プロローグ
僕はゆっくりと目を開けた
雲一つない透き通った青い空
そこから鋭い日光が差し込み、敷き詰められたタイルに反射して、真っ黄色く輝いている光が目に飛び込んでくる
あまりの眩しさに僕は目を細めてしまった
しばらくして、光に慣れてきたところで僕は再びゆっくりと開け直し、辺りを見渡し始める
三つの旗が掲げられている細長い三本の鉄柱や天体望遠鏡が納められているペンキが少し剥げている小さなドームが視界にはいる
三つの旗の中の一つに校旗があり、この鉄柱やドームは確か屋上にあるもの
どうやら僕のいるこの場所はは学校の屋上の様だった
しばらく辺りを眺めていると
空と屋上の境目を仕切るように並べてあるフェンスの上から
静かに腰掛けて、上の空で辺りを眺めている
一人の女性に気がついた
心地よい涼しい風が綺麗な長い黒髪と黒のマントがサラっとなびかせる
時々開く髪と髪の間から見える
雲のように白く、柔らかそうな首筋
風と音と微かに流れ聞こえてくる
陽気な鼻歌
後ろ姿で顔は見えなかったが
不思議にもそんな彼女に惚れしてしまった
そんな彼女に僕は声をかけようとする
けれども何故か声が出なかった
今度は立ち上がって近づこうとする
けれども何故か体が動かなかった
干渉してはいけないのだろうか
不意にそんな考えが頭をよぎる
けれど、それが正解なのかは分からない
突然芽生えた困惑を胸に
僕は目の前の彼女を眺め続けた
しばらくすると
ピタリと鼻歌が突然止み
彼女は静かにフェンスの上に立ち上がった
彼女は微かに震えながら
何もせず
全身の力を優しく抜いて
自然に任せるように
体を前に倒した
黒いマントがゆっくりと視界から消える
そしてマントが消え切った瞬間
ふっ…と体を固定した何かがほどけ、体が自由になる
僕はすぐさま彼女がいたところに走ろうと足を踏み出す
けれども一歩踏み出した瞬間
一瞬にして僕は闇に包まれていった
何が起きたのか僕には分からない
助けを求めようと必死に叫んだ
しかしどんだけ叫ぼうと
自分の声がただ辺りに虚しく響き渡るだけで
何も変わらなかった
突然パッと地面がなくなった
僕はそのまま闇に飲み込まれるように落ちる
何の抵抗もできず
僕はただ落ちていった
次第に瞼が重くなる
体の自由が効かなくなり始めていく
そうなってはいけまいと僕は抗う
目をこじ開けて体を無理やりにでも動かした
するとどこからか声がした
自分の名前を読んでいる声だ
思わず僕はその声に反応して
返事を返す
気を緩めてしまったその一瞬の間に
闇は僕の意識を吸い取った
残された殻は
おもちゃの人形のように
見えない糸の力によって
底のない闇の中へ落ちていった