28話「時を超えて繋がる」
「おい、怪人。仕留め損なってるぞ!」
聞こえるようにそう叫ぶと、サイ怪人もそれに気付いたようだ。
「死に損ないが、寝てれば良いものを」
ターゲットをグリーンに切り替え、眼光鋭く睨み付けてくる。
それを確認すると、グリーンは無線に切り替えた。
「この怪人は一人一人倒すつもりだから、僕が立っている間は、そっちには手を出さないらしい、その間ブルーはコイツに勝てる作戦を練ってくれないか!」
そう言いながらも、自らサイ怪人に走り近付く。
「そうか、突進も近ければ速度がでない!」
ブルーは一瞬でグリーンの作戦を見抜くも、効果的なダメージを与える方法を考えるには時間と情報が必要だ。
歯噛みしながらも、彼らを見守りながら色々な方法を模索する。
「サイは表皮が厚く硬い、普通の攻撃では歯が立たないと思う……あとは、直射日光を避けて泥あびをする、夜行性だ、角は爪や皮膚が固くなっているもので簡単には折れない」
敵との距離が、拳を振れば届く距離になるまで、サイの知り得る情報を呟くグリーンは、装甲を着こんだ自分よりも頭二つぶん高い敵に相対していた。
「おお、ガチンコか? 死に損なって自棄になったかよ」
サイ怪人はまた薄気味悪く笑みをたたえると、殴ってこいと言わんばかりに、自分の横っ面を指差して近寄った。
グリーンはそれに応えるように渾身の力を込めて左腕を振り抜く!
ゴチン!!
金属で岩を叩くような、鈍くも高い音が響くが、サイ怪人はさっきよりもっと笑顔を増している。
「良いじゃねぇか、少しは効くなぁ!」
そう嬉しそうに叫びながら同じように左フックをグリーンに向けた。
彼の拳は馬鹿げているほど大きく、グリーンの頭だけでなくガードした腕ごと衝撃を与えてくる。
かろうじてその場にとどまるグリーンだったが、ガードした右手の装甲がひしゃげて剥がれ落ちた。
「なんだよ、貧弱な鎧だなぁ」
そう笑うサイ怪人のアゴを次の一発が捉える。
それを食らってもよろけもしない怪人の反撃をグリーンが受ける。
3発、4発、5発……
お互いに足を止めたまま打ち合うが、グリーンの方が押されているのは、誰の目にも明らかだ。
そのなかで一番焦っているのはブルーだった。
あの命を削る時間稼ぎの間に、サイ怪人の弱点を見つけなければならない。
だがあの状態でどこまで持つのか……いや、そう長くはない筈だ!
ピンクもせっかく取り戻した平静をまた失いかけている。
「……関節は、どうだろう……」
その打ち合いの中でも、グリーンから呟きのような無線が聞こえる。
「グリーン、無茶をしすぎです! 私が囮になっているうちに、貴方が答えを出すべきでした!」
さっき自分が狙われているうちに、グリーンは死んだふりをしたまま倒し方を考えてもよかった筈だ。
今まで表舞台に出てこなかった筈の仲間が、無理に前に出ていることに違和感を感じていた。
「お兄ちゃんだから……ね」
ブルーは理解に苦しむと、眉をひそめるが、グリーン「ハハッ」と自嘲気味に笑っていたが。
そう言っているうちに、敵の渾身の一撃に片ひざをついてしまった。
サイ怪人は、反撃がないのを良いことに、渾身の力でグリーンを体ごと吹き飛ばした。
装甲が殆ど剥げ落ち、少しは軽くなったせいか、さっきと同じくらい飛んで、地面を転がったグリーンの体。
それをいたたまれない顔で見つめている二つの目があった。
「もう、止めてよ!」
ピンクの目からは涙が溢れていた。
仮面から出ている口元の横を、雫が通りすぎていく。
その声に、奮い立つようにグリーンが顔を上げた。
「どうして、そこまで……」
兄が自分に危害が加えられないようにと、立ち上がってくれているのはわかっていた。
しかし、兄が痛みを感じるたびに、桃海の心にも同じように痛みを感じてしまう。
痛い!
「もうやめて! 無理しないで!」
泣き叫ぶ妹の声は、翡翠により力を与えたかのように、ついには立ち上がり、満身創痍で呟いた。
「……あの時、桃海は僕の代わりに殴られた……今度は僕が桃海を守るために殴られる番だ……」
あの時。
桃海にだけは兄が言っている意味が理解できた。
叔父に殴られながらも、痛みに耐え、生きるために必死だったあの時。
そうか。
私が殴られる度に、お兄ちゃんも心に同じように痛みを感じていたんだ。
一人だと思っていた過去に、いつも兄がいたんだと。
逆に立場にならないと……こんな状況でないと理解できないなんて!
それなのに10年もの間、意気地がないと罵ってきた。
どんな気持ちで謝り続けてきたんだろう。
そして今、私はすくんでしまい何も出来ない。
私も意気地無しだ!
桃海は口元の涙の筋を袖で拭き取ると、叫んだ。
「おにいちゃん! 負けないで!」
その声に、かろうじて残っている頭部の装甲の下で、翡翠が嬉しそうに笑ったのを誰も知らない。
「……おにいちゃんじゃない……グリーンだよ」
そう途切れ途切れに言いながら、サイ怪人に向けて無理やり腕を上げ、ファイティングポーズをとって見せたのだった。
無線でのやり取りなど聞こえてないサイ怪人は少しイラつきはじめていた。
「今ので終わると思ってたのによう……まぁいいか、距離もあるし、派手に突進して終わらしてやるか」
そういうと最初にやったように、足に力をためて低い姿勢をとる。
「まずい、もう一度あれを食らうには装甲が足りなさすぎる。どこに当たっても致命傷ですよ!」
焦るブルーだが、銃を取り出してもエネルギーが無いため、役に立たない。
歯痒さに、イライラしてしまい、さらに頭が回らない。
肉弾戦では、グリーンよりも非力で相手にならないのはわかってはいるが、瓦礫から飛び降り怪人を挑発する。
「死に損ないに本気ですか、私はまだピンピンしてますよ!」
その言葉に一瞬だけ顔を向けたサイ怪人だったが、バカにするように息を吐くと。
「お前は後で遊んでやるから待ってろ」
とだけ言うと、グリーン目掛けて地面を蹴った。
「万事休すか!」
ブルーの挑発や、ピンクの願いも虚しく、サイ怪人はトップスピードに達し、トラックの突進のように、ノーブレーキでグリーンを目指す。
「だめぇ!!!」
瞬間を見ることが出来ずに、目を覆ったピンクの耳に、瓦礫にぶつかる物凄い爆音だけが聞こえる。
誰もが最悪を予想していた戦場に声が響いた。
「あらぁ、弱いものイジメは駄目じゃぁない」
気の抜けた、それでいて少し妖艶な雰囲気の声の主が。
片ひざをつくグリーンの前に立っている。
「マゼンタ!」
呼ばれて、笑顔で手を振るマゼンタは戦場に似つかわしくない空気を運んできたのだった。
毎週土曜日更新の『セイギのミカタ』!
ようやく兄妹の溝が埋まったグリーン達。
彼の危機は続く!
しかし突如現れたマゼンタが
この戦況を変えてくれるのか!?
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