006 お兄ちゃん株価の大暴落
「はぁ……。もうどうなってんだ……。」
一日が長かった……。そりゃそうである。
今日だけで、何度も、何百回もバッドエンドというか、デッドエンドを繰り返したのだから。
家のリビングでは、妹の風花がソファに寝ころびながらテレビを見ていた。まだ中学生だろ。せんべい片手にひじづえをついて、おばはんかお前は。
「ただいま。」
「おつぽよ~♪」
「……おう。」
風花は、ころんと寝ころがえって、俺の顔をじっと見つめた
「あれ?兄ちゃん、何か浮かない顔してどしたん?つらたにえん?」
さすがは俺の妹、お兄ちゃんの異変にすぐ気づくとは……。偏差値低い若者言葉とか使わなければ、パーフェクトな妹である。
つらたにえんって何?辛い事あった?って意味か。
「あぁ、ちょっとな……。」
「何があったの?」
「うーん……。好きな人に、告白したら振られて死ぬという夢を百回くらい見た。」
「なに?夢の話なの?いい歳して夢の話とか……まじ卍~。」
まじ卍?何いってんだこいつ。女子中学生好きだろ、夢の話だとか、占いだとか……。
「あとな、後輩から告られた。」
「はぁっ!?まっ!?」
最近知ったが、「ま!?」は「まじでっ!?」の意味らしい。やばいをやばたにえんと長くしたり、極端に短くしたり、もう何がしたいの最近の若い子たちは……。
「もしかして……ちろるん?」
「……。」
鋭いなっ。何で分かるんだ……。
「その顔は図星だね?」
「いやっ、何ていうか……その……」
「ごまかさなくていいよ。だって、中学の時から、ちろるんが兄ちゃんの事好きなんだろなって思ってたし……。ってか、高校でサッカー部マネジになった聞いた瞬間にもうほぼ確定だったし。」
そうなの……?初耳なんだけど。だったら教えてくれたらいいのに。
「中学の時、よく軟式のテニスボールがサッカー部の方に飛んでこなかった?」
「あぁ……なんかよく拾った覚えあるけど。」
「あれって、先輩たちがわざとボール飛ばして、ちろるんに拾わせてたんだよ。」
「はぁ?なにそれ、いじめかよ。女ってこわ……。」
「ちがうよ。ちろるんが兄ちゃんのこと好きなんだって気づいた先輩が、接点作ってあげようとしてたの。」
「まじか……。」
高校二年生になって、初めて知らせれた驚愕の事実である……。
「兄ちゃんに、ボール取ってもらった時に、ちょっと話しかけてもらっただけで、ちろるんが頬赤らめて帰ってきてからね。みんなから“ちょろるん”って呼ばれてたよ。」
なにそれ……ちょろるんって。「ちょろい女」と本名の「ちろる」をかけてんの?
なにその不名誉なあだ名……。無駄に語呂がいいし、かわいそうだけど、確かについ使いたくなるな。
「っていうか、ちろるは一応お前の一つ年上の先輩だろ。ちろるんとか、間違っても、ちょろるんとか言うなよ。俺は今度からちょろるんも使うけども。」
「別にいいんだよ。みんな、ちろるんにはため口だったし……。ちろるんはいじられキャラだったから。」
先輩としての威厳がたらんぞ、ちょろるん……。いや、まぁ親しみやすい先輩だったということにしておいてやろう。
「そんなことより、兄ちゃんは何て返事したの?」
「……。」
しまったなぁ。余計なこと言わなきゃよかったぜ。
「えっと……何というか、保留というか……返事は待ってもらってる。」
そう言った瞬間、風花はゴミを見るような眼になった。
「うっわ、兄ちゃん最低……男らしくねぇわ……まじクズ。幻滅した。」
そこまでいいます?いや、まぁその通りだけどもっ!
でも、それ以外の選択肢選んだら、デッドエンドの無限ループが待ってんだよ……というわけにもいかない。
「えぇ……極めて遺憾に思います。」
「なに政治家みたいな言葉つかってんの?」
俺だって好きで、返事を保留してるわけじゃねぇんだよ……。
「ちろるん可愛いのに。もったいない。」
まぁ可愛いのは確かに可愛い。今日の告白とかもまじキュンってきたし……。
「何でOKしないの?他に好きな人いるとか?」
「うっ……まぁ……そうだな。」
「ひゃっはー、他に好きな子いるから返事保留にするとか、もう死ねよ兄ちゃん。」
まずい……リーマンショックレベルでお兄ちゃん株の下落が止まらねぇ。兄への信頼という名の株券が、ただの紙切れのように薄くなっている。
「ちがうぞ、風花よ。」
「へ……?」
「お兄ちゃんは、中途半端な告白が大っ嫌いだ。」
「ん?もしかして、兄ちゃんが中三だった頃の話?」
「あぁその通りだ。」