002 こうして俺は死のループを回避する
数えきれない数の告白を、俺は何度も繰り返し、そして何度も死んだ。(メンタルと身体の両方)
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「……もう、いっそ本当に殺してくれ。」
いや、まぁ何度も心臓麻痺で死んでるのだけど……。
そして、何度も告白する前に巻き戻る。
いったい、何回振られたらいいの?もう青葉くんのライフはゼロよ?
告白の仕方を変えたら上手くいくなんてのは、もてない男の考えることである。結果なんて告白する前から決まっているのだ。
しかし、もし告白をやりなおせるなら……、こんな告白ならOKしてもらえるのでは、という僅かな可能性でもすがりたくなる。それが本当に好きっていうことなんじゃないか。
「もう意味不明!何なん?神崎さんと付き合えるまで、何度も再チャレンジできるてきな、そんなんじゃないの?」
いや、ひょっとしたら……告白して振られるのが駄目なのか?
ということは、もしかしてもしかすると……俺が今、神崎さんに告白しなければいいのでは?
「ごめん、お待たせっ……。」
パタパタと茶色のローファーがコンクリを叩く音とともに、愛しの神崎さんが現れた。
「あっ、部活おつかれ。ごめんね、急に呼び出しちゃって……。」
どうしよう、告白やめるべきなのか。
「どうしたの?部活終わりに呼び出して……」
いやいやいや……、このシチュで告白以外の行動をとる奴がいたら、もうサイコパス認定受けるけど……。でも、告っても振られて死ぬだけだしな……。
「……。」
「……。」
何てごまかそうか。そうだな……、そうだ。うちの姉貴の話題でも振ってみよう。
「最近、姉貴どんな感じ?」
うちの姉、青葉吹雪は、同じ高校の三年生であり、吹奏楽部でオーボエとかいう楽器を担当している。
同じ吹奏楽部の神崎さんは、無論姉とも関わりを持っていて、神崎さんとの鉄板な共通の話題であった。
「えっ?吹雪先輩のこと……?」
「うん、ちょっと最近なんか悩んでるみたいな感じしてさ。」
神崎さんは、頬に手をあてて小首を傾げた。そりゃそうだ……。だって、別に姉貴なんも悩んでなさそうだもの……。最近も絶好調で元気だもの。
神崎さんは仕草が一々可愛い。もう衝動的に告白しそうになるわ。死にたくないからしないけど。
「あっ、うーん。そうだね……。生徒会の仕事と部活で、忙しそうにしてるかな。他には特に気になることはないけど。」
「そうか!もし、部活で何か変わったことあったら、俺に教えてね。」
「うん!わかった。……えへへ。」
神崎さんは、突然可愛らしい笑みをこぼした。
「えっ、どうしたの?」
「いや、青葉くんって、お姉さん想いなんだね!そういうところ、すごく素敵だなって思ってさ。」
神崎さんは、この世の全ての男を恋に落とすような笑顔でそう言った。
やっばいわー、これはもう…かわE超えて、かわFどころか、かわZですわ。萌え死ぬ、神崎さんに萌え殺される!
今日だけは姉貴に感謝しよう。俺に対して氷のように冷たい姉貴に、帰りに姉貴が好きなハーゲンダッツのアイスでも買って帰ってあげよう。
「えっと……、用ってそれだけ?」
少し上目遣いで、どこか物ほしそうに神崎さんは聞いてきた。なんかこれ俺からの告白待ってる感じじゃない?
「……。」
いや、冷静になれ。これは巧妙な罠だ。
神崎さんは天然小悪魔チックなところがある。本人に全く自覚はないが、おもわず男子をその気にさせる仕草をみせる。
この子……!おそろしい子!
「うん、それだけだ。ごめんね、呼び出して。」
「全然いいよ。一緒に帰る?」
あぁもうそういうところ。つい、好きになっちゃうから。
それにしてもなるほど……、告白しないのが正解だったのか。
神崎さんは、高校から歩ける距離の一軒屋に住んでいるらしい。俺の家は電車で4駅のところだが、彼女の家の近くまで、肩を並べながら歩いて帰ることになった。
「それでね、吹雪先輩ったら、先生から指揮棒奪って、『私が代わりに指揮します!』って言ったんだよ。」
「さすが姉貴だな~。相変らず気が強いというか、我が強いというか。」
「カッコいいよね。」
神崎さんは、横断歩道の白いところだけを踏むように、ぴょんぴょんと跳ねていった。
神崎さんは天使だから、きっと黒いところを踏むと死んでしまうのだろう。神崎さんはいわゆる天然清楚系天使キャラだ。俺が勝手に考えただけだが……。
「っじゃあ、私はここで。また明日ね~。」
「うん、また明日。」
神崎さんと楽しいおしゃべりタイム……幸せ過ぎて明日あたり死ぬんじゃないかな。
彼女の影が小さくなっていくのを見送る。一度だけ、ちらっとこちらを見て笑顔で手を振ってくれた。