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27話「サイ怪人」

 コンサート会場を離れたレッドはすぐに意識を取り戻していた。

 軽い目眩状態で倒れたという事だったが、耳からは出血しており、鼓膜や三半規管にダメージがあるとの診断。

 平衡感覚に違和感があることも自覚していたので、取り敢えずベッドに横になっていた。

 一緒について来たグリーンが心配そうに……とはいっても分厚い装甲に守られていて顔は見えないが、オロオロとした様子で看病してくれていたのだが。


 怪人出現の一報が舞い込んで来たときから、レッドの顔付きが変わる。


「また出やがったのかよ!」


「レッド氏は起きては駄目でござる!」


 必死になってグリーンが止めるも、静止を振り切って診療台から無理やり足を下ろす。

 ふらつきそうになるのをなんとか耐えると、問題がないという風にグリーンを押し退けて歩き出した。


 ここはMASTの専用医療チームが待機している施設で、メンバーはシューターを使ってそのままここに入ることができるようになっている。


 レッドはそのシューターを見つけると、通信機越しに使用許可を申請した。


「レッドはまず治療を受けてください」


 通信機の奥から中野さんの声で、許可が出せないという内容の返事を貰い、苛立ったようにシューターを蹴り飛ばす。


「じゃぁいいさ、このまま走っていく!」

 そう言って踵を返すと、今度はグリーンが立ち塞がっていた。


「どけ、デブ」


「退かんでござる!」


 いつもであれば「ごめん」だとか、小さな声で言うグリーンに少し呆気に取られたが。


「強気じゃねぇかよ」


 口の端を上げ、そう言いながらすり抜けようとする。

 グリーンは一歩も引かずにそれを大きな手で塞ぐ。


「自分に自信を持てって言ったのは、茜たんだよ」


「っつ、その呼び方は止めろ」


 グリーンは跪き、レッドより目線を下げる。

 そして、ヘルメット越しに彼女の目を見ているように、真正面にとらえた。


「茜たんはヒーローなんでしょ? 自分のわがままだけで突っ走って、誰かを危険に晒すのが仕事なのかな?

 君が今ここにいるのも、ピンク、ブルー、マゼンタが命がけで動けなくなった君を助け出したからだよ」


 その声はなだめるとか子供扱いするとかではなく。

 ただ彼の優しさを感じれるような口調で図星を突いてくる、茜も言い返しにくいのか、下唇を噛んで黙るしかなかった。


 その様子を通路の反対側から見ていた人物が口を開いた。


「茜。少し休め。治療は最先端技術を使う、そう時間はかからん筈だ」


 スーツに身を包んだその男性は、落ち着いた静かな声で茜に話し掛けながら歩いてくる。


「……おっちゃん」


 茜の育ての親である長岡長官。

 グリーンは軽く会釈をして、茜と長官の間から身体を引く。


「グリーンは、現場へ向かってくれ」


「はい」


 その言葉を聞き、急いでその場を離れるグリーンだったが、茜を何度も心配そうに見ながらシューターへと搭乗した。


「なんだよ、ウチは戦力外か?」


 拗ねるように顔を背ける茜に、長岡は笑いながら頭を撫でる。


「負けたってことは、強くなる事が出来るってことだ。今まで負けたことがなかったから、茜は今焦ってるんだ。何度も負けて強くなれば、こんな些細なことで焦りもしなくなるさ」


 茜はそっぽを向いたまま、その言葉を咀嚼する。

 確かに焦っているのは自分でもわかっていた。

 敵の奥の手を警戒せずに、簡単に昏倒させられ、仲間を危険に晒した事も。

 噛んだ唇から血が出そうなほど、不甲斐なさは痛感している。


「それでもウチは負けたくねぇ」


「じゃぁこれからは負けないようにしよう。そのためにできることはなんだ?」


 茜は病室の方に一歩踏み出すと、よろけてしまう。

 自分の状況を理解はしている。


「早く治療してくれよ、おっちゃん」


 長岡は茜の左手と肩を優しくサポートし、診療台へ向かっていった。




 その頃グリーンは現場の近くに到着していた。

 シューターから出た後は大抵、細かい場所の指示が飛ぶのだが、今回に限っては一見して現場を確認することができた。

 土煙をもうもうと上げて居る場所が目に飛び込んだからだ。


「あそこか、みんな今行くよ!」


 グリーンは推進用のジェットとスラスターを使って、滑るように現場へと向かう。


 現地では、ピンクとブルーが交戦中だったが、戦況は思わしくなさそうだ。


 敵は腕回りが成人男性の腰くらいありそうな巨大な怪人。

 全身は灰色で、頭に角が生えていて。

 すぐに「サイ」をモチーフにした怪人だと把握できる。


「サイ怪人なんて今まで見たこと無いよ!」


 グリーンはそう言いながらも二人の場所に移動、三人で怪人と相対する。


「ブルー、戦況は?」


「悪いですね。私はさっき放ったファイナルブルースピアのせいで、銃がエネルギー切れしています」


「マゼンタが居ないけど……」


 一瞬最悪の状況を思い浮かべたグリーンだったが、次のピンクのセリフに腰が抜けそうになった。


「マゼンタさんは、コンサート会場の一戦の後、すぐにお酒を買いに行っちゃいました」


「は?」


 確かに戦いの後に飲む酒は最高だというのが彼女の口癖のようなものだったし、こうも連戦になることなんてまず無いけれど。


「まいったな」


 そう苦笑せざるお得ないのは間違いない。


「サイ怪人は今まで出現例がない、判っている弱点もない、戦いながら観察しよう」


「それしかないでしょうね」


 ブルーも賛同するが、焦っているのかヘルメットの上から、眼鏡を直すような仕草をしかけて、フッと苦笑いする。


 そんな相談をする時間を与える怪人ではないようだ。

 体を低く構えると、後ろ足に力を溜める。


「一人ずつ串刺しにしてやるよ」


 そう叫ぶと、突進を始めた。

 初速は大したことが無いように思えるが、筋肉のついた後ろ足を一歩進める度に速度が増していく。

 野生のサイでも時速50kmは出るのだから、車が突っ込んでくるようなものだろう。


「仕方ありませんね」


 ブルーは飛び上がり、瓦礫の上に移動する。


「私は爆弾を!」


 敵がこちらに近付くタイミングを予想して2秒後に爆発するように、赤い爆弾をセットする。

 そしてブルーとは反対の方へ飛び上がった。


 グリーンはあまり身軽な方ではない。

 目の前の突進をどう止めるのかを考えた方がよさそうだが、かなりの力がないと押し負けてしまうだろう。


「グリーン、ピンクの爆弾が爆発した瞬間に横に飛べ!」


 無線を介してブルーが指示。

 一段高いところで見ているぶん、状況の把握が出来ているのかもしれない。


「まずはお前だ!」


 サイ怪人は、まるで闘牛のマタドールのように構えるグリーンに的を絞ったらしい。

 しかしその瞬間、ピンクが設置した爆弾がサイ怪人の目の前で破裂し、それをまともに受けた。


 一瞬の閃光や爆炎に飲まれ、敵が見えなくなる。

 つまり相手からも自分が見えない筈だ。


「今だ!」


 ブルーの掛け声で、グリーンは横っ飛びして直線上から逃げ出した。

 取り敢えず初撃はかわした。


 と思った瞬間。

 爆炎を抜ける巨体が、そのスピードそのままに姿を現してくる!

 体は元にグリーンがいた場所を進むのだが、相手は「サイではない」

 横目で移動しているグリーンを見るやいなや、走り抜けながら大きな拳を横になっているグリーンへと向ける。

 その岩のような固まりは、地面をスレスレに進み、体の前で腕を十字に受け止めたグリーンの体ごと宙に吹き飛ばした。


「ぐぁっ!!」


 苦しそうな声と共に、グリーンは破壊されたビルの瓦礫にぶつかって止まるまで30mは飛んだ。


 サイ怪人はその顔に、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、今度はブルーの方に向き直る。


「次はお前だなぁ、女はじっくり殺すって決めてんだよ」


 そう言いながら、地面のコンクリートを掴むと、足場の悪い場所に移動しているブルー目掛けて放り投げ始めた。


「まずいですね!」


 クールな言葉だが、完全に焦りの色が見える言葉に、余裕は感じない。

 コンクリート片は大きく、散弾銃と言うより、大砲のようにブルーを狙う。

 その攻撃に終わりはない。

 何せ彼らが到着したときには、すでに3棟ものビルが倒壊していたのだ。球ならいくらでもある状態だ。


 そんなサイ怪人を再び閃光と爆音が包み込む。

 一瞬手を止めたが、ピンクの方を振り向くと舌をだしていやらしく笑う。


「私にも構ってってか? すぐに行くから待ってろよ」


 どう見ても全くダメージが入っていない。

 ピンクは次の爆弾を作るのを止めた……こんな攻撃では勝てないと悟った瞬間、またもや恐怖に支配されそうになる。


「あんなの、無理だよぅ……」


 作戦参謀のブルーは思考を捨てて逃げ回らなければならない程逼迫している。

 グリーンの知識も、その装甲も役に立たない。

 レッドも、マゼンタも居ない。


 だけど、ピンク一人でこの状況を解消できるほどの力は持っていないし、そもそも戦い向きの性格というわけでもない。

 ついに彼女は膝をついてしまった。


「諦めては……駄目でござる」


 その耳に、彼女のヒーローの声がする。


「ヤツはサイの怪人、表皮が硬いのが特徴、それでもダメージを与える方法がきっとあるはず!」


 瓦礫を掻き分け、グリーンが立ち上がった。

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