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植木長介

「ほっ」

 そして工藤と山東の背中に掌底を突き入れ、気つけした。

「ごほっ、ごほっ……」

 二人ともせき込み、目を覚ます。

「い、一体……」

 目覚めた二人は一様に事態が飲み込めず混乱し、周囲に倒れているジタイを見て更に驚いた。

「あ、あんたがやったのか?」

「ま、成り行きでね」

 人懐っこい笑みを浮かべる植木と対照的に、工藤は怪訝(けげん)な表情を浮かべる。

「あんた……一体何者だ? オジスタンスの人間か?」

「んにゃ。ただのプータローだよ」

 プータローという単語に反応し、倒れ伏す隊員の死語判定装置がピピピと警報音を鳴らした。

「……フッ、久しぶりに聞いたな。その言葉」

 その笑いは、どこか乾いたものだった。

「少なくとも、平気でそう言えるんだ。体制側の人間じゃあるまい」

「学生運動の時代じゃあるめぇし、そんな区分に意味ゃあるめぇ」

 からからと笑う。

「……はは」

 毒気が抜けたように、背中を壁にこすりつけながら工藤は座り込んだ。

 一方、山東は、その目に涙を浮かべて植木に縋りついた。

「な、なああんた! 私達に協力してくれないか!」

「なんでぇ、藪から棒に」

「あんたの強さがあれば、きっと成功する!」

「成功って何がよ?」

「革命さ!」

 山東は満面の笑みで言う。

「近々、各オジスタンス達が一斉蜂起する予定があるんだ! あの時代維持部隊を日本から叩きだす! ……正直、成功するとは思っていなかったけど……あんたがいるなら話は別だ!」

「……」

 一気に、植木の表情が険しくなる。

「ど、どうした?」

「止めにゃならん」

 思わぬ言葉に、山東が目をむいた。

「な、ど、どうしてだい? 君の力があればきっと……」

「それで何が解決するんだい?」

「それは……あの時代維持部隊の圧政が無くなって、オッサンは威厳を取り戻せるはずだ」

「王様の椅子に座ってるヤツが、そいつらからアンタらになるだけだろう。次に女たちが虐げられて同じ事を言ってくる……違うかい?」

「そ、そんなことは……」

 山東が言葉を失う。

「そんな下らねえ椅子取りゲームより、親父が一家の大黒柱として頼れるようになるのが大事なんじゃねえんかい?」

「!!」

 この言葉には、山東も縋る手を放し、へたり込んだ。

 同じように工藤もまた雷に打たれたように体を震わせた。

「……まったく」

 工藤が立ち上がりつつ呟く。

「まったくその通りだ。この人の言う通りだよ山東」

「工藤さん……」

 工藤が山東の肩に手を置く。

「こんな所でくだまいてる俺達が……例え圧政から解放されたって……家族は認めてはくれんだろう」

「……そう……そうですね」

 工藤の手を借り、山東が痛みに顔をひきつらせつつ立ち上がる。

「……すいません。私が間違っていた」

 深々と頭を下げる山東。

「なに、気にすんなぃ」

 カラっとした、その言葉が何より似合う笑みだった。

 既に何度も驚いている二人だったが、植木のその笑みこそ、最も衝撃が大きかった。

「なんて大きい人だ……いや、他人事みたいに言ってちゃダメですね」

 ぱちんと山東が自分の頬を叩いた。

「世間が私らを迫害してるんじゃない。あなたのように器の大きい男でないから頼られないだけなんだ。私も頑張らないと! っと痛てて……」

 膨らんだ腹を引っ込ませ、胸を張ったが痛みに呻く。

 しかし、その顔は脂ぎっているものの、この用水路にたむろする負け犬のそれではなかった。

「ふふ……そうだな。言うじゃないか。俺も……俺も、夢を追って必死に駆けずり回ってたあの頃のように……」

 拳を握りしめる工藤。

 そんな二人の姿を、植木は満足そうに見ていた。

「さぁて、じゃあ、その計画の親玉に合わせてもらおうかい。話つけんとな」

 マントをはたき、植木は踵を返す。

「ま、待ってくれ! 俺にも手伝わせてくれ!」

 言った工藤に、植木は顔だけ向ける。

「当たり前だろ。俺ぁ、そもそも他のオジスタンスなんか知らねえもん」

「……っ! くくっ、なんだろな……アンタからそう言われると、初めて上司から大事な仕事を任された日の事を思いだすぜ」

 会社でも家でも雑用をするだけの日々。

 風化しかかっていた何かが、形を取り戻していく感覚。

 工藤は、湧き立つものを感じていた。

「ま、その前に……」

「その前に?」

「あいつら、運んでやらねえとな。こんなとこに置いといたらカゼひいちまう」

 彼が指を差した先には、綺羅星やジタイの隊員たちが気を失ったまま、冷たい石の床に倒れているのが見えた。

「くくっ……やっぱアンタすげーよ」

「ですね」

 言って二人は、植木と共にジタイの隊員たちを担いでいくのだった――

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