015 やられたらやり返す、倍返しだ。
「あの……言葉先輩……。」
「うん?どしたの?」
この時、俺の頭には倫理的によろしくないアイデアが一つ思い浮かんだ。
それは、俺が昨日、頭を悩ましていたこの死の無限ループについての仮説を立証するアイデアである。
そのアイデアとは、俺から言葉先輩に愛の告白をすることだ。
昨日考えた仮説では、神様は、互いに本当に愛し合った者同士で、『心からの両想いで結ばれる告白』しか、認めてくれなくなったのではないだろうか……というものだった。
検証のために、告白するというのは正直あまり気が進まない。
しかし、これで俺がふられ、その直後に死んでループが起こるならば、仮説はもう立証されたようなものだ。
もし死の無限ループが起こらなくとも、「すみません。さっきのお返しでからかいました。」とでも謝れば、言葉先輩なら笑って許してくれるだろう。さっきからかわれたし、これでおかいこだ。
「言葉先輩……!あなたの事が好きです。付き合ってください!」
俺は言葉先輩の瞳をじっと見つめながら、そう告げた。さぁ……俺を振ってくれ。
「えっ……///いっ、いきなりっ?えっ!?ど、どうしよっ……///」
えっ……なにその反応……。あり?想像してた反応と違う。
“またまた何言ってるの弟君?年上をからかっちゃ駄目だぞ!”くらいの感じで軽く振られると思っていたのだが……。
あからさまに頬を真っ赤にしながら、言葉先輩はおどおどきょろきょろと慌てている。こんな先輩を見たのは初めてだ。しばらくこのまま眺めていたいほど、素直に可愛い。
「えっと……/// 返事はちょっと待ってくれるかな……///」
言葉先輩からの返事は、『保留』という答えだった。
「……。」
そろそろ何かしらの死が訪れて然るべき時間だ。しかし、生徒会室には気まずい沈黙が漂ったまま、何も事件や事故が起こる気配はしなかった。
……『保留』?そういえば、昨日、俺がちろるんの告白の返事も、結局は『保留』という結果で死のループを抜け出すことができたことを思い出した。
もしかして、告白の返事が『保留』の場合は、死のループが起こらないとか……?
「あの……ちょっと返事は待ってくれる?///」
気まずい沈黙に耐え切れず、言葉先輩はもう一度、保留でという返事を繰り返した。
まずい……今さら、「冗談でした!」なんて言える空気じゃねぇ……。このままでは、好きな人がいるのに、軽いノリで他の子に告白した薄情者になってしまう……。神崎さんにも、ちろるにも二度と顔向けができないっ!
「駄目ですっ!今っ!今ここでっ!早急に返事を出してください!」
俺は慌てて言葉先輩へと詰め寄った。言葉先輩は俺の必死の形相に、思わず後ろに後ずさった。
“ドンッ!”
勢い余って、言葉先輩を壁際に追い詰め、思い切り壁ドンッ!をかましてしまった。
「お願いです!今すぐ付き合うかどうか、返事してくださいっ!!!」
言葉先輩は眼に涙を浮かべ、ふるふると震えている。うわっ……すごい罪悪感がする。
「うぅ……今すぐは、ちょっと。ごめんなさい……。」
言葉先輩は、告白の返事にとれる答えを口にした。
その瞬間、生徒会室の入り口の方から、殺意に満ちた恐ろしいオーラを感じた。
「おい、糞馬鹿……何で言葉を泣かせてるんだ……?」
恐るおそる振り向くと、鬼の形相の悪魔……じゃなくて、姉貴が立っていた。
「ふっ、吹雪お姉さま……?これは……ほんの冗談なのですっ……!?」
「冗談で女性に告白して泣かすなど、なお悪いわ、死ねっ!!!」
「グフッーーー!?」
俺は姉貴に思い切り腹を蹴飛ばされて吹っ飛び、そのまま生徒会室の窓を突き破った。生徒会室は校舎の三階であり、落ちる先はコンクリの階段である。
ふわっとした浮遊感の後、玉ひゅんの感覚が起こった。みるみるうちに、コンクリの階段がどんどん目前に近づいてくる。
“ぐちゃっ!!!”
一瞬で目の前が暗くなった。……即死であった。