1話目:狂乱覚醒八秒前
誰もが言う。
『人は強い』と。
本当に人は強いのだろうか。
人間は弱い生き物なのではないのか。
弱いからこそ誰かを笑い、見下し、上に立とうとする。
最下位にいることに怯えている。
誰か『自分は弱くない』とか『そんなことはない』と言う人もいるだろう。
それでも結局は誰かを見下しているのだ。弱い証となる行動と知られていることは定かではないが。
一人の少女がいた。中学校に通う、どこにでもいそうな優しき少女であった。
彼女はある時、学校の先輩に陰口を言われていることに気がついた。廊下や行事、部活ですれ違うたびに、会うたびにひそひそと話しているのが聞こえるのだ。
そこで、『弱いから私を下に見ようとしているのだ』と思うことによって、心が傷付かないようにしていた。
もしも、その彼女の思いが消えてしまったら。
唯一の心の支えが無くなってしまったら。
おそらく彼女は狂ってしまうだろう。
優しき少女の面影など残さないだろう。
そんな彼女はそう遠くない未来で、実際に狂ってしまった。
陰口が段々エスカレートし、彼女のあの思いだけでは耐えきることができなかったのだ。
周りがとても怖かった。誰かの笑い声が自分を責めているように聞こえた。
『みんなみんな、消えてしまえばいい』
彼女の心にはそんな思いが巡るようになった。
そしてとうとう少女は狂った末に学校に火をつけてしまった。
生徒が逃げまどう中、一人だけ逃げようともしなかった。
恐怖に怯えた素振りも見せなかった。ただ、静かに笑っていた。
教師の声が聞こえた。どうやら少女が一人だけ逃げ遅れたと思われているのだろう。必死にどこかにいないか探しているようだ。
結局、教師とは長い廊下で目があった。こちらへ向かってくる。『よかった』と言いながら。
「どうして今みたいに助けてくれなかったの?」
彼女の言葉に一瞬動きが鈍った。
「気付いていましたよね。こんなにも深い傷になってたのに。あなたも、友達も、みんな見て見ぬ振りをした――」
少女と教師の間に天井の一部が崩れ落ちた。
教師はそこでようやく我に返ったが、もう遅い。
『あはは』と少女が笑っている。死の直前にいるというのに。
狂ってしまった。
あはははは……
あはははは……
あはははは……
あはははは……
あはははは……
あはははは……
彼女の瞳から頬に雫を伝わらせながら笑っていた。
最期の最期まで少女の笑い声が燃えさかる校舎内に響いていた。
時に楽しげに。
時に悲しげに。
時に苦しげに。
--1話目【狂乱覚醒八秒前】完--
すっごく短い……
大丈夫か……自分……