表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/54

1-6魔族の生贄








 テルミニアに来る前のことだ。


 トロール・カタパルトを使って空中を移動中にウルシエラと作戦を確認した。


「まずはオルロットが偽者ではないかと噂にする。これは既に英雄の噂が流れていたら避ける。」


「信用の置けない旅人の話より、人々は”良い話”を信じたがる、だろ?」


「そう。次に王家への進言。既にうわさが広まってたら難しいけど、ともかく拝命式さえしなければ魔王領へ大手を振っては来れない。」


「王様が素直に聞いてくれるといいけど。」


「今の王様は日和見だからね。意外と聞いてくれるかもよ?」


 言葉を切ると、ウルシエラは首をかしげた。


「うーん、でも心配だなあ。ゾダン、人里は始めてだよね?」


「あのねぇ。僕、オルフィンで暮らしてたんだよ?」


「ちっちゃいころの話じゃん。まあまだちっちゃいけど。」


「男にちっちゃいとか言わないでほしい。」


 ウルシエラは盛大に笑ったあとで、子供に言い聞かせるように言った。


「人里に入り込むにあたって、悪魔から身を守る鉄則が三つある。


 ひとつ、甘い話に乗らないこと。


 ひとつ、娼館に近寄らないこと。


 ひとつ、詩人の二番煎じに耳を傾けないこと。



 守れる?」



 大げさな、と言おうとして、普段テキトーなこの淫魔サキュピースが真剣に聞いていることに気づいて、まじめに返答した。


「わかった。守るよ。」


「よしよし、えらいぞえらいぞー」


「もう子供じゃないんだけどな。」


 魔王領に来て以降、子供のころから面倒を見てくれたウルシエラには頭が上がらないのだった。


「そうだ。最悪の場合、拝命式の途中で頭の後ろで手を組んで。」


「頭の後ろで手を?」


「うん。ミュディアは乗り気じゃなかったけど、中にいる魔族はそれを合図にオルロットの正当性を問うように行動するよう連絡する。数が集まれば、ひょっとすればなんとかなるかも」


「それは難しいよ。式が始まってしまってから止めることは困難だ。」


「だから、最悪の場合。オルロットが魔王領に進行していって、人間領内でも魔族の残党狩りが本格的に始まれば遅かれ早かれみんなやられちゃうよ。何人かは死ぬかもだけど、みんな死ぬよりはいいでしょ。」


 それはそうだ。けれど本当にそれでいいのか?


 結局結論が出ないまま、テルミニアについてしまった。








 オルロットの後ろに続きながら、ウルシエラとのやり取りを思い返す。


 このまま放っておけば拝命式を迎え、『英雄オルロット』が誕生してしまう。


 これしかない。


「待ってくれ。」


 僕は先を行くオルロットへ声をかけた。


「ゾダン、だったか。」


 鎧の戦士は立ち止まり振り返る。僕は頭を下げた。


「先ほどはすまなかった。少し話を聞いてくれないか?」


「…………」


 戦士は答えず、動きを止めていた。


 先ほどの邪魔が入ったことに怒っているのかとも思ったが、違う。なんとなく、驚いているだけのように見えた。


「何か?」


「あ、いや。なんでもない。気のせいだ。」


「そっか。僕はゾダン。旅人だ。」


「オルロットだ。君は冒険者か?」


「いや。どこの遺跡も採りつくされ、金にならないこの時代に命がけの冒険者なんてするのは道楽者(遊び人)だけだよ。」


 魔族が守っている遺跡は魔王領でも一部にしかない。どこも精鋭が配置されている。魔族との戦闘経験を積んでいない並みの冒険者は初見で門番にやられるのが落ちだろう。


「そうなのか。その、オルフィンではよくいたからな。」


「本当にオルフィンの生き残りなんだな。先ほどは試すようなことをしてすまない。昔、そう言う英雄を騙った詐欺師の話を聞いたことがあったんだ。」


「いや、疑うのも無理はない。何もないまま7年も経ったんだ。気にしないでくれ。ぼくは行動で示すだけだ」


「なら僕にも行動で示させてくれないか?」


「え?」


「君に同行したい。よかったら力を貸させてくれないか?」


 オルロットは両の手のひらを広げ、信じられない、と言うような声を上げた。


「本当か?」


「もちろんだ。僕が招いたようなものだからな。」


「助かるよ。魔族の集団は一人で相手取るにはつらい。」


 オルロットがこくりとうなずく。


 よし。


 計画はこうだ。オルロットに同行し、力を示す手伝いをするように思わせる。


 その上で手柄を僕が取ればいい。彼に力がないことを吹聴すれば、王家も聞かざるを得ない。何よりオルロット自身がその証人になるんだ。


「じゃあ早速行こう。」


「いや、もうすぐ日が暮れる。テルミニアで一泊して行くことにしよう。」


「しかし、今このときも村は魔族に苦しめられている」


 魔王領では人間への敵対行動を禁じている。だからそれがまず信じられなかった。


 いや、この辺には悪い魔族が残っているかもしれないけど、慌てることはないだろう。


「生贄?を要求されているんだろ?なのに、まだ王宮が動いてないってことは要求された期日まで時間があるってことだ。違うか?」


 オルロットは考え込むように腕を組んだ。


「確かにそうだな。わかった。今夜はここで一泊しよう」






 夜になり、宿と隣接した酒場でご飯を食べているとウルシエラの言っていた意味がわかってきた。


「大もうけできる話があるんだが、一口乗らないか?」


「他を当たってくれ。」


 勝手に席についた柄の悪そうな男を追い払う。すぐさま別の男が席に着いた。


「いい女がいるぞ?どうだ?」


「他を当たってくれ。」


 こんなことを何度か繰り返した。どうもテルミニアでは裏の稼業がこうやって幅を利かせているらしい。


 食事中に酒場で歌う詩人が歌っていた。


「世界を滅ぼす悪魔の親玉


 ミュダーザ・ミュディオン


 立ち向かうはわれらが希望


 光の英雄オルシャ


 人類の正義の体現、品行方正な神の使い


 オールーシャ!

 オールーシャ!


 神々の加護 受けし天命の剣


 今こそ魔王を打ち倒しわれらに永遠の繁栄を


 魔族を滅ぼす英雄 英雄は蘇る


 ああわれらがこの地に光をもたらすのだ」


 食事中のBGMにしてはやたら荘厳で不快だ。


 しかしオルロットは聞きほれているように言った。


「何度聞いても素晴らしい。」


 ああ、と理解する。これが詩人の二番煎じか。


 詩人は受ける歌を歌いたがり、時には受けるように歌い方を変える。


 英雄オルシャの歌を作った詩人はもうとっくに死んでいるだろうし、どんな改変がなされたかわからない。


「行こう。早いけどもう寝よう。」


「ああ、そうしようか」


 人間が光をもたらす?


 この地の、いや、今の魔王領のどこに闇があるのか教えてほしい。あるのならそれは、人の心の中にだろう。








 王宮を出る前にオルロットに渡された嘆願書に、記載された村へ移動する。


 王都から東にある小さな村だ。


 近くには畑がいくつもあり、その中には荒らされた後が残っているものもあった。


「最近の跡だ。何度も来ているのか?」


「まさか。だったら王宮が放っておくはずがない。」


 家が立ち並ぶ辺りを進んでいくと、一人の男に会った。


「あ、あんたら、まさか、」


「王都から来た。遅くなってすまない。」


 オルロットが言うと、男は慌てて駆けていった。


「あ、ありがとう!ついてきてくれ!」


 ついていくと、少し大きな家があった。中には沈んだ顔の村人たちがいる。


「みんな、騎士様が来てくださったぞ!」


 わあ、と落ち込んでいた顔が晴れる。


 しかしオルロットが村人の間違いを正した。


「いや、騎士ではない。王様から依頼されて魔族の討伐に来た。」


「どちらでもいい。早く魔族を倒しにいってくれ」


「助けてください、うちの娘が、今朝方、魔族に、うう」


「なんだって!?」


 思わず声を上げる。これは僕のミスだ。夜の間に向かうべきだったか。


「まだ間に合うかもしれない。魔族は東の洞窟に住み着いているらしい。そこに生贄いけにえが連れて行かれた」


生贄いけにえっていうのはなんなんだ?魔族が人を要求しているのか?」


 僕が問うと一人の男が答えた。


「ああ。昔からそうだ。恐ろしい魔族には、生きた供物を差し出すことで怒りを静めてきたらしい。この村ではそんなこと初めてだったが、魔物は村で一番の美人を要求してきた。屈強な男が何人もかかって敵わない魔族なんだ。」


「他にも被害が出ているのか?」


「いや、村には出ていない。」


「村には?」


「ちょうど流れの強そうな傭兵たちが村に通りかかったんだ。六人で魔族を倒しに向かったんだが、帰ってきたのは一人だった。だから仕方なく、娘を差し出すことになった。」


「言われるままに人を犠牲にしたのか?」


「仕方なかったんだ!ただでさえ、王都への納税で食べ物が少ない。これ以上作物を荒らされたら俺たちみんな飢えて死んでしまう!」


 見れば村人たちはみな、やせている。畑仕事で手一杯なのだろう。傭兵がやられたのだ。戦えない彼らに戦えというのは酷だ。


 最初に間違いを正してから黙っていたオルロットが声を上げる。


「――――遅くなってすまなかった。」


「すまない。」


 オルロットの謝罪に僕も続いた。


「いいんだ。来てくれただけで。だけど、傭兵が六人がかりで負けた魔物だ。あんたたち二人じゃ、倒せるかどうか。」


「必ず助ける。誰か洞窟へ案内できるものはいるか?」


 オルロットが言うと、一人の男が手を上げる。


「俺が行く。傭兵たちが入っていくところを見た。」


「わかった。案内してくれ。急ごう。」


 オルロットが家を出て行く。外の光は希望の光のように見えた。 




 村の東の洞窟までは結構な距離があった。


 道すがら聞いてみる。


「どんな魔族なんだ?」


「俺は見ていない。傭兵たちの話では馬鹿でかい竜みたいな姿だったそうだ。」


 ずいぶん強そうだ。


生贄いけにえを要求されたのだろう?どうやって?」


「荒らされた畑に刻まれていたんだ。『東の洞窟まで、持たせられるだけの金貨と酒と食料を持たせて、村一番の美人をよこせ。さもなければお前たちを皆殺しにする』、と。」


「魔族め、許せない」


 オルロットが怒りをあらわにする。


「最初は誰も取り合う気はなかったんだが、何度か畑が荒らされ、傭兵たちがやられてからは、一刻も早く生贄を差し出す必要があった。」


 どうもおかしい。


 野良の魔族が人間の言語で警告するなどありえるのだろうか?


 普通、人間と交流しない魔族は人間の言葉を使わない。


 人間の言葉を学ばせているミュディオンでさえ、誰もが喋れるわけではないし、固体によって変な口調になったりする。


 なにより大きな町に紛れ込んでいたならウルシエラの情報網にかかり、対処されているはずだ。


 人に追われた魔族が暴徒化したのだろうか。


 いや、あるいは。


「あそこだ。後は頼む。」


 洞窟を指差し、男は祈るように両手を重ねた。


「任せてくれ。行こう、ゾダン。」


 頷き、洞窟に近づく。


「オルロット、まずは僕が先行する。全身鎧は音が大きいし、罠があるかもしれない。」


「罠?竜みたいな魔族がそんなものは使わないだろう。」


「そうだな。けど一体とは限らない。念のためだ。いいな?」


「わかった。頼む。用心しなよ」


 洞窟の中は薄暗く、たいまつが必要だった。通路の先を目を凝らしてうかがうが、動く姿はない。明かりを点け、注意深く進む。


 案の定罠があった。足元に張られたロープの先は鳴子に繋がっている。幸い鳴子側を押さえて切れば鳴らない、簡単なものだ。鳴子は奥へ続いている。


「警報代わりだな。間違いない。」


 通路の曲がり角で止まり、曲がり角の先を覗き込む。また曲がり角があり、その先から明かりが漏れていた。オルロットへたいまつを消すように伝え、自分も消す。


「なぜ明かりが?」


「わからない。極力音を立てないようについてきてくれ」 


 曲がり角で止まる。用心して明かりのほうを伺った。


 少し広めな空間になっていて、傭兵風の男たちがいる。


「おかしらぁ!うまく行きましたな!」


「へっへっへ。こうもうまくいくとはな。」


「さすが頭だ。あれ、どこへ?」


「くっくっくっお楽しみよ。」


 頭目らしき男が奥の通路へ消えていく。


「どういうことだ?魔物はどこに?」


 同じように様子を伺っていたオルロットが耳元でささやく。


「見てのとおりさ。傭兵を装った盗賊の自作自演だ。」


「まさか、そんなことが?」


 剣を握りなおすオルロットを片手で制する。


「待て。作戦を立てよう。」


 残った数は六。


 皆腰にダガーを刺していて、置いてある剣が二、盾が二、弓が二、槍はない。


 見たところ明らかに動きが良さそうなやつはいない。


 それに緩み切っている。このくらいなら問題はないだろう。


 さて、隙を伺って仕掛けるにはどうするか。


「にしてもおかしらは頭がいい。」


「魔族がやったってことにすれば、震え上がった村人は何でも従う。俺たちを怪しむやつはいねえ。金さえ奪っちまえば王都でやりたい放題だ。」


 聞き捨てならない話だ。


「昔からそうなのよ。人間は恐ろしいものには歯向かえねえんだ。見てもいなくたって誰かが言うだけでな」


 聞いていて、――――頭に血が上った。


「魔物様々よお!ひゃっひゃっひゃっ」


 だめだ。こいつらはここで倒す。


「やるぞオルロット。」


「え?待て、ゾダン。作戦はどうした」


「いらないよ、そんなものは」


 2刀を抜く。テルミニアで買った切れの良い両刃剣と雑な片刃剣だ。


「でも王都から近いし、あそこには騎士がいる。討伐団とかこねえのかな?」


 盗賊の会話の最中、部屋へ突っ込む。


「ああ、そのことなら――――ん?」


 上段から片刃剣の峰で殴りつける。男はこちらに気づく前に昏倒した。一。


「て、てめえっ、なんっ」


 あわててダガーを抜いた男がこちらに向かってくるが、リーチに差がある。両刃剣で腕を切りつけ、足を突き刺した。二。


「うあああああああっ」


 剣を取った男の反応が思ったより早い。片刃剣で受ける。案の定、刃がこぼれた。


 すぐさま剣を納め、自重で鞘に収まる前に両刃剣を両手に持ち替えて一閃する。相手は受けきれず剣を落とした。


 手足を切り裂き無力化する。三


 弓兵がこちらに狙いをつける前に、敵の剣とダガーを拾いそれぞれに投げつける。片腕が使えなければ弓は射れない。


「くそっなんだっなんだこいつはっ」


 負傷した弓兵はダガーを抜き、剣と盾を構えた盗賊が一人、後ろに回りこんでくる。


 背後に回ろうとする敵にあえて背を向ける。片刃剣を抜いて気配を読み、地面を蹴った。


「なっ!?」


 刃の横をすり抜け背中で体当たりする。人間は制止した状態から全力を出すことは難しい。振りかぶるまでのわずかな時間で背後の男は吹き飛んだ。


「ぐあっ!?」


 片刃剣の峰で腕を折る。四。


 距離が開いたことで前方の敵があわてて突っ込んできた。その動きはばらばらで、一人ずつ間合いに入り切り伏せる。五、六。

 

 瞬く間に盗賊たちは沈黙した。いや、痛みにうめくものが多い。


 普段打ち合っている相手と力量の差がありすぎる。魔王城の実践訓練に比べれば子供を倒すようなものだ。


「強い――――。」


 オルロットが呟きをもらす。


「ひっ。」


 盾を持っていた一人が、片腕を抑えて洞窟の奥へと逃げ出した。


 念入りに残ったやつらを昏倒させる。打ち所が悪くないことを祈るのみだ。


「ゾダン、君は何者なんだ?」


「名乗っただろ?――――旅人だよ。ただの、旅人さ。」


 盗賊たちが落としたダガーを拾い上げ、洞窟の奥へ走る。


 広い空洞に飛び込んだ先ほどの盗賊が叫んだ。


「あ、悪魔だ!悪魔が来たぞ!」


 奥では女性が一人、裂かれた服で身を隠しながら震えていた。


 よくもそんなことが言えたな。走る勢いのまま片刃剣を思いっきり降りかぶる。



「悪魔とは、人間おまえたちのことだ――――!」



 峰で頭を叩き、吹き飛ばす。そのまま床を転がっていった。


「ひゃ、ひゃあっ!?」


 こちらにも六人、そのうち頭目らしき男が奥に一人。剣と弓を確認する。


 身構える前に、拾っておいたダガーを投げる。それは弓を取ろうとした男の腕に突き刺さった。


 ここにも槍はない。狭いところでは振り回しづらい長物を嫌ったのかもしれないが好都合だ。


 2刀を構え、剣の旋風と化す。


 一振りで手前にいた男の足と腕を切り、それが両手、続けさまに二人分を切り裂きいくつもの血しぶきが舞った。


「ひ、ひいっ!なんだこのでたらめなやつは!?てめえら行け!」


 頭目の号令に、負傷した一人を含む三人が突っ込んでくる。


 人の壁ができ、そちらに気を取られた隙に頭目らしき男が入り口側へ逃げ出した。


 肉の壁となった盗賊たちをすぐに切り伏せ、振り返る。


 見えたのは慌てふためいて逃げる頭目、そしてその先には、白い甲冑が見えた。


 オルロットが行く手を阻んでいる。


(あっしまっ)


「逃がすものか!観念しろ!」」


 オルロットが剣の峰で頭を一線する。


(あっちょっそれはまずい。)


 なすすべもなく頭目が崩れ落ちた。


(おかしらがんばれ立ち上がれ負けんな。)


 心の中で全力で応援する。


 しかし彼は動かなかった。


(死んだか?容赦ないなおい。)


 こちらの思惑など知るはずもないオルロットがさわやかに言った。


「ゾダン、君のおかげだ。ありがとう。」


 盗賊たちは ぜんめつした!


 オルロットは頭領を倒し、力を示すことに成功した!


(やっちまった――――!)


 盗賊のほとんどは僕が倒したかもしれないが、頭領を倒したのはオルロットだ。


 彼に力がないと主張しても、聞き入れられないだろう。と言うかうずくまってるやつらを捕縛してこいつらに証言させる予定だったのに計算が狂った。


 何より一番重要なのはオルロット自身が力を示せなかったと考えることだった。


(これも辻褄あわせの一種なのか?)


 わからないが、他の手段はなくなってしまった。もう拝命式をぶち壊すしかない。








 洞窟の外で待っていた男に女性を引き渡す。女性も男も何度も礼を言っていたが、村へよらずそのまま王都へ帰ることにした。


 盗賊たちは解けないよう厳重に縛って洞窟へ転がしてきた。奇跡的に死んでいなかったらしい。一応、応急手当だけはしておいてやった。後は王都に騎士団を出すように要請すればいいだろう。


 テルミニアに着き、王都への報告を終える。すぐに騎士団が派遣された。


 拝命式も準備は整っていたらしく、午後にはすぐ行われるようだった。詩人が町に広めている。


「堅苦しいのは好きじゃない。ここで分かれよう。」


「そんな、君も名誉を受けるべきだ。」


「名誉のために戦ったわけじゃない。」


 いや名誉を独り占めするために戦ったんだけどさ、失敗したし。失敗した以上、これ以上目立つのはまずい。


「式典は周りから見させてもらうよ。じゃあ。」


「わかった。ありがとう。どこかでまた会えるといいな」


 オルロットと別れる。


 もう町に住んでいる魔族に号令を出し、英雄の正体を疑わせるしかない。


 しかし本当にそれでいいのか?

 

 まだ答えは出ていなかった。




 


 午後になり、中央の広場に人が集まってくる。こんなに人がいたのかと驚くほどの数だった。


 人が増えなくなり少し経つと、中央にいたオルロットの前に王と姫が進み出てきた。


「よくぞ力を示した。オルロットよ。テルミニアの民に代わり感謝しよう。」


「もったいないお言葉です。」


「私は信じていました。オルロット様、どうか面を上げてください。」


 姫がにこりと微笑んだ。


「では拝命の儀を行う。何か伝えたい言葉はあるか?」


 魔族全ての視線がこちらに集中する。


 開いた両の手のひらを頭の左右にもって行き、あとは組むだけだ。


 オルロットが声を上げた。


「魔族に苦しめられた日々はもう終わらせるべきです。どうか僕を信じてほしい。」


 言葉を切ると、オルロットは民衆をぐるりと見渡した。


ぼくはオルフィンの王子オルロット。魔族に滅ぼされた彼らの無念は、僕が晴らす!今こそ魔王を倒すときだ!」


 歓声が上がった。それが落ち着いてから、王は頷き、口を開く。


「皆、証人になってほしい。」


 止めるなら今しかない。


「汝、――――」


 この方法しかない。


 その、はずだ。


 けれど迷ってしまった。


「――――英雄オルロットよ。」


 ――――だめだ。


 きっと失敗する。さっきの言葉を見ろ。今のオルロットは民衆を納得させるだけの言葉を語ることができる。


 そうなれば声を上げたものたちに疑念の目が向けられるのは避けられない。善良な魔族たちに危険が及ぶ。


 彼らには人間界の生活がある。



 人間領内で生活する魔族は、もう人間との絆がある。それを壊すのは避けたかった。


 彼らに命じればそれは間違いなく壊れるものだから。


「貴公に魔王の討伐を命ずる。」


 広場が大きな、本当に大きな歓声に沸いた。


 全ての苦しみから解放されるのだという喜びの歓声だ。


 魔族たちは作戦の瞬間を待っていたようだが、そのときではないのだと理解してくれたようだった。英雄の誕生を祝う歓声に加わる。


「はい、必ず、」


 オルロットが立ち上がる。そこには確かに英雄がいた。


「必ず魔王を倒します。」


 英雄の誕生を見てしまった。もう、運命の予言はとめられないのか?


 僕は無力に肩を落とし、人の波をかきわけ、背後の歓声を後にした。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ