話を始めた。


「私達はあくまで敵だ。それは前提で手を組む事を了承してほしい」


 かつて正義の執行人であった彼の口から、淀みない言葉で「敵だ」と告げられ、あるものはごくりと唾を飲み込む。


「いかに政府が腐った政策を取っていたとしても、それを破壊すれば混乱は免れない。しかもそれがMASTの手によって行われたとすればその不信感は行き処を失うだろう」


 ブラックタイガーも彼の横に並び口を開いた。


「そこで俺らの出番だ。こっちで恨み言は全部請け負ってはいさよなら、この仮面を外せば丸く収まるって訳だ」


「その代わり、血沸を倒すのは表向きMASTに頼みたい。政府にとってもそっちの方が安心するだろうし、隙も出来る」


 概略にすぎなかったが、政府の動きや血沸の動きがわからない以上、後手に回る部分もあるだろう。

 それを把握した上で、蒼士が意を決したように口を開く。


「私に出来る事は……例えば政府の内情や指揮系統などの情報を探ってくることができれば、スムーズに計画が進むのではないですか?」


 必死な形相で、仲間のために二重スパイの汚名を着ることも厭わないという意思を示す蒼士。

 しかし、グリックレッドは首を横に降る。


「君は今まで通りでいい。政府側にはもっと力強い仲間が居る、安心して怪人と戦ってほしい」


 伝説の戦隊である彼なら、そういったコネクションのひとつはあるかもしれないのだが。

 名誉挽回の機会を失った蒼士は、あからさまに肩を落とした。



「さぁて、そろそろお話は終わりなんじゃねぇか?」


 聴覚が普通の人間の数倍ある怪人ブラックタイガーには、予備のドローンがこちらへ向かってきているのが聞き取れた。


「名残惜しいが、連絡は今まで通り翡翠君のパソコンへ送るよ」


 そういうと二人は瓦礫の奥にあった地下水道へのマンホールに入っていった。

 ぶっちゃけブラックタイガーは入れずに、回りを破壊しながら降りていったのだけど……。



 彼らの居た場所に一陣の風が吹くと、破壊された建物の粉塵が舞い上がる。

 ドローンが到着したときには、ただ所在なく立ち尽くすMASTの面々だけが残っていたのだった。




 本部に帰った5人は、モニターに映る長官の前で質問責めにあっていた。


「どうしてマスクを外した!」


 外すまでの一部始終を見ていたのだろう。

 怪人の口車に乗せられて、まんまと弱点を晒したのだ、怒られても仕方がない。


「ブラックタイガーと名乗る怪人は、微妙な立場の怪人です、交渉次第では味方に付くかもしれないと考えたからです」


 いけしゃぁしゃぁと蒼士が答える。


「あの怪人がイレギュラーなのは認める……しかし本部に情報が漏れないようなやり方から、こちらの内部事情を把握しているように見えたぞ!」


 長岡長官は、茜が知る優しげな顔ではなく。

 怒りや不安に満ちた顔をして、蒼士の目をじっと見つめて続けた。


「あの怪人は何を知っていたんだ」


 それが意味することを、その場の全員が理解できたが、誰一人としてそれを顔には出さなかった。

 いつものように冷静に蒼士だけが口を開く。


「何も知りませんでしたよ」


 茜は内心ではよくこんなに平然と嘘がつけるなと感心すらした。いまはそれが心強いのだけど。


「しかし、通信記録には「裏切り者を教える」という言葉が出てくるのだが?」


 ギリギリまで聞かれていたのだ、勘ぐられてもしかたがないだろうが、蒼士のポーカーフェイスは崩れない。


「ああ、長官が裏切り者だと、そう言っていましたよ」


 蒼士はあえて鼻で笑うようにそう告げたことで、茜は我慢できずに驚いた顔を蒼士に向けてしまった。


「木月さん、これは報告しておくべきですよ。長官が貴女の親代わりなのは分かっていますが、どうせ怪人の戯れ言です」


 茜の動揺をも軽くカバーしつつ、その目は再度長官に向けられた。


「……具体的には?」


「MASTを私物化して金儲けをしているだとか、今までの戦隊を影で暗躍させて実権を握ろうとしているだとか……根も葉もないものでしたよ」


 それを聞き、長官は大きく息を吐き、少し浮いた腰を椅子に下ろした。


「本当にそれだけだな?」


「はい、詳細は後でレポートに纏めて提出しますよ」


 彼を知ってしまったMASTは分かっていても、政府にとってはブラックタイガーは、未だ得体の知れない怪人だ。

 彼が何を思って活動しているのかも理解していないため、その真意を量りかねているのは当然だろう。

 蒼士はまんまとそこに漬け込む形で自分達への疑いを逸らしていった。


 もちろんグリックレッドが生きていた事など、彼ら以外は誰も知らない。




 それからは、怪人も現れることなく静かな日々が続いた。


 グリックレッドに匿われているブラックタイガーの居場所を、血沸が掴んでいないのだろう。

 きっと歯噛みしながらも、新たな怪人を誕生させているに違いない。

 早々に決着をつけなければ、数で押しきられてしまいそうだと蒼士が言うので、気が気ではないが……敵の本拠地はわからないのだから手をこまねいて待つしかない現状が続いていた。


 連携が取れるように、数人で入れ替わりトレーニングをして過ごすのが最近の日課で、そのメニューは秘密裏に送られてくる、アカチャンマンからのメールを参考にしている。


 きっと彼等も水面下で動いているに違いないのだ。


 みな一様に、最後の決戦が近付いていることを、その肌でヒリヒリと感じていた。

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