003 そして後輩は俺に想いを告白する。
電車に揺られながら、俺は神崎さんと過ごした帰り道の余韻に浸っていた。
7月初旬にもなると、かなり日が長くなってくる。電車から降りた時も、まだ日は落ちきっていない。
駅から自宅までの帰り道を歩いていると、突然後ろから声をかけられた。
「あっ……あの、雪ちゃん先輩!」
「うん?」
振り返ると、サッカー部マネージャーの桜木ちろるがいた。
一つしたの後輩で、中学の頃から顔見知りである。まぁその時は、彼女は軟式テニス部で、俺はサッカー部で特に大きな接点はなかったのだが。
「おぉ、ちろるんじゃん。何してんの?」
「えっ、いや……買い物してたら、先輩の姿が見えたので。」
ちろるは、少し息を切らしている。俺の姿を見て走って追いかけてきたようだ。
「そなんだ。っじゃあまた明日部活でな。」
「ちょっと、もう少しかまってくださいよ!泣いちゃいますよ!」
流石に後輩のマネージャーを泣かせるわけにはいかない。
「冗談だよ。家の近くまで一緒に帰ろうか。荷物もつぞ?」
「えっ……、はい!ありがとうございます!」
ちろるは、にかっと笑って、荷物を手渡して来た。隣同士肩を並べながら、閑静な住宅街を歩く。
「そうえば今日、部活終わった後、急いでどっか行っちゃいましたけど、何か用事でもあったんですか?」
「えっ、いや……ちょっとな。」
好きな子に告白して振られ続けてただなんて言えない……。
「何で隠すんですか……あやしいな。」
ちろるはジロ目で俺の顔を見てきた。
「まぁいいじゃないか。何買ったんだ?」
「夕飯の材料ですよ。」
「ふーん。ちろるんって料理とかするの?」
「もちろんですよ。料理は私の48ある得意技の一つですよ!」
48という数字からは殺人技を連想するのだけど……本当に得意なのかよ。殺人的な味で得意ってことじゃないだろうな。
「ほう……。ちなみに得意料理は?」
「肉じゃがです!」
肉じゃが好きな男って、実はそんなにいないと思うのは俺だけだろうか。
どうせ材料も調理工程も同じなら、肉じゃが作るよりカレー作れやって思ってしまう……。
その辺が女心わかってないのだろうか。いや、そもそも世の男が肉じゃが好きとかいう噂が、もてない三十代OLとかが流したデマなんじゃね?
「そうか。まぁがんばれ。」
「えっ!?なんで応援されたんですか!?」
噂に流され、こてこてテンプレの肉じゃがだと答えるあたり、ちろるんの料理の腕もしれたものだ。しばらくちろるは、納得いかなそうな表情であった。
「それより、先輩……。さいきん、黒髪の綺麗な女性と、鼻の下伸ばしながら一緒に話してるのよく見るんですけど。」
神崎さんのことか。学校で何かと要件見つけて、話しかけかけようとしてたの見られてたのか。
好きな人にアタックしてるのを後輩に見られてたなんて、我ながら恥ずかしいな。ってか、鼻の下なんて伸ばしてねぇし。
「あの人……って、先輩の彼女さんですか?」
ちろるは、どこか真剣な表情で尋ねてきた。
「はぁ?彼女じゃねぇよ。」
というと、ちろるはどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。おい、独り身の悲しい男を見るのがそんなに楽しいかこの野郎。
「そうなんですね!まぁ、先輩みたいな人とは釣り合わないですよ!」
「うるさいな。」
この野郎、傷に塩ふりかけやがって……。そんなことこっちだってわかってんだよな~。
神崎さんが彼女だったらどんなに幸せなことだろうか。もうそっとしといてあげてよ。今日だけで何度も振られまくって、もう幸せの零地点突破してんだけど。
「雪ちゃんせんぱい!」
ちろるは俺の前にぴょんと一歩出たかと思うと、くるっと回って、正面から俺の顔を見つめてきた。
「……なに?」
「………。」
「顔近いよ?ちろるちゃん?」
西日が彼女の顔を照らし、ちろるの頬に赤みがさしてるように見えた。
「あの……、先輩って今彼女いないんですよね?」
「……うん。知ってるだろ。いちいち言わせんなし。」
何この感じ、なんでこんなドキドキしてんの?まるで告白される前みたいじゃない。
「あの……先輩。私、先輩がすきです!」
「………。」