1-3トロール・カタパルト
『この世で最も深き闇』を脱出したときには外はもう暗くなっていた。
魔王城へ戻ろうにも、夜の城門は締まっている。
仕方なく城下町で一泊することにして、朝早く城門へ向かう。
それからその横にある建物へ入った。
城の横には役所があり、行政上必要な手続きはそちらで行うことになっていた。城門の開放もこちらの担当だ。
「すみません、魔王城内に戻りたいんですが。」
「あれ?ゾダンさん、珍しいですね。朝帰りですか?」
受付の魔族がにやにやとこちらを見る。
「違います。どっかの淫魔じゃないんだからさ。仕事ですよ仕事。」
「ほんとかなー?人間好きな娘が多いから、おねーさんは心配ですよ。」
そう言って他の魔族に許可を取り、椅子から立ち上がった。
「じゃあ開けますから、ついてきて下さい。」
城の周りは堀になっていて、正面にある橋は跳ね橋になっている。
閂の鍵をはずし、解呪の呪文を唱えた。二重の鍵がはずれ、ようやく門が開く。お礼を言って城内に入った。
城門が閉じ鍵がかけられたのを確認し、すぐさま謁見の間に向かった。
玉座に座り何かの書物に目を通していたミュディア様がこちらに気づき、顔を上げる。
「戻ったか。財宝は手に入ったか?」
「ええ、ゾダン、今戻りました。財宝ですが、これでいいんですか?」
玉座の前まで近寄り、持ち帰った財宝を布の袋から取り出した。
宝箱を空ける瞬間まできらびやかな金銀財宝を想像していたんだけど、中身は全然違っていた。
あったのは鉄球がひとつ。手のひらで収まるかどうかの大きさだ。色は真っ黒で光沢を放っている。
完全な球体ではなく、鉄を重ね合わせたような継ぎ目がいくつもあった。非常に濃い青のグラデーションが継ぎ目を目立たせている。
なんというか丸まった高級なダンゴムシみたいな見た目だ。
見た目よりはるかに重い。両手で持って力を振り絞り、ようやく持てるほどだ。
最後に案内してもらった魔族に重さを軽くする加重軽減の魔法をかけてもらってようやく持ち運べるようになった。
「そうだ。――――」
ミュディア様はこちらの手の内にある鉄球に手をかざした。
とたんに鉄球は元の重さに戻った。加重軽減が解除されたようだ。
落としそうになったが、その前にミュディア様が鉄球を手に取る。重さをものともせずくるくると片手で回して弄んでいる。
「向こうで何か問題はなかったか?」
「ヤリ持ったやつに追いかけられました。」
「そうか。何度か行けば慣れる。たいした問題はなかったようだな。」
あまり慣れたくない。
ひょっとしてあそこに入った魔族はみんな追いかけられてるのか?
「後、鍵を投げつけられました。めっちゃ痛かったです。」
「支天石柱のことは伝えておくべきだったな。すまん。だが、あれは加減してあの速度だ。かわせんようでは門番を突破することすらできないんだぞ。」
普段からああやってものすごい速度で鍵を吐き出す魔物なのか。勘弁してほしい。
ふと、バサバサとこうもりが一匹飛び込んできた。中空でぼむ、と爆発してウルシエラが姿を現す。
「ミュッディアー。トロールカタパルト、準備できたよー」
「そうか。ではさっそく対策について話す。」
「どうすんのさ?」
「このままでは英雄がこの魔王城にやってくるだろう。それを黙ってみているわけにはいかん。」
「でも魔王領に直行する希望橋は落ちてるし、結構遠回りしないと来れないよね。本当に来れるのかな?」
「オルロットとやらが本物の英雄なら来るだろう。予言のとおりにな。そしてわらわも魔族も滅んでしまう」
「しかし、英雄が倒されないと予言されているわけではないでしょう。予言成就の前に倒せないのですか?」
「いや、そもそも『英雄である』と言うのが一種の予言なのだ。」
「英雄であることが予言、ですか?」
「真の英雄というのはでたらめな存在だ。アレはでたらめであると予言されているのに等しい。」
確かに英雄と称される人間は何らかの偉業を成し遂げている。それはあまりに信じがたい伝承もあり、あらかじめそうなると定められているかのようだった。
「たとえば英雄が生まれたときにわらわが息の根を止めるとする。すると、そいつじゃなくて別の赤子が英雄だったことになる。運よく逃れることができた、とな。」
「確かに英雄はよく伝承なんかで『そんなことありえる!?』みたいな攻略手段とってますよね。」
「そうだ。この現象を魔族の間では修正作業《辻褄あわせ》と呼んでいる。」
「早めにめちゃくちゃ強い敵をぶつけてみるのはどうですか?」
「なんやかんやで倒してしまい、いきなりレベルが跳ね上がる。」
なんてひどい設定だ。チートじゃないかそんなの。
「ってかゾダンならなんとかできんじゃない?」
「なんでだよ。」
「ふむ。わらわもそうかもしれんと考えている。」
「なんでですか。」
「オルフィンの民は英雄オルシャの血を引くもののはずだ。ならばゾダンにも当然その血が流れている。そうだな?」
言われて頷いた。
「英雄の力と英雄の力は拮抗する。英雄同士が戦ったとき、歴史は勝ったほうの英雄譚を語り継ぐことになっている。だとすれば予言を変えうるのではないか?」
「可能性はあるよね。前例がないからなんとも言えないけど。」
「そこで、これだ。」
ミュディア様が手でもてあそんでいた黒い球を掲げ上げる。やはりすごい財宝には見えない。
「えっと、その黒い虫みたいなの何なんですか?」
「黒い虫ではない。そんなこと考えておったのか。かわいいのに」
ちょっと不満そうに口を尖らせながら、ミュディア様は立ち上がった。よくわからないセンスだ。
「さて、では継承の儀を行う。わらわの前に跪くがいい。これはお使いの褒美だ。」
言われたとおり、玉座から少し離れた場所で跪く。
かつ、かつとミュディア様が近づいてきた。膝を折り、こちらの右肩に左手を置く。すぐ近くに顔があった。
「魔王ミュディアの名において命ずる。汝、ゾダンの血肉となりて彼のものを守れ。」
掲げられた鉄球が濃い青の光を放つ。
「さあ、このときよりこれはお前の力だ。受け取るがいい」
差し出された鉄球を受け取る。加重軽減を解除されたはずなのに重さはほとんどなかった。
「立ち上がれ。握り、唱えてみよ、魔導外装と」
促されて立ち上がる。言われるままに鉄球を握った。
「魔導外装」
濃い青い光が鉄球からほとばしり、鉄球の全てが放射状に飛散した。
飛散した光は空中で僕の全身へと突き刺さる。刺さった場所から黒の手甲が、脚甲が、兜が、鎧が現れた。
待っていたかのようにウルシエラが全身鏡を立てかける。いったいどこから出したんだろう。
鏡の向こうにはところどころ尖った黒の全身甲冑に包まれた男の姿があった。
「”これは?”」
自分の声に驚く。自分よりはるかに低く、歪み、まるで呪われたような声色だ。
「魔導球鎧。生体金属の一種を魔界の技術を使って叩き上げた一品だ。攻撃魔法などは弾ける。気に入ったか?」
改めて鏡を見る。確かにデザインは悪くない。少し動いてみた。
重さも驚くほど軽く、全身を覆っているのに動きが阻害されない。
「”いいですね。ところでこの声は?”」
「認識阻害の魔術の効果だ。よほど高位の魔術師でもそなたの姿を認識できない」
「やー。しぶいこえー。蕩けるー」
「わらわもそう思う」
魔族の感性は基本的におかしい。
「こほん、言っておくが普段の声も嫌いではないぞ?」
「”ところでどうやって解除するんです?”」
「魔導球縮と唱えよ」
「魔導球縮」
唱えると甲冑は光に変わり、胸の前で再び球の形に戻った。
「ウルシエラ、ナイトブレードをここに。」
「はいよー」
再びどこから出したのか、むき出しの片刃剣をウルシエラが差し出す。刀身は紫色で、柄も衣装があしらわれているがほとんどが紫だ。
「これを持て。夜鉄鋼を鍛えた剣だ。並みの鉄ならば切り裂ける」
受け取る。ずしりと思い。少し振ってみるが、重心が特殊で振り回すにはこつがいりそうだった。
「わらわが授けるのはここまでだ。」
ばっと前方斜め45°に手を開く。
「これよりお前は暗黒騎士ゾダンとなりて英雄を倒すのだ。」
「どちらかというと黒い戦士では?」
「なんだ?よく知らんがなんか騎士のほうがかっこよいのであろう?」
「いや、騎馬を有する高位の戦士のことを騎士と言うので騎士ではないです」
「細かいことはよい、わらわが騎士と言ったら騎士なのだ」
「ははっ。光栄です」
意固地になると聞いてくれないのであきらめる。まおー様は満足そうに頷いていた。
「オルロットを名乗る英雄は王都テルミニアに入る前に希望橋の残骸を見に向かったらしい。そなたにはそちらへ向かってもらう。」
「はっ」
「ウルシエラ、予定通り送迎は任せる」
「りょーかーい」
「ではゆけい!我が黒騎士よ!」
「ははっ」
答え、謁見の間の外に出る。
後ろからふよふよと飛んできたウルシエラが耳打ちをした。
「なんかミュディアめっちゃ楽しそうだったよね。」
半目で応答する。
「きっとこういうの好きなんだよ。」
トロールカタパルト。
ウルシエラが言っていたものを城外で目の当たりにして僕は言葉を失った。
トロールの中でも屈強なトロールの男たちが列を成して並び、筋肉を強調するポーズ取っている。
「なにこの空間」
「めっちゃ高まるよねー」
「はあああ!」「筋肉の躍動!」「筋肉の饗宴!」「筋肉の革命!」
トロールたちは次々とポーズを変えながら謎の呪文を唱えている。聞いていると発狂しそうだった。
「みんなー!かっこいいぞー!」
ウルシエラが声をかける。それだけで普段ならどんな魔物も鼻の下を伸ばして気持ち悪い笑顔になる。
「筋肉の爆発!」「筋肉の暴風!」「筋肉の噴火!」「筋肉の濁流!」
しかし彼らは反応を示さず真剣な顔で呪文を続けていた。
「何の儀式なんだよ。」
「んーと、肉体暗示の一種?さっぱり理解できないけど筋肉となる魔法とかなんとか。さ、こっち来て。」
手招きされたほうに行くと、人が数人乗れるくらいの大きさの円台があった。台の表面には何かの文様が描かれている。そこにウルシエラが降り立った。
「ここに乗れば、空を飛んでいけるの。早く早くー!」
「魔力によって飛ぶための装置ってこと?」
円台が空に浮かんで飛んでいくのかなとイメージする。
しかしそれならなぜ魔法が得意ではないトロールたちが集まってるんだ?
「うーんと。」
腰に手を置いて首をかしげ、それからトロ―ルたちのいるほうを指差す。
「あっちに力がかかるとこっちに逆の強い力がかかる構造になってる。」
やり方が実に原始的だった。
「ほんとに大丈夫なのこれ。壊れたりしない?」
「魔法鉄鋼でできた投石台はそう簡単には壊れないよ。早く乗って乗って♪」
円台に乗ると、ウルシエラが背中から手を回して密着してきた。いろいろやわらかいものが当たる。
「ちょっとっ!?」
「密着しないと吹っ飛ばされるよ?いいからいいから、嬉しいくせにー」
「いや嬉しいけどさってちょっと待って振って飛ばされるって何!?」
「GO!トロールカタパルト!」
こっちの言葉を完全に無視してウルシエラが号令をかけた。
「いくぞお!」「「「「「「「おう!」」」」」」」
もっとも屈強なトロールが叫び、その声に他の全員が応じる。
誰もが左こぶしを地面に置き、腰をひねって頭の後ろまで振りかぶった。めりめりと上半身の筋肉が隆起する。鍛え上げられた肉の弓がその限界まで引き絞られた瞬間、
カッと全員の眼光がほとばしった。
「トォロール!カタパルトォ!」
叫び声と共にドゴオ!と大地を揺るがす鈍い音が響いた。中心にある魔法円が輝く。
瞬間、
空が置き去りになった。
「は?」
高速で景色が流れていく。空を飛ぶ砲弾となった自分は口を開くことさえできない。目を開けていることさえ難しい。
確かに投石台は壊れなかったらしいけど、生身のまま吹っ飛ばされるとは聞いていない。
余りの力にウルシエラから弾かれ、雲より高い空を吹き飛んでいく。
「きゃー!たのしー!」
どうにか目を開いて探すと、近くを楽しそうに飛んでいるウルシエラの姿が見えた。飛べる彼女にとっては面白いアトラクション感覚なのだろう。
「ウルシエラー!結局、吹っ飛ばされてるじゃないかー!」
「やー。二人で使ったことないからねー。ごめんごめん。」
地面は既にはるかに遠く、それをさえぎる雲が見えた。高度が高すぎる。
「だ、大丈夫なのこれー!?」
「だいじょぶだいじょぶ。魔法台の効果で会話も呼吸もできるっしょ?速いだけの遊び道具みたいなもんだから楽しんでー」
「いや、このままじゃ落ちるだろー!?」
命を懸けた遊びである。とても楽しめるものじゃない。
「地面に落ちる前に助けるって♪」
「落ちるのは決まってるのかよ!」
抗議の声を置き去りにして飛んでいく。
どのくらい飛んだだろう。ようやく慣れてきた。まだ時間がかかりそうなので聞いてみる。
夢、いや現実世界の話だ。今朝も夢は見ていない。
「ウルシエラ、聞きたいことがあるんだけど。」
「なにー?スリーサイズとか?彼氏何人いるかとか?」
「同じ夢を見るんだ。いや、今はもう見なくなったんだけど、ずっと続く夢を見ていた。」
「スピリチュアルだねー。」
「茶化さないでよ。夢にしては妙にリアルで、見なくなるまであっちが現実だと思ってたんだ。」
「こっちが夢だと思ってたんだ?」
「ああ」
というか今でもまだ実感がない。明日目覚めれば現実世界が始まるんじゃないだろうか。
「どんな世界?」
「えっと……今よりずっと機械文明が発展してて、人間は一箇所に詰め込まれて働いてる。機械の箱が遠い場所の映像を映したり、後、学校って言うのがあって、若いやつはみんなそこに行って勉強してる」
「まるで異世界だね。昔から存在はしてるって言われてるよ」
「行く方法があったりする?」
「うーん、まだ転移手段は確立されてないかな。それに、眠っている間だけそっちにいたんだよね?」
「ああ。なんかそういう魔法とか知らないか?」
「んんー?」
思い当たらないのか、はっきりしない返答だ。
「どのぐらいの期間見てたの?」
「もうずっと。何年も見てた気がする。忘れたこともあるけど、それも、ほら、昔のことを忘れるみたいな感じ。」
「うーん。どーだろ。」
少し考え込むようにして、会話が途切れる。
長い距離を飛んだ後で、ウルシエラは言った。
「転生式、かな。」
「転生式?」
「魔術の一種で、今生きている生命を別の生命に転生させる魔術。要するに同一固体を擬似的に複製する場合に用いるのがあるんだ。」
「複製ってことは転生後も同じ意識のままなのか」
「そう。でも、赤ん坊に生まれ変わらせるときに、赤ん坊の意識を乗っ取っちゃうのはかわいそーじゃん?」
だから転生前の固体と転生後の固体をリンクさせて、意識レベルで融合した超自我にすることであれ!?人生二倍生きてる!お互いめっちゃ幸せ!って感じにする術式なんだけど、それに似てる。
ってことはあっちの僕はどうなったんだ?死んだのか?
いやーちょっとわかんない。普通は死んだときにリンクが切れるんだけど、「あっこれ死んだわーうわー死んだかーでも生きてるハッピー」って実感があるはずなんだ。そういうのは無かったんだよね?
ちょっと記憶に無い。普通の一日を過ごしていた気がする。ウルシエラに頷いた。
ならわかるのはリンクが切れたってことだけだね。専門外だから、後で他の四大魔将にでも聞いてみて。
「わかった」
ある程度飛んだところで、崖が見えてきた。
崖の話は前に聞いて知っている。
長い長い崖は海まで続いていて。割れた海には海水が流れ込み続けている。
大地に走った馬鹿でかい亀裂の向こうは真っ暗闇で、底はまったく見通せない。落ちたら最後、絶対に這い上がれない死の崖。断絶された世界の裂け目。
絶望の断崖だ。
その途中には橋が架かっていたが、今は壊され、途中までしかない。
「ん?」
高度が落ちてきた。
角度がだんだん急になり、このままだと、落ちる。
「いやちょっと待って落ちる、落ちる!」
落ちたら二度と這い上がれない暗闇にせよ、ただの地面にせよ助からない。
慌てていると、ウルシエラがこちらに近づいてきた。
「助けてほしい?」
「当たり前だろ!」
「ええーどーしよっかなー」
意地悪な笑みを浮かべて横にぴったりくっついてくる。ほっといたらこっちが完全に落下するまでこのままだ。魔族とはそういうものだ。
「えっと、助けてください」
「しょーがない、まかせたまえ!」
ウルシエラが上に移動し、こちらの両肩を掴んだ。翼が開き、姿勢が制御され滑空する。
「もーすぐだから、がんばって」
「うん、ありがと」
長い崖を飛ぶ間に、ウルシエラがポツリと聞いた。
「ね、ミュディアのこと、嫌いになった?」
「なんで?」
「ゾダンは今まで、こっちが夢だと思ってたんでしょ?だからオルフィンが滅ぼされた後も、ミュディアに対して反抗しなかったんじゃないの?」
「いや」
なんと言えばいいのか困る。だから思ったことをそのまま言った。
「――――ミュディア様には、感謝さえしているよ。」
「本当に?だってゾダンの国を滅ぼしたのは、他でもない魔王ミュディアなんだよ?」
確かにそうだ。両親もミュディア様に殺されたようなものだ。
けれど憎む気にはなれなかった。事情を知れば、きっと憎むことができないものも多いはずだ。
「……僕が言うのもなんだけど、」
苦い記憶を思い出す。そしてすぐにそれを振り払った。
「――――オルフィンは、滅びるべき国だった。」
やがて、切れ間なくどこまでも続くかに思われた断崖の終わりが見えてくる。
オルシャの希望橋の片側に、ちょうど一人の人間が立っていた。
眩いほどの白い全身甲冑に身を包み、その顔はわからない。まだこちらには気づいていないようだ。
「ゾダン、アレだよ」
「――――そうか。うん。そうだと思ったよ」
左手に剣を構え、右手に鉄球を握る。
「魔導外装」
瞬時に装着された甲冑は、ウルシエラの手をはじくことなく、掴まれたままだった。
「”あそこに着地できるか?”」
「わかった。ヤバいときは断崖に飛んで。下で受け止めるから」
「”ありがとう”」
降下を開始し、少しずつ地面との距離が近づいていく。そのころには英雄を名乗るものもこちらに気づいたようだった。
一度断崖を大きく抜けた跡で、くん、と右へ半円を描いて旋回する。
「いっくよー!着地姿勢とってー!」
ぱっとウルシエラが手を離す。前方への速度はそのまま、軽く腕を開いて地上へ落下する。
地表と斜めに激突する瞬間、鎧が勝手に方ひざを折り、衝撃をそらした。
ザザザザザッと地面をこすり、やがて動きが止まる。
ひざまずくようにして黒い甲冑は白い甲冑の前に降り立った。