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死語使い

 時代維持部隊の目の色が変わる。

 今の言葉こそ、まさに時代維持法に反する死語。

 既に現行犯逮捕は宣言しているが、これでよりその罪ははっきりした。

 死語の中でもダジャレは更に罪が重いのだ。

 隊員たちが次々と植木に殺到する。

 ゴム弾は効果薄しとみて、徒手空拳による攻撃に切り替え、おのおの拳を握りしめていた。

 その生物的、機械的に強化された剛腕の群れが、植木に命中せんとした時、それは起きた。

 すってんころりん。

 まさにそうとしか言えないほど、綺麗に隊員たちがすっ転んだ。

 壁で後頭部を打ち付け、そのままくず折れる。

「は?」

 なぜ精鋭たる隊員たちが転んだのか?

 答えは簡単。

 バナナの皮を踏んだのである。

「……は?」

 綺羅星は壊れたおもちゃのように呆けた声を繰り返した。

 バナナの皮。

 確かに、ある。

 あるが、先ほどまでそんなものはなかったはずである。

 そうでなければ複数の隊員が、間抜けにも転ぶなどという事が有り得ようはずもない。

「貴様……何をした?」

「記憶にございません」

「……!」

 綺羅星が顔を真っ赤にして飛びかかる。

 彼女の強化された肉体は、僅か一歩で間合いを詰め、そして伸ばされた右手はそのまま移動の勢いを破壊力へ変える必殺の突きとなる。

 ……はずだった。

「君たちナイコン族」

 植木がそう呟いた瞬間、綺羅星は自分の体が重くなるのを感じた。

 それが衣服に縫い込まれた金属筋繊維の制御が失われ、ただの重しになったという事に気づく間もなく――

「芸術は爆発だ!」

 瞬間的に巻き起こった爆発に、彼女の体は背後に吹っ飛ばされた。

 勢いよく吹っ飛び、丁度入口のドアを越え、水路を横切り、そのまま壁に叩きつけられる。

「がふっ……!」

 その衝撃に、壁を背中でこするように崩れ落ちて行く。

 金属筋繊維が無かろうと、彼女の肉体はバイオテクノロジーで強化されている。

 筋力も骨格も、常人とは比較にならない。

 そんな彼女が全く動けなくなっていた。

「バ、バカな……」

 そもそも何が起こったのかわからない。

 植木は何もしていないのだ。

 爆発物を投げたわけでもなく、火種すら出しておらず、もっと言えば動いてすらない。

 まさか――

 今度彼女の脳裏に浮かんだのは、ある突飛な噂。

 時代維持法違反の死語を使い、その言魂によって超常現象を起こす“死語使(しごつか)い”。

 噂にしても突飛な内容だ。

 環境の激変や弾圧の影響で超常的な能力を身に付けたオッサンは少なくない。

 だが、それにしてもほとんどが物理学、生物学の範囲内の能力で、水面を走るだとか、壁を走るだとか、工藤のフロッピー手裏剣のように達人技といった範疇(はんちゅう)のものだ。

 しかし、ごく稀に科学の常識を超える者がいるという。

 その最たるものが“死語使い”であり、それが実在するとなれば、バナナ関連の死語でバナナの皮を召喚する事も、爆発関連の死語で爆発を起こす事も出来る……?

「……嘘だ……いるわけが……ないっ……! “死語使い”……などと……」

 綺羅星はその言葉を最後に、真横に倒れ、気を失った。

「……」

 植木はそれを無言で見つめてから、未だ倒れ伏すオッサンたちの元へ向かう。

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