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よくある転プレもの  作者: 場東柿生
第一章 「トラックに轢かれる系主人公」
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主人公がトラックに轢かれるというテンプレ

 トラックは、自分の肉体よりも強固で、体重より重いことが証明された瞬間――。



 ――自分は命を落としたらしい。



 高く跳ね上がり、地面に顔面から着地をした。



 それと同時に、自分の手から何かがずり落ちる。



 手に力が入らない。自分の腕、いや体全体が、この世界とは切り離されたようだった。



 なにか温かい、真っ赤な液体が自分の視界を赤に染めていく。それのせいで、目の前の物体が何なのかわからないでいるが、そんなことはどうでもいい。



 ゆっくりと、自分を構成する要素が体から抜け出していく感覚。



 きっとこれが魂が抜けるということなんだろう。



 そんな初めてで、甘美と言っていい刺激に浸っている。今死んでいるという初めての感覚が、なぜか心地よかった。



 理由は忘れてしまったが、きっと自分は、これを望んでいた気がした。



 その刺激が急に止んだとき、自分は宙に浮いていた。



 そして察する。自分は死んだのだ、と。死ぬと魂が抜けて天に昇るとは本当らしい。



 自分はたった今死んだというのに、ずいぶん冷めていると思う。それはきっと、期待をしていないからだ。世界に、自分に、全てに。



 なにもかもがどうでもいい時は、何でさえ小さいことのように思えた。親も、友達も、自分も、死でさえも。



 今あわてて自分にかけ寄る運転手に不備はない。自分が急に道路に飛び出してきたのだ。冷静な対応を求めるのは酷だろう。不備は、どう考えても自分にある。



だが自分には、理由があったのだ。自分のを顧みず、トラックの前に飛び出せる理由が。



 しかし、それを思い出すことができない。おそらく、トラックに轢かれた影響でそれを忘れてしまったのだろうと推測する。



 打算でしか、損得でしか動けない自分のことだ。自分にとって無意味なことをするはずがない。と、辺りを見回してみる。



 意外なことに、それはすぐ見つかった。



 青い顔をして救急車を呼んでいる運転手と、肉塊となった自分の横で血を流し、地面に横たわる猫。



 この光景を見たことで、ようやく思い出すことができた。



 そう、自分の命をなげうってまで、救いたかったもの。



 それは、猫だ。



 それと、自分だ。



 そう、自分は死ねる理由を探していたのだ。



 自分を、この世界から開放するための。すなわち、自分を自身が望む世界へ行くための。



 そんな時、都合のよく轢かれそうになっている猫を見つけたんだった。その猫は都合のよいことに足を怪我していたらしく、俊敏に動けないようだった。



 そして自分が猫を庇った瞬間、吹き飛んだ。それはそれは猫の血の量は自分ほどじゃないがかなりある。前足が曲がっているのが痛々しい。



 無情な話だ。自分は猫を助けようとしたのに、残ったものは死体と死にかけの二つのみ。そして運転手にはトラウマを与えただろう。もしかすると運転ができなくなるかもしれない。



 ひどい結末だ。



 最後に一花咲かせて散ろうとしたというのに、猫はもう助からないだろう。



 結局、救えたのは自分だけ。なんで自分はいつもこうなんだろう。そう誰かに質問したくなる。



 ようやく、自分は誰かを救うための行動をしたのだ。人の為、ではなく動物の為である。その結果、待っていたのは『死』である。



 自分はハッピーエンド至上主義なのに、あんまりだ。



 まあ、いつも通りだ。結局だいたい悪いのは自分。



 そうだ。全てが駄目な自分を否定して、自分を憎んで、たどり着いた結論が、自殺するだった。



 でももういい。自分はこれから、どこに行くか知らないが、自己嫌悪とは無縁の世界だろう。



 だからもう、いいや。眠いから寝てしまおう。



 それに逆らわず、目を閉じた。




×




 ――視界がぼんやりと開ける。



 自分は寝転がっていた。



 急に光のもとにさらされ、瞼が開きにくい。ひどく眩しかった。



 しかしそんな邪魔は無視して、早くあの世の景色を見たかった。あの世ならばと、この世に残る未練も捨てて、死んだのだ。



 せめてこれだけは、いい世界であってくれと思った。



 無理やり目を開く。



 目が慣れて入ってきたのは一面に広がる蒼穹だった。雲ひとつない、まさに快晴。



 耳に入ってくるのは、風でそよぐ草の音。辺りは緑の草原に囲まれていて、どこか空気もきれいに感じた。



 この景色は、生涯忘れることはないだろう。もう死んでいるけれども。



 ここがあの世、天国のはずだ。



 ここに来てようやく、完全に開放されたことを実感した。



 また思い出した。俺は、しがらみから解放されたかったんだ。



 そして、己の望むご都合主義のような世界で、自由に生きてみたかった。



 俺にとって、死は始まりな気がした。



 だから死んだ。



 ふと、思う。



 父親は、俺が死んで喜んでいるのだろうか。悲しんでいるのだろうか。きっと喜んでいるだろう。俺は嫌われていた。



 そういえば、あの猫は助かったのだろうか。思い返してみれば、近くに運転手がいたわけだから、もしかしたら、はあるかもしれない。



 もし助かったなら、父親は少しは見直してくれるだろうか。




×




 適当に歩いてわかったことがある。


 

 どうやら人がいるらしいのである。

 歩いている時、整備されている道を見つけたし、何よりの証拠に、向こうには村のようなものがある。



 まあ、これは想定内だ。あの世が何なのかは知らないが、人はいるだろうと踏んでいた。



 それと、想定外が一つあった。この世界の文明レベルが低すぎることだ。

 死んだ人がいるとなれば、文明も今と同じくらいに発展していると思っていたが、それは違うようだ。



 そう考えると、あの世に逝った人間の終着点は同じではないのかもしれない。



 とりあえず、あの村に行こう。



 不安を吹き飛ばすように、半分スキップで駆け出した。



 ここが天国だから、なんだかやけにテンションが上がってしょうがない。



 暗い気持ちは、どこかに飛ばされていったかのような、晴れやかさだった。



 きっとあそこから全てが始まる。



 そんな予感がした。

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