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25話「虎太郎のピンチ」

「どういうことだ……」


 虎太郎は焦っていた。

 怪人が出現するなど思ってもみなかったからだ。


 なぜならエーデルヴァイスの本拠地は、確実に自分の手で破壊した筈。


 しかし現実には、桃姫ちゃんのコンサートの最中に、腕をドリルに改造した怪人が現れているし、自分が見たことの無い怪人までもが出現していることは紛れもない事実だった。


 しかもその怪人は、MASTの力を凌駕(りょうが)しているように思える。


「桃姫ちゃんが危ない!」


 エーデルヴァイス時代にはさんざん手こずった、戦隊スーツを身に付けているとはいえ、顔は生身だろう。

 それに、他のメンバーも怪人に決定打を与えられないまま拮抗(きっこう)しているように見える。


 ステージから桃姫ちゃんが飛び降り、そのまま怪人に向かっていったときはヒヤヒヤしたが、自分に出来ることはなかった。


 怪人など出ないだろうとたかをくくり、あの暑苦しいスーツは置いてきてしまったのだ。


 桃姫ちゃんはうまく立ち回り、改造モグランドを撃破。

 その後、あの正体不明の怪人から離れてくれたことで少しホッとした。

 残りが一匹であればどうにか対処できるかもしれない。

 それよりも、自分達がここから避難することで、桃姫ちゃんの爆弾攻撃も可能になり、一気に形成は逆転するに違いない。


 虎太郎も一足遅れて避難を始めたが、その巨体で他のファンを押し退けて行くわけにもいかない。

 強化された筋肉は、普通の人間程度であれば簡単に怪我をさせてしまうからだ。

 その先で詰まっているのは分かってはいたが、のろのろと非常口をくぐる他のファンに、イライラを隠せないでいた。


 その時の新怪人の大きな衝撃音に、会場にいる誰もが耳を塞ぐことになる。


 レッドが崩れ落ち戦闘不能になると、一気に心がざわつき始める。


 このまま一人づつMASTがやられていけば、いずれは桃姫ちゃんまで……!


 こんなときにスーツを持ってきていないのが歯がゆい。

 もちろん改造されているため、戦闘に参加すれば少しはMASTに加勢できるかもしれないが……自分の正体が桃姫ちゃんにバレてしまう。


 MASTを解散させるために、沢山の嫌がらせをしてきた事を、今になって恥じる。

 はじめから彼女に荷担すれば良かったのではないか?

 彼女の隣で悪に立ち向かう道もあったかもしれない。

 彼女が危険に遇わないように遠ざけるのではなく、俺が守ってやると何故言えなかった!


 照れ臭さだったのか、男気だったのか……知恵が足りていなかっただけなのか。

 今となってはどうでもいいが。

 こんなときに無力であるなら、なんのための力だ!



 悔しさに顔を歪ませながらも、ただただ祈る。

 桃姫ちゃん、無事で!


 その桃姫が煙玉を投げつけ、一瞬怪人を見失うが、すぐに凍りつくような恐怖が背筋を伝う。


 無防備な桃姫目掛けて、怪人が飛びかかったのだ。


 虎太郎は、駆けつけた。

 だがその距離は遠く、間に合わない……

 あわやというところで、グリーンが助けに入るのが見えた。


 この4期戦隊が始まって、初めて見るそのスーツ……いや、スーツというよりロボットのような装甲に守られた大きな体。

 2階席から怪人の腕を狙って飛び降りざまに蹴りを入れる。

 お互いに体制を整えると、そのまま力比べに入った。


 その大きな体躯(たいく)の後ろで、より小さく弱々しく見えた桃姫に怪我がなかった事にホッとしつつ、グリーンに希望を見出だした。


「頑張れグリーン」


 今まで現れず、未知数なその力に。

 ついそう声を上げてしまって、ちょっと失笑する。


 MASTを応援することになるとはな……。


 仲間とは言え、ピンチに駆け付けるなんて、羨ましくもある。

 俺だって、彼女を守りたい……。


 投げ飛ばされた怪人が、ブルーのレーザー銃で真っ二つにされて初めて、虎太郎はふぅーーーと大きく息を吐いて、力を抜いた。


 かなり体に力が入っていたのか、握り込んだ拳は、手のひらに爪の後を残すほどだった。


 ああ、良かった。

 後はこの避難するファンに混ざってここを脱出するだけだ。


 肩の力を抜き、ゆっくりとファンの列に混ざる虎太郎。

 その耳に怪人最期の爆音が響く。


 爆発と共に、飛んできた椅子がこちらへ向かってくる。

 それを受け止めようと必死な桃姫だったが、彼女の表情は恐怖に満ちていた。

 虎太郎はそれを見たとたん、勝手に体が動いた。


 桃姫を(かば)い、椅子を受ける。


 痛さはあったが、怪人の能力で余裕はある。

 普通の人間だったら死んでいたかもしれないが。


 俺がこの場所にいて良かった!

 怪人で良かった!


 そんなことを思っていると、背後で桃姫の声。


「お兄ちゃん……?」


 桃姫の作っていないあどけない声に、全身の血管が沸騰しそうなほど興奮した!

 そんな声、配信でも聞いたことがない!

 言ってくれ、もう一回お兄ちゃんって!


 虎太郎は心の声を押さえ込んで、できるだけ落ち着いた声で聞いた。


「桃姫ちゃん、大丈夫だったかい?」


 出来るだけクールに!

 何でもないような素振りで!

 そう心がける虎太郎に桃姫が少し不思議そうな顔で問いかけてきた。


「コタローさん?」


 自分の事を覚えてくれている!!

 前回のコンサートでは悪目立ちし過ぎたと反省する夜もあったが……自分の名前を呼んでくれた、しかもこんなに近くで!

 刺激的過ぎて、心臓がドクドクと音を立てて鳴り響く。

 血流が上がりすぎたのか、頭の小さな傷から血が溢れだしてくる!


「大変!」


 慌てた様子の桃姫は、背中のポーチからハンカチを出して、虎太郎の頭に押し付ける。


 もったいない!

 桃姫ちゃんの美しいハンカチが、俺の血で汚れるなんてあってはならないことだ!

 っと、冷静に、クールだ落ち着け。


「大丈夫だ」


 そう言って立ち上がりハンカチを返そうとするが、桃姫は受け取らない。


「まだ血が出てますから、押さえてください!」


 そう言いながら、ハンカチを持った手を、その小さな両手で押し返してくる。


 ちょっと待て、手が触れ合ってる!

 バーチャルでしか存在しなかった筈の桃姫と、今触れ合ってる!!


 このまま目があっていると倒れそうで、虎太郎は顔を背けてそのハンカチを頭に当てた。


「ありがとう、私危なかった……」


 目線は外したが、そのお礼の言葉にまだ恐怖が残っている気がして、再度彼女を見る。

 両手を胸の前で合わせてギュッと握っており、微かに震えているようにも見えた。


「いいんだ、桃姫ちゃんが無事なら」


 その言葉が桃姫の心をどのくらい楽にさせたかは分からないが、これ以上ここに居るのは虎太郎にとって命に関わることだ。

 心臓は全力疾走をした後よりも早く動いている気がするし、頭の出血もさっきよりひどくなっている気がする……。

 というかいろんな意味でもう倒れそうだ。


 ワザとらしくニコッと微笑むと、それ以上はなにも言わずに出口へと歩いていった。



 その背中を桃姫がどういう気持ちで見ていたかを察するほど、彼は(かんば)しくない。

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