004 彼女の告白は死のループを巻き起こす。
突如、ちろるはそう告げて、俺の身体に抱き着いてきた。
体が密着した瞬間、彼女の身体がふるふると震えて、心臓の鼓動がバクバク脈打っているのが分かった。
「えっ……」
「好きです。ずっと前から……大すき。」
ずっと前……。いつから彼女は俺なんかに好意を寄せてたのだろうか。
思い当たるふしがゼロというわけではない。
中学時代、何かとテニス部のボールがサッカー部の方に飛んできたり、高校に入ってからも、サッカー部のマネジとして何かと俺に世話をやいてくれたりしていた。
しかし、それは中学からの顔見知りの先輩だからってことだと思っていたのだが……。
「………///」
ちろるは恥ずかし気に、俺の胸へぎゅっと顔をうずめている。
どうする?どーすんの?オレ?どーすんのよ!!!
俺の脳内には、少し前のオダギリジョーの出てるライフカードのCMのように、三枚の選択肢が書かれたカードが浮かび上がった。
本命、やっぱり俺には神崎さんしかいねぇ、告白を断る
対抗馬、ちろるんこんなに頑張ってんじゃん、ちろるの告白をOKする
穴馬、回答を保留する。
考えるまでもない……とはいえないな……。でも、やっぱり俺は……いくら振られたって、神崎さんのことが好きだ。
俺はちろるの肩をぐっと握って、引き離した。
「ごめん!ちろるっ!俺には他に好きな人がいるんだ!!」
「………。」
痛い。胸がめちゃくちゃ痛い。好きな人に振られる気持ちは、俺だって痛いほどに分かっている。
「……。」
ちろるは潤んだ目で、俺の顔をじっと見つめた。
「そうですか……。すみません!忘れてください。」
ちろるは、ゆっくり俺から離れて、壊れそうな笑顔を作った。
「っじゃあ、また明日、部活で会いましょう!」
「……。」
ちろるはくるっと背を向けて、小走りで去っていった。
青春は痛い。
むき出しの自分の心をさらけ出し、互いに傷つけたり、傷つけられたりを繰り返す。その一方で、好きな人から声をかけられたり、偶然出会えたりしただけで、天にも昇る気になったりもする。
恋愛の一喜一憂に、生きるか死ぬかというほどの全力をかけている。それを大人たちはキラキラとした宝石のように懐かしんで語るが、そんな日がいつか俺にも来るのだろうか。
小さくなっていく寂しげな背中を眺めながら、そんなことを考えていた。
その時である。ちろるは交差点を、車の通りを全く確認することなく駆けていった。
「おいっ、止まれ!ちろるっ!」
俺の静止する声も虚しく、トラックが彼女の身体を跳ね飛ばす映像が目に焼き付いた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「……。」
おい、どうなってんだ……!?俺の目の前には、頬を紅潮させたちろるがいた。
「あの……先輩。私、先輩がすきです!」
そう告げて、ちろるは俺の身体に抱き着いてきた。
体が密着した瞬間、彼女の身体がふるふると震えて、心臓の鼓動がバクバク脈打っているのが分かった。
「………。」
「………///」
俺の脳内には、三枚の選択肢が書かれたカードが浮かび上がった。
本命、やっぱり俺には神崎さんしかいねぇ、告白を断る
対抗馬、ちろるんこんなに頑張ってんじゃん、ちろるの告白をOKする
穴馬、回答を保留する。
おい、ふざけんなよ。誰か説明しろよ。さっき、確かに俺の目の前で、ちろるはトラックに轢かれて……。
「……先輩。……駄目ですか?」
あぁもう、ちょっと待て。そんな潤んだ目で上目遣いすんなし。思考が追いつかん!
「なぁちろる。」
「はい…。」
「ごめん、お前とは付き合えない。」
「……そうですか。」
「ちょっと待て。」
俺はちろるの小さな手を力強く握った。西日で温かいというのに、彼女の手は冷たく冷え切っていた。
「えっ?」
「ほら、家まで送ってやる。」
告白を振ったくらいで死なれてはたまらん。いや、まぁ俺は神崎さんに振られて死にまくったけど。
「ちょっと……先輩?」
交差点に通りかかった時、先ほどちろるを跳ね飛ばしたトラックが通り過ぎていくのが見えた。
よし、バッドエンドを回避した。
「ふぅ……。」
ほっと安堵の息をもらしたその時だった。突如、俺の腹部に激しい衝撃が走った。
「なん……だと……。」
背後には、黒のフードを被った謎の男が立っており、その手には血に濡れたナイフがあった。
力なく俺はその場に倒れた。
「先輩っ!!」
フードの男は、次にちろるにも襲い掛かった。ちろるの悲鳴が聞こえ、俺の意識は消えていった。