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オジサンデイ

「よし通れ」

 襖が人ひとり分だけスライドする。

「おいおい、やけに簡単だな」

「いまどき、こんな古臭い符号は使わないだろ? だから逆にいいのさ」

 工藤と植木が中に入ると、そこは広間とでも言うべき空間になっていた。

 異様なのはそこにおっさんばかりが所せましと座っている事で、最奥には三人の男が座布団に座っているのが見える。

 さながら、笑点のようであった。

 奥の三人のうち一人は、暴走族としか言えないような出で立ちであり、白地に黒で「仏血斬」などと書かれた特攻服を着ている。なお「観善懲悪」と誤字もちょこちょことまぎれている。

 何より、冗談としか思えないフランスパンのような長さのリーゼントが目立つ。

 その隣には、熊ほどもある大柄の男。真っ赤なパンツ一丁で顔を覆うマスクは、まさにプロレスラーそのものだ。

 さらにその隣には、ひょろひょろとしたスーツ姿の男。

 七三分けの髪と、四角い黒ぶち眼鏡は、ステレオタイプなサラリーマンにしか見えない。

 そんな三人の共通点は、誰も彼年齢は四十前後の中年である点だ。

「なんでえ、あのムキムキマンとかなめ猫みたいなのは?」

「なめ猫? 彼らは、有名オジスタンスの指導者だよ」

 言いつつ、部屋の最後尾に腰かける。

 どうやらまだ話は始まっていないらしい。

 その間に、工藤が三人について説明を始めた。

 特攻服の男が、土器手(どきて)(こう)一郎(いちろう)

 暴走族オジスタンス・銃後(ジューゴ)の二代目総長。通称・ドギー。

 この暴走族は、かつては若者を中心に絶大な勢力を誇っていたのだが、今となっては若者が入ることもなく、四代前の総長であるドギーが復帰してなんとか持たせている有様だったのだが、その彼の復帰でかつて暴走族であった中年が回帰し、一大勢力を持つオジスタンスへと変貌を遂げた。

 彼自身は、かつて機動隊と港で三日三晩渡り合ったと言われる暴走族界のカリスマであり、その武勇伝は枚挙に(いとま)がないと言う。

 レスラー姿の男は、小此木健三(おこのぎけんぞう)

 関節技の悪魔、鬼の小此木などと呼ばれ、かつて一世を風靡(ふうび)したプロレスラーだ。

 現在は格闘技オジスタンス・レッスル(ロード)のリーダーであり、事実上放送を禁じられたプロレスを復古させるべく、ゲリラ興行をしばしば行っている。

 何しろ、男がパンツ一枚というのがもう時代維持法違反なのだ。彼が外を歩くだけで時代維持部隊が取り囲む事態になるのだが、これまでそのパワーとテクニックで返り討ちにしてきた猛者である。

 サラリーマンにしか見えない男は神林(かんばやし)(とく)()という名だ。

 通称、土下座の神林。

 銀行から融資を切られそうになった際に、土下座の姿勢のまま七十二時間ねばり続け、融資を受けた実力者。中東のパイプライン開発にも関わり、テロ組織と交渉した事もある。

 サラリーマンオジスタンス・アフター5のリーダーであるが、これは彼自身が興したわけではなく、頼まれてリーダーに収まったという。。

「……って感じだな」

「……なんつーか、凄ぇな、うん」

 やがて、小此木がマイクを持った。

 なにぶん風体ゆえ、恐ろしく似合う。

 そして、その見た目通り、とても堂に入った演説を始めた。

「諸君、レッスル道の小此木である。このたびは、大蜂起作戦――すなわち「オジサンデイ」の詳細が決まったゆえ、説明させていただく」

 正面の壁にスライドが投影される。

 そこには時代維持部隊の本部である黒い塔が映し出されていた。

「来る日曜、我々はついに蜂起する。虐げられた我々が、今こそ立つ時が来たのだ!」

 そのまま、小此木は作戦について語り始めた。

 オジサンデイはその名の通り、次の日曜、つまり三日後に行われる。

 具体的な作戦内容は以下の通りだ。

 若者が弱い早朝五時より行動を開始し、時代維持部隊本部に突入し制圧。

 時代維持部隊の動きを封じた上で籠城する。

 正面玄関には神林を配置し、土下座で侵入を防ぐ。

 そうして時間を稼いでいる内に、全国で虐げられているオッサンたちが蜂起。

 オッサンを弾圧している現政権を転覆させ、比較的寛容な野党の政権奪取へ繋げる――という計画だそうだ。

「では、これより具体的な人員の割振りについてだが……」

「でひゃははははははははは!」

 馬鹿笑いが響いた。

 それはあまりに唐突で、そして大声だった。

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